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この恋の終わり方  作者: ロッドユール
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彼のいない世界

 彼が最後の命を懸け、必死で描き上げた絵は、彼が死んだ後すぐ、道路の拡張工事の影響で壁ごと壊され解体された。

 私にはどうすることも出来なかった。もともと不法な絵だったし、誰かに依頼されたわけでも、まして評価されたわけでもない、彼が公共の壁に勝手に描いていた絵だった。

「・・・」

 壊され、砕かれ、ただの瓦礫となり果てた彼の必死で描き残した絵を私は見つめた。

「・・・」

 彼が生きた意味とは何だったのだろう――。彼が存在した理由とは何だったのだろう――。

 私たちが出会った意味とは何だったのだろう――。私たちが恋した意味とはいったいなんだったのだろう――。

「・・・」

 寂しいはずなのに、あまりに寂し過ぎてなのか、心が凍ってしまったみたいに、私の心は何も感じなかった。

 もしかしたら、あまりに辛い経験をしたせいで、私の心は死んでしまったのかもしれない。そんなことを思い、一人不安になった。

「・・・」

 彼が最後に必死で残した絵も、壊され消えてしまった。もう、私には何もない。やっとたどり着いた彼という存在も消え、そして、彼の残した絵も消えてしまった。彼のすべては消えてしまった。

「会いたい・・」

 彼に会いたかった。堪らなく会いたかった。

「会いたい・・、彼に会いたい・・」

 彼に会いたかった。もう一度、もう一度、彼に会いたかった。もう一度、彼のあのやさしいのんびりした笑顔に触れたかった。

 しかし、寄るべないこの身の悶えを、結局どうすることもできず、私は寂しさの混沌の中に引き裂かれていく。

「うううっ」

 私はまた一人になってしまった――。たった一人、この殺伐とした冷たい世界に取り残されてしまった。その容赦なく突きつけられた現実がさらに私を引き裂いていく。 

「うううっ」

 その時、突然、何かの堰を切ったように、猛烈な大洪水のような悲しみとも寂しさとも怒りともよく分からない感情がないまぜになったような感情が溢れてきた。

「うわ~ん」

 私は突如として泣いた。大号泣した。

 彼が死んだ時に感じることのできなかった、心の奥底に封印されていた悲しみが、やっと、やっと、私の中に溢れるように湧き上がってきて、それが、涙として体外へと溢れ出た。

「うわ~ん」

 彼が死んでしまった。彼がいなくなってしまった。彼は冷たく、病室のベッドに横になっていた。もう、あの気さくな感じで私に話しかけることもなく、笑顔を向けることもなく、一緒に歩くこともない。彼は死んでしまった。

「うわ~ん」

 彼は死んでしまった。私はまたこの世界に一人になってしまった。私はこの広い世界にたった一人になってしまった。

「あのおねえちゃんなんで泣いてるの~?」

 近所の人や、時折通り過ぎる人たちが、一人号泣する私を奇妙な目で見つめていく。

 でも、私はかまわず泣き続けた。

「うわ~ん、うわ~ん」

「うわ~ん、うわ~ん」

「うわ~ん、うわ~ん」

 泣き過ぎて死ぬんじゃないかってくらい泣いた。

 そして、そんな大洪水の涙も枯れかけた頃、私は空を見上げた。

「・・・」

 彼のいない世界がそこにあった。彼のいない世界――。そこはただ彼のいない世界だった。

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