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ダイナスと別れたところで再度ギルドに戻った。入り口から正面の掲示板へ向かい、Gランクの依頼票を眺める。荷運びやドブ掃除、子守なんかの街中で出来ることしかないみたいだ。
「定番の薬草採取でもあれば納品したのにな…。外にでるのはFランク以降か」
諦めて再度受付のお姉さんに声をかける。
「聞き忘れてたんだけど上のランクの依頼を受ける方法って何かない?」
「ご自身のランクの一つ上までなら依頼を受けられますよ。あとは常設依頼に限り二つ上まで受けられます」
「そうだったのか。じゃあ薬草の納品をしたいんだけどいいか?」
「かしこまりました。カウンターの左端が納品受付になります」
礼を言って端の方にいるお兄さんに声をかける。
「常設依頼の薬草の納品お願いします。これ冒険者証ね」
冒険者証を出してからカウンターに手で影を作りそこからカイー草をどんどん出していく。
「おっと、結構な量があるね。それにどれも新鮮だ…。えーと、うん。依頼4回分だね。少し多い分は査定にプラスしておくよ。この札を受付に持っていけば完了手続きしてくれるから」
木札を受け取って再度受付に行って手続きを頼む。
「それとお姉さん、この辺でオススメの宿はある?まだ今晩の寝床を決めてないんだ」
「手続き完了致しました。宿でしたら左に二件行ったところがギルドと提携してますので冒険者証を見せると少しサービスしてくれますよ」
もう一度礼を言って今度こそギルドを後にした。教えてもらった宿を見ると…ジョッキの看板で宿には見えない。
「お姉さんが騙すとも思えないし行くかぁ」
中に入ると普通に酒場のように見え、まだ午前中だからか客はいない。奥の強面の店主がいるだけだ。
「ここが冒険者ギルド提携の宿って聞いたんだけど空いてる?」
店主が片眉を釣り上げ、
「確かにここは宿で、空いてるぞ。一泊大銅貨5枚、食事は別だが湯はいくらでもやる。冒険者ならここで一杯サービスで飲めるぞ」
「じゃあとりあえず10日で頼む」
銀貨を5枚カウンターに置くと鍵を渡される。
「二階の一番奥の部屋だ。出かける時は鍵を俺に預けていけ」
「なら先に用事を済ませてくるから後で鍵は受け取るよ」
鍵を受け取らずに店を出た。
(金持って買い物行くと使っちゃいそうだしな。まずは武器と防具…というか服かな。あとは日用品を見るか)
店を出てギルド前の大通りを周りを見渡しながら歩いていく。来る時も軽く見たがこの通りは店ばかりの様だ。
(一通り歩くからマップ頼むぞ、ヘルメス)
(了解です、マスター。ちなみに門の方向に雑貨屋があったのでそこを終点に歩いては?日用品がなくては一泊するのに汚れたままですよ)
ヘルメスの言葉に顔を顰めながらも遠回りに門に向かう事にした。
マップを参照しながら見るとカールステイの街は東西南北の真ん中に門がある四角形の街の様だ。冒険者ギルドがある中央、西には領主の館を含む住宅街、東は商業関係が多い。厳密に決まっているわけではなさそうだが。
東側のマップを埋める様に北から南、南から北へ進み、最後に門の近くの雑貨屋に着いた。
中を見るとどうやら旅人や冒険者向けの雑貨屋のようでなかなかお目当ての物が多い。
「いらっしゃい。何をお探しで?」
恰幅のいいおばちゃんに声をかけられ
「旅道具一式失っちゃってさ。色々買うからまけてよ、お姉さん」
「まぁ上手なお兄さんだね。なら買う物をこのカウンターに乗せとってくれ」
ニコニコしながら見られている中、簡易な布や皮袋、少し大振りなナイフ等をカウンターに乗せていく。
「旅装にしては簡易だね。これなら銀貨3枚でいいよ。背嚢はいいのかい?」
「ああ、魔法でしまうからな。…はい、これでいいかい?」
「なんとまぁ便利だねぇ。はいよ、確かに。ありがとね」
買った物を纏めて影に仕舞い込む。
「ついでに旅用のマントなんかがある服屋を教えてくれないか?軽い防具も置いてるといいな」
「それなら大通りのターニャ服飾店だね。あそこは冒険者御用達の店だから鎧下なんかも扱ってるし丁度いいよ」
礼を言って雑貨屋を後にした。
目的の店を探して歩くとマップに見つかったとヘルメスに教えられ店に入る。
「いらっしゃい。初めてのお客さんだね?何が欲しいんだい?」
ここでも恰幅のいいおばちゃんだ。服飾店は綺麗なお姉さんが定番ではないかと落ち込みながら、
「とりあえず予算があんまりないからな。銀貨5枚でイイ旅用のマントが欲しいんだ。金が入ったら服系の防具を考えてもいるが…」
「なるほどね、お兄さんは魔法使いかい?ならウチで正解だよ。重くない防具は基本的にウチで扱ってるからね!まずはマントか…。ならこれだ。火鼠のマント。耐火と保温に優れてて何より丈夫!旅にはこれ一枚で十分な品さ!ホントは銀貨5枚と大銅貨5枚だけどウチの客になってくれるなら銀貨5枚でいいよ!」
ニコニコと奥から赤に灰色の模様の様な線が入ったマントを持ってきて捲し立てた。勢いのまま銀貨を払い購入してしまった。
(銀貨5枚は目一杯のつもりでもう少し抑えたかったんだがな…。まぁ初期投資と思えば仕方ないか。ホント、オーク狩ってよかった…)
力なく応答してマントを影に放り込み、店を後にした。
(あと銀貨2枚と大銅貨2枚か…。後は飯代に残したらもう買えないな。また稼がなきゃな)
路銀が尽きたところで宿に戻り湯と鍵を貰って部屋に行こうとすると、
「兄ちゃん、この時間に戻ったってことは飯はまだだろ?体拭いたら降りてきな。用意しといてやるから」
力なく手を振り部屋に入ると少し埃っぽいが窓を開けて魔法で風を起こせば少しマシだ。ベッドと椅子だけの簡易的な部屋だが寝るだけなら十分だ。
貰った湯と買ってきた布で体を拭い、サッパリとする。
(やっぱり魔法で綺麗にするのとは違うな。風呂に入りたいもんだ…)
下に降りるとおっさんに盥を返すと、
「とりあえずパンとスープとベーコン、腸詰だ。酒はどうする?って言ってもエールかワインしかないがな。大銅貨1枚で、酒は一杯サービスだ」
金を払い、エールを頼むと席について食事を貰う。
(思えば血以外は初めての食事か…。この身体は燃費がいいんだな)
(マスターは血さえ飲めば活動は出来ます。逆に普通の食事だとエネルギーを摂取しづらいのですが…)
ヘルメスの言葉に納得しながらエールを煽る。微炭酸なのはまだしも温いのが気に入らず思わず魔法で冷やしてしまった。
(熱を奪うイメージだったからか意外と魔力が減らなかったな。闇に近い魔法になるのか。なら氷系の魔法も得意なのかもな)
ワシワシと食べ進めてエールのお代わりを頼む。
「兄ちゃん、このジョッキ随分冷たいが何かしたか?」
「ああ、冷やした方が旨そうだったんで魔法で冷やしたよ」
「氷も使わずに冷やすとは…どうやったんだ?いや、冒険者に聞いちゃいけねぇな。俺の分も冷やしてくれねぇかい?もう一杯サービスするからよ」
そう言って出された二杯のジョッキを両方を8℃くらいまで冷やして片方をおっさんに返す。
「おお、こりゃ井戸水より冷たいな。…旨い。それに無詠唱だったけど魔力はいいのか?」
「ああ。こんな魔法だが適正があるみたいでね。それにこの後は夜まで寝るからいいのさ」
「夜から出かけるのか?珍しいな。それなら出かける前にウチの酒を冷やして行ってくれるなら酒のサービスを増やすぞ」
「いいのか?魔力も大して使わないし構わない。それなら鍵を預けなくてもいいか?何時に帰るか分からんからな」
「うーん、本当はダメなんだが。兄ちゃんはなんか平気な気がするな。いいぞ。しかし何時に帰るか分からんとはどういうことだ?」
「何、金が無いから少し狩りに行くのさ。夜の方が獲物が寝てる分やりやすいだろ」
「そりゃ見えるならな。なんだ、兄ちゃんは獣人か吸血鬼の血でも混じってるのか?」
「まぁそんなとこだな」
「なら狩りは大量だろうな。肉になる獲物を狩ってきたら買い取るぞ?」
「本当か?ならレッサーボアが一頭あるがどうする?」
「一頭って丸々か!?ならそうだな…。泊まってる間食事をタダにしてやろう」
「結構な金額じゃないか?ありがたいけどな」
「ウチは昼はあんまり客がいないから燻製作りとか色々出来るんだわ。だから一頭丸々は有難い。なら寝る前に裏に置いて行ってくれ」
その後はもう一杯エールを飲んで宿の裏にレッサーボアを出して部屋に戻った。
流石に一昼夜歩いたからかすぐに眠りに就けた。