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この恋の終わり方  作者: ロッドユール
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河川敷

「河川敷に散歩に行かないか」

「うん」

 私たちは二人で外へ出た。

「あっ、ちょっと」

「どうしたの」

 アパートから出ようとした私の背後で、彼が立ち止まった。そして、彼は、一階に住むおばあさんの部屋の戸をノックした。

「こんにちわ」

 中から声がすると、彼は勝手に扉を開けた。鍵はいつも掛かっていないようだ。

「なんか買ってくるものある?」

 彼が首を突っ込むようにして、奥に向かって叫ぶ。

「ああ、ありがとう。じゃあ、いつもの大福買ってきてくれんかね」

 その向こうから、おばあさんが顔をのぞかせた。

「うん、分かった。五個入りの草餅のやつね」

「そうそう、ありがとうね」

「いいんだ」

 彼は扉を閉めた。

「さ、行こう」

「どうして?」

 私は彼に訊いた。

「いつもついでに買い物してきてあげてるんだ。足がないから、買い物も大変らしいんだよ」

「へぇ、いいとこあるじゃん」

「見直しただろ」

「うん、見直した」

 私たちは笑った。

 河川敷は広く、そこだけでちょっとした運動場程の広さがあった。実際運動場になっている面もいくつかあり、そこでは子どもたちが野球やサッカーなどに興じていた。

「おうっ」

「やあ」

 河川敷を歩いていると、どこからともなく声がして、それに彼が答えるようにして右手を上げる。見ると、川端あたりに、テーブルを囲んで人が固まって座っている。

「誰?」

「ここに住んでるホームレスの人たちだよ」

 河川敷には、たくさんのホームレスの人たちが住んでいた。それぞれが小屋やテントを建て、小規模なコミュニティを作っている。

「ちょっと、寄ってきな」

「うん」

 私たちは、テーブルを囲むホームレスの人たちの輪に入れてもらった。そこには老若男女色んな人がいた。中には真っ赤な髪をしたモヒカン頭の人もいる。なんともバラエティ豊かなメンバーだった。

「ビール飲むか」

 リーダー格っぽい、真っ黒に日焼けした痩せたおじいさんが言った。

「ビールはいいよ」

 私たちは笑った。まだ真昼間だ。さすがにそれは気が引けた。

「じゃあ、ラムネだな」

 そう言うと、おじいさんは河の方に行って、河から紐につるした網籠を引っ張り上げた。中には、缶ビールやらジュースやらがいっぱい入っていた。

「ほら、よく冷えてる」

 おじいさんはよく冷えたラムネを二つ渡してくれた。

「ありがとう」

 私たちはラムネをそれぞれ受け取った。

「うまい」

「うん、おいしい」

 ラムネはよく冷えておいしかった。

「ラムネ飲むのすごく久しぶり。子どもの頃の縁日以来かな」

 私が言った。

「僕も久しぶりだな」

 彼が言った。

「かわいい彼女だな」

 おじいさんが私を見て言った。

「うん」

 彼は少し得意げに答えた。私はぺこりと頭を下げた。

「今日はなんの話をしてたの」

 彼がホームレスの人たちに訊いた。

「景気悪いなって」

 隣りの太って頭の禿げた若者が言った。

「ま、俺たちに景気は関係ねぇけどな」

 痩せたおじいさんが言った。

「そうそう、落ちるとこまで落ちてるからな」

 前歯のないおじさんが言うと、そこでみんな笑った。私たちも笑った。みんな明るかった。

「そうそう今度の日曜、ここにおいでよ。焼肉大会やるんだ」

 前歯のないおじさんが言った。

「うん」

 彼が答える。

「そうそう、でっかい肉の固まりもらったんだ」

 赤いモヒカンの青年が言った。

「何の肉?」

 彼が訊く。

「猪?」

 モヒカン青年が歯無しおじさんを見る。

「いや、日本ジカ。足一本丸々だから」

「へぇ~、すごいね」

「うん」

 おじさんは得意げに答えた。それをどこから手に入れたのだろうと、私は疑問に思ったが、それは訊かなかった。

「ぜったい来なあかんよ」

 はす向かいに座っていた歯のない小柄なおばあさんが、その顔をくしゃくしゃにして笑顔で言った。

「もったいにゃあで」

「うん、絶対来るよ」

 彼は私を見た。

「うん、絶対来ます」

 私も答えた。おばあさんはそれを聞くと、さらに歯のないその小顔をくしゃくしゃにして、くしししっと笑った。

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