3幕 拉致
テレサの絶叫により自分を思い出した魔王サンドロは、仲間と失われた記憶と力を取り戻すため一人旅をすることを決意したが…。
「私も連れて行ってはくれませんか…」
「危険すぎる…」
「これでも私は魔法の心得があります、足でまといにはなりません!私の居場所は先程彼らに焼かれ行くあてもありません…」
「…」
今の私には彼女を満足に守れる力はない…。
だが、このまま放っておいてしまえばまた十聖天の連中が来た時に対処できないだろう…。
それより私と一緒に居た方が彼女を確実に護れるし居場所にもなってあげられる…。
「ここに1人にするよりかは… それに先程の発言も気になる」
口を左手で覆い考えていた私の顔を、下から覗きこんできたテレサに驚き仰け反ってしまった。
「うわ!」
「悩んでいましたので…私が御一緒するのはそんなに迷惑でしょうか?」
「いや。そうじゃないんだ君を守れる程今の私には力がないから…」
「あら…先程あれだけの啖呵を吐いた方と同じ人物とは思えない程可愛らしいお方になりましたわね」
「なっ!」
「しばらく前に読んだ本にこんな言葉がありましたのケ・セラ・セラ と」
「なんだそれは」
「なるようになる という意味の言葉らしいです だから今はこんな状態でもいつか状況は良くなります!サンドロさんの記憶も蘇るし居場所もできます。もっと自信を持っていきましょ?ね?」
彼女の絶望を感じさせない強い言葉に私の気持ちは楽になった。
その時上空に突如として巨大な穴が開くと、人の形をした影が降りてきた。それはテレサの後ろに一瞬で回り込み彼女を気絶させると抱きかかえた。
「全くここに居たのか さぁ帰りますよ」
「テレサ!貴様彼女になにをした!」
「うるさいですよ それが元魔王の言葉ですか? 感情的で滑稽ですよ」
「名乗れ」
「十聖天の一人イツキと言います 現魔王である晴斗様より因果律に関わる能力を分け与えていただいております」
「なに?お前が十聖天か」
「おや?記憶が?おかしいですね…ではそのことも含め魔王様に報告しておきますか…」
そういうと、イツキが手を何もない前方の空間に手をかざすと黒い渦状の穴が開いた。
「待て!逃げる気か!テレサをどうする!」
「すぐ返しますよ」
サンドロが殴りかかろうとした瞬間、自身の体に凄まじい衝撃が走った。気が付くとサンドロは地面に伏していた。
『な、なにが起こった…』
「因果律 とは可能性をつかさどる能力です あなたが私に攻撃する可能性をつぶさせていただきました」
「ば、ばかな…」
「今のあなたと戦っても面白くないんです せめて因果をもねじ伏せられるくらい強くなってください 他の十聖天も僕と同じくらいかそれ以上の能力を晴斗様からいただいていますよ」
そういうとイツキは穴を通って消えていった。
『私はなんて弱い人間…いや魔王なのだろうか。1人の大切な存在もろくに守れんとは…。』
私を気遣うテレサを思い出し、目元から何かが出てきた。
「絶対助けてやるからな…」
自らの身分を思うとこの言葉ほど合わないものはないだろうな…
『まずは十聖転とか言う輩やからに会ってみねば。だがどこに居るか…さっきの男は吹き飛ばしてしまったし…そういえばさっきの暴徒達は…うっ…。』
さっきの戦いを振り返っていた時、突然私の体に疲労が襲ってきた、私はその場で膝をついて木にもたれかかった。
ふと腕を見ると先程まであった切り傷や擦り傷がきれいになくなっていた。
魔力があふれ出た事によって自己治癒能力が活性化したためか。力を封印されているため、無理やり魔力を引き出そうとすると私の体がもたないようだ。
「くそ…この疲労感…今はほとんど人間だな…」
その時草陰から突如現れた暴徒達が私を捕えにきた。
「なっ!くそ!離せ!」
疲労により反応が出来なくなっていた私に、彼らのロープを引きちぎることさえできなくなった私は二人の男に担がれてどこかに運ばれだした。
必死に抵抗していると、暴徒達はフードを脱いで私に話しかけてきた。
「すいません!勘弁してください!」
「離さないか!なにをする!」
「さっきの暴徒との闘いをたまたま見て失礼を承知した上であんたに頼みがあるんだ!ワシらの村長を!助けてくだせぇ!」
「くっ!それがお願いする立場の者がやることか!…体が動きさえばこんなロープ如き…」
「なんでもお礼をします!怪我も見ます!村長と話てくれやせんか!救世主様!」
フードの中の男達の素顔は痩せこけており、全員涙を浮かべていた。私に対する敵意は感じられない。
「な、何事だ…。」
「詳しい説明は村でさせていただきやす。」
数分に及んだ輸送劇は、森を抜け小さな村に着いたところで落ち着いた。
そこは家…というより小屋のような建物が7件程と、その倍以上ある畑しかない小さな集落があった。畑には見慣れない赤く細長いウリのような作物が育てられており彼らが自給自足で暮らしていることが想像できた。
数十人程の村民の視線が私に集まりとても恥ずかしかった。だが彼らの視線は嫌悪してるというより、私に何か期待しているように思えた。
村についてしばらく運ばれたところで、他の家より一回り大きい家に運ばれると、居間のようなところにロープで縛られたまま降ろされた私は彼らに再度説得した。
「話なら聞くから この縄を解ほどいてくれないか」
「に、逃げませんか…?」
「…状況による 私も急ぎの予定がある」
「なら無理っす!」
「おい!…くっ!きつく縛りよって!」
などと言い争っていると、外から一つ足音が聞こえてきた。
その足跡が私達の居る部屋に入って来ると、彼らはざわめきだした。足音は私の真後ろにまで近づいてくると、新たに若い女性の声が聞こえてきた。
「これがあんたらの言ってた用心棒かい?」
振り向くと肩ほどある赤い髪を後ろで束ねた女性が居た。女性はキセルを吹かし、上半身は胸元とあばらを覆い腹部を見せつけているような服装で、腰にはふくらはぎを隠すほど白く長いドレスのような丈の腰巻?を身に着け黒いショートパンツと同じく黒いブーツを履いていた。
「なんだ君は」
女性は姉御肌な雰囲気を醸し出していた。私を運んできた男達は全員彼女に頭を下げていた。
女性は私に近づいてくると、私の顔をジロジロ見てきた
「ふーん。なんか 弱そうだねぇほんとにコイツが ドルネロ を倒したのかい?」
「え、えぇ!そりゃぁもう凄かったですよ!バーン!ってな感じで野郎を吹っ飛ばして」
「ふーん…あ、ちょっと電話…」
するとその女性はポケットから小さな板を取り出して、指でなぞると耳に当てて誰かと話を始めた。
「あぁ。…うん。あ、そうかい 街の市場にはもう納品してあるんだね。 うん分かった。」
妙に光沢のある板に興味が沸き、私は彼女に聞いてみた。
「おい。その板はなんだ」
「ちょっと黙っときな!」
彼女の怒声はその場の全員をすくませるほどの迫力があった。
男の一人が小声で私に注意してきた。
「村長が電話してる時はお静かに…」
「す、すまない…って!なんで私が謝らねばならない!これを解けぇ!」
「黙らないとシめるよ」
「はい。」
彼女はひとしきり話すと、板をなぞりまたポケットに入れてからキセルを吹かし私に話しかけてきた。
「フッ…バタバタしちまってぇすまないね。あ〜えっとあんた~名前は?」
「まずは自分から名乗ったらどうだ?私にこんなことしておいて…」
私が嫌味ったらしく言うと彼女は、私の周りを囲む男達に「解ほどいてやりな」と言い、彼らの一人が優しく私の縄を解いてくれた。
やっと自由の身になれたが、しばらく縄で腕を後ろに固められていたせいで両手がしびれている。
「ほんとこのバカ達が勝手なことして申し訳ないね。」
私があぐらで座りながら腕を振ってしびれを紛らわせていると、彼女の蹴りが私の縄を解いてくれた男の臀部に勢いよく入った。
彼女は私の前で悶絶している男性を「じゃまだよ」と言って隣の部屋に蹴り飛ばすと、私の前にしゃがんだ。男性を悶絶させる威力に、私は彼女を怒らせるのは控えるようにした。
「なんだ」
彼女の瞳はとても綺麗な蒼眼をしていて吸い込まれそうになった。私が見とれていると、彼女は自己紹介をした。
「あたしはナイール ここの村長代理さ。改めて聞くけど名前は?」
「…サンドロと言う。」
「サンドロ…。どっかで聞いたこと…ある?」
私が名乗ると、ナイールは私の名前をどこで聞いたことがあるのか自分の頬を撫でながら考え出した。
「あ!摩転禄伝説の…えーっと…あれだ…」
「マ…テン? なんだそれは。」
「あたしが昔じいちゃんから聞いた昔ばなしさ。たしかその主人公がサンドロ?って名前の魔王だった…はず。…まぁ、そんなおとぎ話はとりあえず置いといて。」
「置いとくのか…。」
「気になったんなら後で聞かせてあげるよ。それよかコイツらの話を聞いてあんたに…頼みがあってさ。初対面の相手にこんな乱暴されて気持ちは分かるよ? けど、どうしてもあんたみたいに強い奴の力が今必要なんだよ。」
かなり急を要している状況なのは、連れてこられてきた彼らの話を聞いて何となく察していた。
だが…私は急がねばならない。
「すまないが…私は急いでいるんだ。頼み事なら他の用心棒に頼んでくれ。それに今の私は彼らの前で出した力も出せないのでな。」
「どういうことだい?」
私は自分の体の状況を語った。
先程たまたま放出させた魔力を使うには疲労を伴い、長期的に戦えないということ。それを制御する方法も今はまだないこと。
「かぁ〜。…なんてこった。せっかく魔法が使える人間に会えたと思ったのに!」
「何か期待させていたようで悪いが、そういうことなのだ。君たちの思っているほど私は強くはない」
「な、何か手はないんですか!」
男達はかなり慌てた様子で私に訴えかけてきた。
私は先程脳裏によぎった十聖転について彼らが何か知っていないか聞いてみた。
すると彼らの様子が一変し、暗い表情になった。
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