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ギルドに着くとかなりの人で賑わっていた。どうやら冒険者は朝が早いらしい。掲示板で依頼を探す者、受付で話している者、酒場の方で打ち合わせの様なことをしている者達。中々に勤勉な様だ。
昨日の受付のお姉さんのところの人が途切れたところで声をかけに行く。
「お姉さん、今日も獲物を売りたいんだけど奥に行けばいいか?」
「昨日あの後討伐してきたのですか。一応GランクなのですからFランクの依頼を受けてほしかったのですが…分かりました。またオークが出たんですか?」
「まぁ、そうだな。出せば分かるよ」
小首を傾げる受付嬢と共に裏の解体場に行き、昨日の職員に挨拶する。
「じゃあ、出すぞ」
一言断ってから次々とオークを出していく。
15匹を超えたところで、
「ちょっと待ってください!どれだけ倒してきたんですか!?」
「あと8匹とハイオークが1匹、狼が12匹だな」
「そんなに…。分かりました。全部出した後、もう一度受付に来てください。必ずですよ!?」
足早に受付嬢はギルドに戻っていった。
「兄ちゃん、無茶苦茶だな…。昨日の午後からでこんなに出会すなんて運がないのか?まぁいい。査定に時間が掛かるから先に向こうの用件済ませてきな」
呆れ顔の職員に見送られてギルドに戻り、受付に来たが先程の受付嬢は見当たらない。仕方ないので依頼票を眺めていると、
「あ、もう戻ってたんですね。少しお話があるので上にお越しください」
奥の階段から降りてきた受付嬢に呼ばれ、付いていくことに。
二階を通り過ぎて三階の奥の部屋に案内されたが、扉の上にはギルド長室の文字が見える。
「ギルド長、先程お話した冒険者をお連れしました」
「通してくれ」
案内されるままに中に入ると隻腕の大男が四苦八苦しながら書類仕事をしていた。
「お前がオークを25匹以上狩ってきた新人ってやつか。…茶を頼む。まぁそこに座ってくれ」
執務机の前に置かれた応接セットのようなところの椅子に座り、対面にギルド長が座る。
「改めて俺がギルド長のベイザだ。一応元A +の冒険者をしていた。今は腕がこんなんだから引退したがな」
「俺はヴァン。Gランク冒険者。…っていう自己紹介でいいのか?冒険者に成り立てだからそれらしい挨拶は勉強中だ。…で、なんで俺は呼ばれたんだ?」
「挨拶はまぁいい。呼んだ理由だが、まぁ当然オークの群れの話だな。あの数と出会したなら大集落が出来ている筈だ。話を聞かにゃならん」
どうやら何かやらかした訳ではないらしい。
「ああ、そういうことか。なら大丈夫じゃないか?小さい集落のようなところだったが提出した分で恐らく全部だ」
と、伝えるとギルド長は腰を浮かべ、
「なに!?各個撃破ではなく群れと戦ったのか!?」
「寝込みを襲っただけだ。ハイオーク以外はまともに戦っていない」
応えれば少しは落ち着いたのか座り直す。
「ウルフの群れも倒したと聞いたから群れと戦ったのかと思ってしまったな…。それでもハイオークを倒して、未然に集落の拡大を防いだ、か。Gランクのままにはしておけんな。集落後はどうした?」
「どうしたも何もそのままだが?」
「よし、それならギルドから指名依頼として護衛を頼む。と言っても実質は道案内だ。それを持ってランクを上げよう。受けてくれるな?」
強い眼力で睨まれ、断る気もなかったがそのまま流し、
「ああ、構わない。で、ランクはどうなるんだ?」
「そうだな。事実確認が済めばDランク…だな」
ギルド長の発言に驚きを隠せない。
「オークの寝込みを襲って回っただけでDランク?いいのか、そんなもので」
「まぁD+までは実力さえあれば問題ない。それにハイオークとサシで戦うならCランクが妥当なところだ。あとはギルドの信頼と実績を積んでくれ。まぁ今のところは優秀そうな魔法が使える斥候…と言ったところか?まぁ頑張れ。あと依頼は明日の朝一番にギルドに来てくれ。此方も人選をしておく」
「了解した。用件は以上でいいか?」
「ああ、よろしく頼む」
適当に挨拶をしてギルド長室を後にする。一階で受付に寄って買取料金を受け取る。狼の傷が少なく毛皮の状態が良かったことでいい値段になったようだ。締めて小金貨1枚、大銀貨5枚、銀貨5枚也。今更だが貨幣は十進数で桁が変わると貨幣も上へとなる様だ。
(さて、金は入ったがどうするか。血刃は人前では使えないし武器を買うか、防具を買うか。相場が分からんからなぁ…。先に昨日の服屋に行くか)
そうと決まれば急げとターニャ服飾店へと向かった。
「おや、いらっしゃい!まさか昨日の今日で金が入ったのかい?」
今日も元気なおばちゃんである。
「まぁそんなとこだ。とりあえず相場が分からなかったから聞きにきた」
「なるほどねぇ。そうさね、お兄さんのランクはいくつだい?」
「…Dになるところ、かな?まぁそのくらいだ」
まだなっていないので濁してしまう。
「はっきりしないね!…まぁいいさね。それで服系の防具と昨日は言ってたけどどんなものがいいんだい?やっぱり魔法使いはローブかね?」
「俺は近接戦闘も多いからロングコートの様なものがいい。内側にナイフとか仕込みたいな。後は丈夫なズボンと靴、ベルトも欲しいな」
おばちゃんも呆れた様で、
「ほとんど全部じゃないか!でも全部をうちで揃えてくれるってのは嬉しいことさ。幸いウチは靴も作るしね。でも革鎧とかじゃなくていいのかい?」
「構わない。動きやすい方がいいんだ。それでいくらくらいになる?」
「丈夫で動きやすい、ね。余計な付与や注文を付けなければ全部で大銀貨4枚ってとこさね」
余計な付与や注文と言うのが何かよく分からないが思ったより安く済みそうだ。
「分かった。なら大銀貨5枚で良い様に計らってくれ」
と、カウンターに大銀貨を置く。
「先払いでいいのかい!?なら期待に応えちゃおうかね!まずは採寸さ。さ、奥にきとくれ」
カウンターの奥の作業場で全身の採寸をされる。体型はもう変わることは無いだろうと思い、測った数字をメモしたものを貰うことにした。
「全部出来るまで15日ってとこだね。それでいいかい?」
「ああ、構わない。よろしく頼む」
「腕が鳴るよ!」と言いながら奥に引っ込んでしまったおばちゃんを見送り店を出た。
(あとは武器か。しまったな、オススメの店を聞けばよかった。あの調子じゃもう聞けないしな…)
(マスター、一応私からオススメの店がありますがどうしますか?)
(ヘルメスのオススメ?どういうことだ?)
(昨日歩いた範囲にある店は3軒でした。その中に少し見えたのがドワーフだった店が1軒あります。そちらはいかがでしょう?)
異世界の定番ドワーフと聞いて間違いないと思いヘルメスの勧めに従うことにした。脳内ナビに従って南東の方へ行くと鍛治工房の音が聞こえてきた。他の音も多いので昨日は意識しなかったようだ。
音とナビを頼りに行くと看板はないが扉を開け放たれた工房で、手前が店舗になっている様だった。
「邪魔するぞ!」と叫んでから入るが返事はなく音が途切れない。勝手に見させてもらうとしよう。
しかしてヴァンには別に武器の良し悪しが分かる訳ではない。ならばと得意の魔力で辺りを探ると入り口側から奥にかけて魔力の強さがグラデーションの様になっていた。
思わず見惚れていると奥から、
「何じゃ、客か。何か気に入ったものでもあったか?」
と声をかけられる。いつの間にか音は止んでいた。
「いや、気に入ったというより配置に見入っていた。俺は武器の良し悪しは分からんが綺麗だと感じた」
「ほう、魔力視か?ワシには見えんが出来に応じて並べておる。ワシの武器の良し悪しは魔力によるものじゃからな。それが分かるなら十分じゃろう」
説明を流し聞きながら奥から順に見ていく。目に魔力を強めてよく見ていくと一つ気になる槍があった。
「おやっさん。この槍、なんか特別な素材使ってない?なんかしっくりくる魔力だ」
「ほう…。それはエルダーカーストレントの木を芯に使った槍じゃ。外側に薄く銀を巻いて呪いを抑えておる魔槍に近いものなんじゃが、状態異常強化の効果なぞ槍使いには使いづらくてな。ある意味失敗作じゃよ」
「なるほど…。これ、いくらだ?」
「聞いても使いたがるか…。素材は貴重なんでな、小金貨1枚は欲しいところじゃ」
「買おう」勿論即決である。
「まぁ買ってくれるなら文句はないわい。ただ整備は気をつけるんじゃ。他の鍛治師に頼む時も芯材は伝えておけ」
「わかった」
カウンターに小金貨を置き槍を構えてみる。やはりしっくり来る。ナイフや剣を持った時とは違った感覚で槍が自分に使いやすいのかと錯覚するほどだ。
「良い買い物だったよ。あと、手持ちがないから今は買えないんだが投げナイフが何本か欲しいんだがあるか?」
「その槍をそこまで褒めてもらえたんじゃ。数打ちのものでよければ持っていけ」
おやっさんに礼を言いまた来ることを約束して店を出ることにした。
この後の酒が旨そうだ。…まだ昼だが。