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この恋の終わり方  作者: ロッドユール
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戻る日常

「いらっしゃいませ~」

 私は、また、いつもの日常を生きている。日々生きていくために、スーパーでレジを打ち、時給八百九十円で働いている。

 彼の死という特別なことがあっても、私の生活は何も変わりはしなかった。私の日常も何も変わりはしなかった。私は相変わらず、どんくさい失敗ばかりの労働者で、残り物の食品や、パートのおばちゃんたちの昨日の夕飯のおすそ分けで生きている。

 私は何も変わっていなかった。悲しいくらい何も変わっていなかった。

 今日はお昼で終わった仕事の帰り、川沿いに植えられた桜並木に咲く桜の花の下を歩く。春のとても、幸せな陽気が、私を包み込む。

 彼と見るはずだった桜。もう一年、もう半年、せめてもう少し、彼が生きてくれていたら、何かがもう少し変わった気がして、そんなこと言い出したらきりがないけれど、でも、あまりに早過ぎる彼の死がやっぱり悔しくて、私は、やっぱり傷ついている。

「何だったのだろう」

 私は、満開の桜を見上げ、彼とのことを振り返る。

 世界から見たらちっぽけな、とるに足らないどうでもいい変わり者の二人だったのかもしれない。死んだっていなくなったってどうでもいい存在だったのかもしれない。でも、私たちは出会い、そして、恋に落ち、愛し合い、必要とし合った。お互いを心の底から必要とし、お互いの存在を大切にし、お互いの存在を心の底から共感し合った。

 そのことは、そのことは・・、そのことも意味はないのかもしれない。でも、でも・・、私たちは一人じゃなかった。そう、一人じゃなかった・・。その瞬間があった。そんな瞬間があった。それは確かにあった。そんな時間があった。そんな時が確かにあった。

「・・・」

 そう、そんな時間があったのだ。

 ふと、こんな瞬間に、彼が死んだことを実感して、私は今一人だと気づく。そして、本当に終わったんだとあらためて実感する。

「こんな終わり方だったんだね」

 彼と私の恋はこんな終わり方だった。惨めで悲しい終わり方だった。それは誤魔化しようのない事実だった。

「・・・」

 私は今、一人だった。

「あっ」

 その時、ふと道路の方を見ると、路上に猫が倒れているのが見えた。多分、車か何かに轢かれたのだろう。駆け寄ると、まだかすかにお腹が動いていた。しかし、もう助からないのは、その状態を見てすぐに分かった。

「・・・」

 彼が以前、猫の首をひねって殺した場面を思い出す。

 私はしゃがみ込み、その猫の頭に手を伸ばす。猫の頭は小さく、そして、温かかった――。

 ぎこちない手の先の感覚に徐々に力を込めていく・・。

「・・・」

 私にはやっぱりできなかった。

「出来ないよ。そんなこと・・」

 季節は命輝く春だった。目の前の死どころか、すべての死がどこかへ吹き飛んで行ってしまうくらい、世界は容赦なく生に輝いていた。



                                おわり

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