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5幕 蒼炎のバラッド

農民達の話を聞いたサンドロは、彼らに関わる十聖転に会うためナイール達、ボンゴ村の住民に手を貸すことを決めた。


だがその時 彼らの前に訪問者が…

「お嬢さん。そりゃあもったいないよ。良ければ読ませてくんない?」


ナイールの家の玄関から見知らぬ声が聞こえてきた。その方を確認して立ち上がると、開いた玄関口にもたれかかる私のと似た白いコートを着た男がフードを被ってうつむき立っていた。咄嗟(とっさ)に私は声が出た。


「誰だ!」


私の声に反応したその人物は「よっこらせ」と言いながら私達の方を見て言った。


「おれぁ十聖転が七の柱!蒼炎(そうえん)のバラッド。あんたらが世話になってる悪者さ。よろしく」


バラッドと名乗った男は、私らに挨拶するとそのまま腕を差し出してきた。


「七聖転?! あんたが義妹を連れてったヤツらか!!」


ナイールの表情が強ばるが、バラッドは飄々(ひょうひょう)とした様子で、言葉を返した。


「妹さんにはなんもしてねぇよ。おれそういう拷問とか嫌いだからな。だからなぁ頼むよぉお嬢さん達。それをくれればあんたらにもなんもしないからさ。オッサン達はさ平和主義なわけよ。」

「嫌だね。あんたらに渡すくらいならここで燃やすから!義妹もそれを望んでた!だから近づくな!」



バラッドが説得するも、ナイールはキッチンのコンロにノートを近づけて火を点けようとしていた。


「おーめんどくせ。まったく元気なお嬢さんだな。こんな時に不便だぁおれの蒼炎はよぉ。なんでおれがここの担当なんだか…」


バラッドという男の声と話し方に、私は何か違和感を感じた。

その時私の頭に何か古い映像がよぎった。



『魔王さんよぉ。あんたぁ いい子だねぇ。おばちゃん関心しちゃったわぁ。』

『バラッドも平和が好きか?』

『そらぁ。戦わないで済むならこんな大鎌使いたくないさね。平和主義者だからねぇあたしらは』

『バラッド…』


私は青空の下、城壁のような場所で、大鎌を携えた黒い大きな角と紫色の髪が特徴的な、小悪魔のような少女と会話をしているシーンが浮かんだ。

私が頭を急に押えたことにより、バラッドはナイールから私に視線を向けていた。


「おやぁ?この人頭押さえてっけど大丈夫?」

「おい!サンドロどした!何された!大丈夫か!」

「旦那!」


ナイールと農夫達が私を呼ぶ声がする。

咄嗟(とっさ)に頭に浮かんだ名前を呼んだ


「バラッド…お前…近衛大将のバラッドか?」


すると私に名前を呼ばれたその男は、突然頭を押さえて苦しみだした。


「うっ!あっ。イッテ!なんだこれ。あ、あれ?俺って近衛…。いでででで。」


「どうしたんだい!これどうなってんだ!」


ナイール達は突如苦しみ出したバラッドを見て、困惑していた

バラッドという男は頭を押えながらも私達に話しかけてきた。


「ちっ。なにしたか知んねぇけどよォ。そのノート。だけは頂く!」


バラッドは指を鳴らすと、ナイールのノートに炎を纏わせた。

炎はノートの端を少し燃やしてしまったが、ゆっくりバラッドの手元へ移動した。


「あぁ!」

「ノートが!」


「ちっ!神様のお告げには従わねぇといけねぇんだ。強引だが確かに、これは頂いたぜ。」


バラッドは身体中に青い炎を纏うと、そのまま消えてしまった。その場には、小さな布の燃えカスがチラホラ舞っていた。


「あたしらの…ノートが…」

「…。何も出来なかった…。すまない…」

「もう…いいさ。私がさっさと燃やしとけばよかったんだ…。」

「ナイールさん…ほんとにごめんなさい…。」

「あんたらももういいって。」


困惑した彼らも気になる…だが私はそれらを放ってでも、頭の中では先程の男のことが気になってしまった。

私は彼と…いや…彼女と確かに1度会って話をしていたことを思い出した。


「バラッド…。」

「説明してください!旦那!あんたと奴らはなんの繋がりがあるんすか!」

「…そうだな…長くなるが、説明しよう。」


私はこれまでのこと、記憶が意図的に失われていること、仲間のことを話した。血を見せたらナイールは驚いていた。それはそうか…

皆私の話に驚いている。当然だ、私は人ではないのだから。

様々な事が起こり、ナイールは頭をクールダウンさせるために、顔を洗っていた。

ナイールが顔を洗って帰ってくると、多少落ち着きを取り戻していた。


「これが私。サンドロという人ならざる者の正体だ。」

「居たんだ…。魔王サンドロ。」

「ふっ。記憶が不確かのために確証は持てんがな」

「サンドロ…。ちょっと待ってて」


ナイールは2階玄関の傍にある天井から出ている紐を引いた。

すると上に行く梯子(はしご)が降りてきた。

彼女はその梯子を登り、上の階でなにやら物を探しているのか、箱を開ける音や、本が落ちる音がすると「あった!!!」と大声を出し、梯子を降りてきて私にホコリの付いた本を渡した。


「な、なんだこれは」

「さっき話したでしょ? 摩天録伝説。(まてんろくでんせつ)これにもしかしたらヒントがあるかもしれない!」


私は埃を払い表紙を確認した

摩天録伝説 魔王と10人の仲間

という表紙が牛皮のようなカバーに殴り書きのように書かれている。


「異国に居たためこの文字が読めないのだ…朗読してもらっていいかな?」

「いいよ!あっ!でももうほら。外も暗くなってきてるし、1度風呂でも入ってからにしないかい?私もそれ読むの付き合うから」

「ありがとう。私はこの文字が読めないのだ…」

「いいよ。あんたがなにか思い出してくれるならそれで、もう大丈夫さ。」


外を見るといつの間にか太陽は陰り、辺りは薄暗くなってきていた。ナイールはノートを奪われたショックが響いているようで、気持ちが落ちているようだ。


村に到着してからかなり経つ。私は焦る気持ちを抑え、本を机に置いた。

これで…また何か掴めるはず。


その後私は家に帰る農夫達を見送った。彼らはノートを取り返す作戦を他の村人達と考えるそうだ。


ナイールは私に人間界の本を音読して教えてくれるため、泊まる所がない私を、家の2階の空き部屋を使わせてくれた。


「好きに使ってね。」

「恩に着る」


多少埃っぽいが、私には十分だった。

ベッドに間接照明もあった。 さっきナイールが散らかしていたが全く気にならなかった。


「じゃああたし洗いものするから、終わったら呼ぶね!くつろいでていいから!」


そう言うと、ナイールは梯子を降りて行った。

私はベッドを整え横になった。天井を見つめていると、仲間の声が聴こえた気がした。名も知らぬ仲間達、家臣達の声が。


「…。待っててくれ。」




同時刻 ボンゴ村の隣町 リリーズ

午後19時頃。


先程サンドロ達の前に現れた男バラッドが、石畳(いしだたみ)が特徴的なリリーズの街中をフードを被って歩いていた。

グザンは、レンガで造られた家と家の間の路地に入って行くと、目つきの悪い茶髪の男と赤髪の男性に絡まれた。


「なんだお前」

「そのコート金になりそうやなぁ。くれや」


「触るなよ小僧共。燃えカスになりたくないならな。」


バラッドは手の平から青い炎を放出した。

男達は腰を抜かしてその場から逃げていった。青い残り火がバラッドの手の平に残っている。ため息を着いたバラッドは、誰かに向かって話し出した。


「ずっと後ろから尾けなくても、逃げやしやせんよ。」


バラッドの背後から、彼と同じコートを着た人物が歩いてきた。

建物の影によってその顔は読み取れない。


「お告げはどうされましたか?」

「ほらよ。言われてたノートだ カミサマに渡してやってくれ。」


バラッドは、(ふところ)から奪ったノートを取り出すと、それを投げ渡した。


「さすがですね」

「他に要件はありますかい姫様。」


女性は白いコートの内ポケットに、バラッドから貰ったノートを仕舞うと、静かに話し出した


「あなた、赤いコートの男に会いましたね?」

「あぁ。あれね。アイツはなんなんだい。知らん奴のはずなのに…」


バラッドは腕を組んでため息をついてからサンドロについて女性に聞いた。

女性は空を一瞬見ると、サンドロについて話し出した。


「彼は私達にとって過去の者です。」

「過去? なんの事だか…会ったこともねぇよ。」

「ふふっ。以前の主に着くか今の主に着くかはあなた次第。それは私も同様…。ですが、これはこの世界…強いては別次元の世界をも巻き込んだ戦いになることを理解しておいてください。」


女性は含みのある言い方をし、バラッドが振り向くとそこにはもう誰もいなかった。

女性が居たと思われる場所には、白と黒の羽根が落ちていた。


「…過去の主ねぇ。そんなの居ないはずだけどな…うっ…また…さっきの」


バラッドの脳裏には経験した覚えのない記憶が途切れ途切れでよぎった。


『楽しいなバラッド。友と居る時間は何故こうも早く過ぎるのか…』

『お前しか頼れる者が居ないのだ…。愚かな友を助けてくれまいか…』

『イブリンと私でお前に作った誕生日ケーキだ!さぁ遠慮なく食べてくれ!』


バラッドの目には涙が浮かんでいた。


「何か…大事な人…忘れてる気がする。そんな人…生まれてこの方1匹狼の俺には居ないはずだけどなぁ。」


建物の間から空を眺めるバラッドは、背後から近づいてくる何者かの気配には気づいていない。








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