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森を抜けるとそこは広い草原になっていた。しかして少し先を見ると踏み固められた様な道も見える。どうやら森を避けた街道のようなものがある様だ。
「この道をどっちかに行けば人のいるところに着くのかね?」
(人の往来がある筈なので恐らくはそうでしょう。滅んだりしていなければですが)
「怖いこと言うねぇ。でもこんな世界じゃおかしくないか」
直感で西側へ進む事にするが、段々と北側に向きを変え、北西に進む事となった。日が落ち始めて黄昏時になっても誰ぞ見かけることもなく歩く。ヘルメスとこの世界の常識を話しながらずっと歩き続け、夜が明けるかと言う頃、遠くに城壁の様な建造物が見えだした。
「おぉ、ようやく文明が…。砦の様な壁だけど大きい都市が近かったのか。それにしては誰も人は見かけなかったな」
日がしっかりと登った頃に壁側まで着き、壁に沿って歩いていくと大きな門が見えた。兵士が此方に気付いたようだがもう一人呼び、二人で怪訝そうにこちらを見てくる。
「身分証を見せてくれ。そんな方角から手ぶらの人が来るなんてなかなか見ないからな」
「森で盗賊に身包み剥がされたんだ。冒険者証まで持ってかれちまったからほんとに何もなくて…。飢え死ぬ前に着けてよかったよ」
道中ヘルメスと決めた理由を話してどうにか説明する。
「そうか…。一応規則だから聞くが通行料は?」
「分かってて聞くなよ…。ギルドで再登録して借金してくるから通してもらえないか?」
「なら俺が付いて行こう。この街の冒険者だったのか?見かけないが…」
「助かる。俺はこの街の冒険者じゃない。どころか登録だけした新米とも言えないモンだよ」
なんとか通してもらい兵士の一人と雑談しながら冒険者ギルドに案内してもらう。
「じゃあ行ってくる。外で待っててくれ」
西部劇に出てきそうな建物、ギルドに入ると思っていたより静かなところだった。
(酒場があったりするのはテンプレだけど大きな街の割には人が少ないな。時間の問題か?)
見渡しながら受付のようなところへ進んでいく。そこにいる若いお姉さんに声をかけた。
「登録をお願いしたいんだがここてよかったか?」
「はい。新規の登録でよろしいでしょうか?」
「ああ、そうだ」
「では軽く説明致しますね。冒険者ギルドは所謂何でも屋の仲介業者です。登録された人に仕事を斡旋する場所になります。仲介料と税金を天引きさせて貰うことで冒険者さんをサポート致します。ここまではよろしいですね?」
「ああ。税金を払ってくれるから冒険者証が身分証になるんだな」
「その通りです。各支部からその領主に支払われるので、何処の国でも身分を保障出来ます。その冒険者証にもランクがあり、ギルドからの信頼を示すことになりますのでよりランクが上がれば強い身分にもなります。ランクはGからS、間は+がついたりして十二段階となります。あまり長期間依頼を受けないと降格や除名となるので気をつけてください。Eランクまでは駆け出しとなりますが頑張ってランクを上げてくださいね」
「わかった。早速登録を頼めるか?」
「かしこまりました。お名前とこちらに魔力を通してください」
お姉さんはカウンターの下から穴の空いたドックタグのようなものを出してきた。
「名前はヴァンだ。これは?」
「これが冒険者証になると同時に犯罪歴がないか調べることになります。軽犯罪なら通しにくい程度ですが重犯罪者の魔力は通りません」
「なるほど。少し緩いが身分を保障するなら必要な措置なんだな。…これでいいか?」
「ありがとうございます。…これで名前と魔力を登録しましたのでGランク冒険者となりました。自分の魔力を通すとこの穴に膜が張り、その色がランクを表しますので見せる時はそれを見せてください。何か質問はありますか?」
「魔物の素材の買い取りってここで出来るか?」
「はい。お持ちなのは魔石でしょうか?」
「ああ、魔石もだが、オークを丸々持ってきた」
「オークを丸々ですか!?収納系の魔法が使えるんですかね?それでしたら解体場までお願いします」
案内されるままに着いていくと奥からいい匂いのする建物が裏手にあった。中に入ると数人が魔物の解体をしているようだ。
「おう、新しい獲物が来たか。大物か?」
一人のおっさんが近付いてきた。
「オークを丸々持ってきたそうですよ。此方で出してもらっていいですか?」
言われた通り、影からオークをドサドサと出していく。
「珍しい収納をもった兄ちゃんだな…。それに頭にしか傷がねぇ。その頭はグチャグチャだが…。オークならそれでもイイ値になるな。これなら一頭あたり銀貨4枚だ」
何か木札に書くと受付のお姉さんに渡される。どうやら納品証明のようなものみたいだ。
「4頭もいたんですね…。受付でお支払い致します」
受付に戻り奥で処理をしたお姉さんが戻ってくる。
「解体料を引きまして、銀貨15枚と大銅貨2枚です。お確かめください」
「解体料しか引かれないんだな。依頼じゃないからか?」
「そうですね。オークの討伐依頼はDランクからですから…。またランクを上げてから持ってきてくだされば依頼達成になりますよ」
「そうか、分かった。世話になった」
受付を後にしてギルドを出て待っていたダイナスに声をかける。
「意外と時間が掛かったな。借金だからか?」
「そんなところだ。通行料、銀貨1枚だよな」
受け取った皮袋から1枚取り出して差し出す。
「ああ、確かに受け取った。改めて、ようこそ。カールステイの街に!」