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この恋の終わり方  作者: ロッドユール
18/41

病院

「何読んでるの?」

 彼は何かを一生懸命読んでいる。

「雑草の神秘」

「ざ、雑草?」

 なぜ突然雑草?彼は興味の対象がコロコロ変わる。この前は、糞虫だった。やはりの彼の世界観はよく分からなかった。

「何気に普段見ている雑草も、実はなかなかすごい奴らなんだ」

 しかし、彼はおもしろそうに読んでいる。

「体調は?」

「うん、なんだかいい感じだよ」

「よかった」

「気のせいだったのかな」

「絵を描き過ぎたのかもね」

「うん、多分そうだよ。夏バテだよきっと。ちょっと炎天下で絵を描き過ぎたんだ」

「そう、よかった」

 私はあらためてほっとした。


「やっぱり、なんかおかしいんだ」

 しかし、その次の日、彼が力なく言った。

「そう・・」

 私も心配になる。私は彼の額に手をあてた。

「ちょっと、微熱がある感じ」

「うん、なんか熱っぽい」

「今度は違うとこ行ったら」

「うん」

「駅前に新しいとこできたじゃん」

「うん」

 私たちは駅前に新しくできた北野医院に行ってみた。

「何だって?」

「やっぱり風邪だって」

 診察室から出て来た彼が言った。

「よかったじゃん」

 しかし、彼は全然納得していない様子だった。

「・・・」

 その様子を見て、私もなんだかおかしい気がした。

「やっぱり、なんかおかしい?」

 私の隣りに座ろうとする彼に訊いた。

「うん・・」

 彼はやはり何か違和感を感じているらしい。

「また別のお医者さん行ってみる?」

「うん・・」

 今度は、少し大きな町の病院に行ってみた。

「何だって」

「風邪だって」

 やはり診断は同じだった。

「僕がなんか違う気がするって食い下がったら、ストレスか心の問題かもしれませんだって・・」

 彼がぼそりと言った。彼はその医者の診断にまったく納得言っていない様子で、少し不満気にしている。

「心因性の病気ってこと」

「うん、そういうことだろ」

「・・・」

 それは考え難かった。彼ほど自由気ままに天真爛漫に生きている人間はこの日本にはそう居ないだろう。ストレスとは一番無縁な存在だ。私もなんだか、医者に対する不信感が出て来た。

「安定剤飲んだら治る場合もありますよだってさ」

「・・・」

 それに私と付き合うようになってから、ここ最近彼はとても明るい。

「大きな病院行った方がいいんじゃない」

「うん・・」

 次の日、朝一番で隣り町の市民病院に行った。

「どうだった?」

 彼が診察室から出て来た。

「なんか、一通り検査するって。だから一日かかるよ」

「そう、私待ってる」

「いいよ、先帰っても」

「ううん、待ってる」

「そう」

 頑なな私に折れる形で彼は呟くように言った。私は待合所のベンチシートでひたすら彼を待った。

「ふぅ~、疲れたよ」

 昼をかなり過ぎた頃、やっと彼はくたびれた様子で、待合所まで帰ってきた。

「結果は?」

「一週間後だって」

「そう、すぐ出ないんだ」

「うん」

「じゃあ、来週また来ないとね」

「うん」

 私たちは会計を済ませると、病院を出た。

「検査どうだった」

「もうあっちこっちいじられたよ。もうやだねあれは。二度としたくないよ」

「はははっ」

 彼の心底疲れたと言った表情がおもしろかった。

「きっと大丈夫だよ」

 私は言った。

「うん」

 それに力なく彼が答える。

「そういえばお昼食べそこなっちゃったね」

「ああ、そうだな」

 もうお昼はだいぶ過ぎていた。

「今晩何食べたい?なんでもいいよ」

「う~んそうだなぁ。焼きそばかな」

 彼は少し考えてから言った。

「もっと、高いのでもいいよ。検査で疲れたでしょ」

「う~ん、そうだなぁ」

 彼はしばし考える

「やっぱ焼きそば」

「はははっ、安上がりだね。私たち」

「ああ、そうだな。はははっ」

 私たちは高く高く上る太陽の下、家までの道のりを笑いながら二人歩いて行った。私たちの世界はまだこの時、光り輝いていた。

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