痛み
「足をもんでくれないか」
「うん」
私は彼のふくらはぎを揉んだ。筋力の衰えやせ細ったふにゃふにゃのふくらはぎだった。その表面にはいつの間にできたのか、お年寄りの肌にあるような黒いシミのようなものが、斑点のように広がっていた。
「痛いの?」
「うん」
彼が力なく答える。
「死ぬなら早い方がいいな」
彼がぼそっと言った。私はドキッとする。彼は仰向けに寝たまま天井を見つめていた。
「・・・」
私は何も言うことができなかった。励ます言葉など薄っぺらいし、理屈をこねても意味がない。希望を語る言葉は、希望自体がなかった。
「話を聞いたんだ」
彼が天井を見つめたまま言った。
「何の話?」
「僕と同じガンの方の遺族という人に、亡くなった時の最後の経過を聞いたんだ。たまたま病院で隣り合わせてね」
「・・・」
「それは壮絶なものだったよ」
「・・・」
「僕には耐えられそうにない」
「・・・」
「聞いているだけで、恐ろしくて気を失いそうになったよ」
彼は震えていた。
「・・・」
私はやはり、何も言えなかった。何か言いたいけど、彼を元気にする言葉を言いたかったけど、何も言えなかった。何も・・。
チュン、チュンチュン、チュン
悲壮な沈黙の流れる病室に、窓外の雀たちの陽気な鳴き声がやけに響いた。
「僕を弱虫だって思うかい?」
「ううん、思わないわ」
私は震える彼を抱きしめた。私にはそれしかできなかった。それしか・・。




