2 謁見
桜国に到着した。
接舷する船から見える景色は今までに見たことがない景色だ。
西洋や央域の文化の影響を受けつつ独自の文化を育んでいることが見える。
ここに来るまでに勉強した教本などに載っていた寫眞、紙に風景を写し撮る技術でしか見たことしかなかったが実際に見てみると感動はひと塩だ。
「ユーミリア様、上陸の手続きを行いますのでこちらに。」
「ええ、リュージ。やっとね。
長い航海だったわ。」
私はリュージに誘われ、上陸許可の係官の所へ向かう。
なんでも、今は世界を、国々を移動するには旅券なるものが必要になる場所が大勢を占めるらしい。
私がいたユグドラシルには勿論そんな概念なんてない。
だから私はこの国の賓客として身元を保証するという特別許可を得ているらしい。
何やら係官がリュージに渡された紙を見て私に平身低頭で、丁寧にサインを求めてくれる。
それにサインして、晴れて数ヶ月ぶりの大地を踏みしめた。
「あーぁ。やっとね。
大地の精霊の力なんて久しぶりに感じるわ。
今までは海精ばかりだったからね。」
「左様でございますか。
ユーミリア様にはハッキリと感じられるのですね。
私は感じているのかなぁ、と言ったくらいのものです。」
そんな話をしながら彼は私を精霊気筒車に案内する。
西洋で馬車の代わりに発明されたこれは、瞬く間に世界に広がっていったらしい。
私も西洋の街に行った時に何度か見かけたことがある。
だが、乗ったのはユグドラシルを出た時が初めて。
それも乗合の長距離バスだ。
今、目の前にある車はそのどれらとも趣を異にする黒光りする如何にも貴人向けのものだ。
運転手がドアを開け、私とリュージを乗せてくれる。
「わっ。」
「どうかされました?」
「すごく座り心地がいい。あのバスの座り心地を想像していたもの。
まるで、船の部屋にあったソファみたい。」
「ええ、それはもう。
これは貴人向けの車です。内装もそれに応じた物になります。しかし、大衆車も最近はそれなりに座り心地は良いらしいですよ。」
バスの座席はクッションはあったが、お世辞にも座り心地は良くなかった。お尻が痛くて仕方がなかった。
私は思い出して苦笑する。
リュージも理解してくれたのか、苦笑を返してくれた。
それからは、初めて見る街並みを眺めながら、私を呼んでくれたこの国の王、帝と陰陽大臣が待つ宮城に向かった。
しばらく西洋風の石造のビルが立ち並ぶ区画を通り、それが過ぎたら桜国風の、和風と言うらしい大きな屋敷が多く立ち並ぶ区画に入る。
ここは西洋で言う王侯貴族にあたる公家と呼ばれる階級の屋敷が集まる区画だとリュージが教えてくれた。
なんでも、リュージの屋敷もこの辺りにあるそうだ。
私に対しては燕尾服で恭しく対応してくれている彼もこの国では有力公家の跡取りらしい。
一応、ハイ・エルフの氏族とは言え末席も末席、虐げられてきた私だ。世界一の大国の有力貴族の跡取りでは家格、財力など全てにおいて格が違う。実際には私の方が傅かないといけないのではと何度も彼に聞いてみたが、貴女様は末席とは言え、高貴なハイ・エルフ、エルフひいては亜人種全てを統べる氏族の姫です。そのような事を申さないでください。私も困ってしまいます。と、ひどく恐縮されてしまった。
そのうち大きな白い砂利が敷き詰められた広場を過ぎ、大きな質素だが力強い門を通る。
「うっ!?」
精霊の気配が変わる。物凄い圧力だ。
門の中は結界であり、相当強大な精霊の力が封じ込められている。
「大丈夫ですか?」
「ええ。大丈夫。すごい精霊の力ね。」
「やはりお分かりになられますか。神桜樹、この国の守護されている精霊様を。」
神桜樹、この国を桜国たらしめる精霊。
神代よりユグドラシルの神樹の精霊と並び世界を見守ってきた精霊だ。
世界には何本かこのような神樹があり、そこには神代からこの世界を見守っている精霊が宿っている。
そして、その力を身に宿し行使できるのがハイ・エルフであり、この国の皇族、高宮一族など、神樹と共に生きる一族だ。
「でも、見たところ神樹が見当たらないわね。これくらいの力のある樹はユグドラシルにも何本かあったけどとても大きかったわ。」
「そうですね。私もユグドラシルに赴いた時に大変驚きました。神樹とはこうも偉大で巨大なものなのかと。」
「そうね、ユグドラシルの樹々はそういうものだからね。私は神桜樹は大きな桜の木だと思っていたわ。」
「はい、それは間違いありません。この桜国の神樹は普段は大地と一体化してこの国に精霊の力と守りを与えてくれます。そして、年に一度だけ姿を顕されるのです。」
「ああ!教本にあった桜舞の月ね。」
「はい、その通りです。私どももその点しかお伝えしておりませんでしたので、申し訳ありません。」
「いいわよ。互いに神樹のイメージが異なっているんですもの。」
「そうですね。」
車が止まり、和風の宮殿と思われる建物の中に案内される。
この国は建物に上がる際は靴を脱ぐと聞いていたが、実際になると普通に上がろうとして注意されてしまった。
そんなことがありながら、幾人もの召使の女性、女官というらしい。に連れられて謁見の間に通された。
ここは懐かしい感じがする。多分この謁見の間は神樹の木材を使用しているのだろう。
精霊の密度が圧倒的だった。そして、私が慣れしんで来た神樹の感覚がする。
しばらく待っていると、二人の男性が入ってきた。
一人は目が見えないらしく、杖を突いた壮年の男性。
もう一人はやせ細ってはいるが力強さと知性を感じさせる老人だった。
「ようこそ、桜国へ。ユグドラシルがハイ・エルフの姫、ユーミリア殿。
私が桜国の帝、高宮 永桜。そして、ここに控えているのが陰陽大臣の堂満
寿だ。」
「ご丁寧にありがとうございます。わたくしはユグドラシルを統べるハイ・エルフが氏族、ピニアティスの姫、ユーミリアです。この度は末席の姫たるわたくしをお招きいただき光栄に存じます。」
「ふむ。ここまでの間に桜国語を勉強為されたようで、しっかりとお話されており感心じゃの。」
「はい、陛下。リュージ達が良き師でありました。」
「そうか、鬼頭のせがれよ。此度はよく大役を果たしてくれた。大儀じゃった。
褒賞は追って沙汰す。今は控えの間に下がっておるがよい。ここからは私と姫、堂満が重要なことを話す故な。」
「は、有りがたきお言葉。これからも変わらぬ忠誠を。」
そう言ってリュージは控室に下がる。
扉が固く閉ざされたのを確認してから陰陽大臣の堂満様が口を開く。
私をここまで誘う占いをし、導いた人だ。一体、彼は何を占い、未来を見たというのであろうか。
私に何を求めているのか。
「姫にお越しいただいたのにはいくつか理由がございますが、何よりも問題なのは神樹が壊死し始めているのです。そして、それを鎮めるための巫が精霊を感じることが出来ないのです。」
とてもじゃないが私では到底太刀打ちできない事柄が発せられた。
私は訳が分からず、立ち尽くした・・・。
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