2幕 その名は…
教会に来た暴徒達の手からテレサと自然を守るため魔王は立ち上がった。
外に出た私に気がつくと暴徒達はこちらに近寄ってきた。
「なんだ用心棒が居たのか…それにしても弱そうだが」
5人組の中央にいる小太りで丸メガネの男は私に気が付くと、花壇の花を荒らしていた手下達を止めて私を威嚇してきた。
だらしない体格をし、下品な金のアクセサリーで装飾している。明らかに他のフードを被った連中とは違い、彼らをまとめる立場にあるのはすぐに察しがついた。
ここで下手に出てしまうと彼らになめられてしまう。私は大人数でも引かないという意思を見せるため、彼らに対話を試みた。
「ここには私の大事な人が居るんだ。少し冷静になって話さないか?」
「あぁ?なんだお前は?。…なんだその恰好はよ魔王にでもなったつもりか?そのデコのタトゥーか?だっせぇな。中二病 ってやつか?」
暴徒の1人が私を挑発する
すると私の背後から扉を開ける音が聞こえた。
「サンドロ様!お気をつけください!彼らはお金の為なら人殺しさえ行う非情な方々です!」
「そうか…だからと言って恩人の手前 引くわけにはいかん…下がってなさい」
外に出てきたテレサに彼らの危険性を説かれたが、それよりも彼らの先程の言葉。
私の異質なコートを目にした彼らは私の姿を見て 魔王 と呼んだ。私はその響きになにか懐かしさを覚えた。
「とにかく…今すぐここから出て行ってくれないか」
「それは無理な話ですな。今日からここは世界平和を願う組織である十聖転が一人四聖転ケルべウス様の領土となったのです!ここにはあの方の強さの象徴として巨像を建てます!だからその邪魔な教会を潰さないといけないのだよ!」
「そんな!」
身なりとは裏腹に丁寧な言葉で私達を威圧してきた。テレサは彼の放った言葉に絶望し、膝から崩れ落ちてしまった。
「これが世界平和を願う者のやることか!」
「主の理想のため!君達にはここをどいてもらう!」
「…私の大切な者を傷つけるつもりなのであれば…わたしはここをどくわけにはいかない!」
私は彼らを見据え拳を構えた。
彼ら全員を倒せる自信はない…だが私がここで倒れてしまえばテレサに被害が及んでしまう。
「負けるわけにはいかんのだ。」
「解らせてあげなさい君達」
「…死んでも文句は言うなよ!!用心棒!」
小太りの男は顎でフードを被った取り巻きに合図を送った。その瞬間四人の暴徒達は私に刃物や鈍器で殴りかかってきた。刃物が私の頬をかすめるとそこから青い血が流れてきた。
「う、うわぁ!こ、こいつの血青い!」
私の血液の色に驚いた暴徒達は、半歩身を引いたがすぐに小太りの男の命令によって、私に牙を向けなおした。
「何をしている!魔物ならなおさら討伐の対象です!遠慮はいりません!!」
暴徒達の殺意は今までの人間相手のものとは違い、その瞬間彼らの目に映る私は異端の生物。屠殺の対象に変わったのが理解できた。
私から見ての右前方にいる暴徒は、いち早く私に刃を届かせようナイフを振り回してきた。私はそれを軽くいなしたが、いなした隙を狙って別の暴徒の攻撃によって怯んでしまった。
「ぐっ…。」
「あら??」
「まだだ」
私は迫ってくる暴徒たちを素手で追い払った。
「この!…ぐあ!」
「まだやるか!」
3人倒したところで、奥にいた男の銃弾で膝を着いてしまった。
「甘いですね〜 さて…邪魔なのも追い払ったし…」
遠くなる意識の中でなんとか体を動かそうとしたが、私の体は微動だにしなかった。
「離してください!」
「火を放ちなさい!」
遠くで声が…きこえるテレーゼ…
「起きてください!ねぇ!あなた!私の魔王様!」
「魔王…」
魔王…その言葉を聞いた瞬間突然何かがフラッシュバックして私の頭の中で映像が流れた。
業火に包まれる…城? これは過去の記憶か?
「おい、お前」
「は、はい!」
人間が小さなカエルのような魔物と話してる。
カエルは人間に脅えているようだ。
「魔王の記憶と力奪っといて。もう人間との間で争いが生まれないようね」
「し、しかし…こんな魔王様は人との間にも秩序をもたらされていました!なのに何故こんなことを!」
「秩序ねぇ…ほんとにそうかな?」
「何を…言っているのですか」
「別に?」
『私の力と記憶は…こいつに奪われたのか』
「あ、それとさ終わったら親衛隊と幹部全員連れてきて」
「なにをなさるおつもりですか」
人間はカエルの魔物に何か話している。業火の音に重なり、何を話しているかは分からなかった。魔物は怯えた表情になると、そのまま固まって震えている。
「王様は俺だけでいい…じゃあとよろしく」
そう言い残すと、人間は部屋から出て行った。残ったカエルの魔物はそそくさと私の元まで来ると、耳もとでささやいてきた。
「魔王様…十聖天をお探しください…。十聖天です!」
『あぁ…思い出した。私は魔王…その名をサンドロ!悪を退け秩序をもたらす者だ』
私の意識は肉体へと戻った。
それと同時に私の体にすさまじい力がみなぎった。全身からあふれる魔力の圧によってテレーゼの教会に着いていた火が一瞬で払った。
「あなた様は…」
「もう怖がらなくていい 力を思い出せた」
驚くテレサの涙を人差し指で拭い、私は起き上がった。
暴徒達は私の異常な様子に驚き、後ずさりして逃げようとしていた。
「我は魔界の主サンドロ…。魔の者より醜悪な心を持つ者共。我が本物の魔というものを教えてやる。」
「まだ途絶えてなかったとは。だがこれでまた終わる」
男から再び放たれた弾丸は、魔力を帯びた私の体に触れた途端飴玉のようにバラバラになった。
何度も発砲するが、私に銃弾は効かなかった。
「あ、あいつなんかやべぇぞ!」
私から放たれるとてつもない圧力にひるんだ暴徒達は、自分の身を守るため逃げようとしていた。
だが暴徒達は男の発言で足を止めた。
「こ、こら!!待ちなさい!お前達は私の盾となるのだよ!」
私は男のその発言に心底虫唾が走った。
「人とはここまで下衆」になれるのか。」
「来るな!ひぃぃ!」
私は一瞬で男に近づくと、腰を抜かし動けなくなっている男の頬に拳を打ち込み渾身の一撃を食らわせた。
男は木々で溢れる森の中に吹っ飛んでいった。何メートル飛んだのか分からないが暴徒達は男が飛んで行った方を見つめたまま動かなくなった。
「魔物の方がまだかわいげがあるわ」
私は一言つぶやくと、固まったまま動かないテレーゼの身を案じた。
「今までありがとう 私は行くよ」
人とは違う青い血液、未知なる力。彼女の前から居なくなる理由ならいくらでもある。私が居てはテレーゼに不幸が降りかかる。それよりもただ幸せでいて欲しかった。
「待ってください!お一人でどこに!」
「目的ができた だから私はここを離れるよ」
私の思いを知ってか知らずか、テレーゼは私を呼び止めた。
私が振り向くと、いつの間にか立ち上がっていた彼女は真剣なまなざしでこちらを見ていた。
「…分からなかった」
「ん?」
「あなたを助けた理由です」
「善意だけじゃないと?」
「人としてあなたを助けたということより、何故か初めて会った気がしなかった。それが大きいのです。」
私がここで目を覚ました時も、彼女の声の懐かしさによるところが大きい。何か…ワケがありそうだ。
「それは確かに私も感じた」
「サンドロ様…私もあなたの旅に付き合うことはできないでしょうか」