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幕末大江戸奇譚  作者: 村上蘭
5/34

邂逅






  五





   明け方、喜三郎はのどの渇きを覚えて目が覚


  めた。結局、昨夜は清五郎の酒の相手をする羽


  目になり散々自慢話を聞かされた後に、今から


  宿探しは大変だから泊って行けと言われその通


  りにしたのだ。やくざの家に、泊まるという事は


  一宿一飯の恩義が出来る事になるので、喜三郎


  としては余り気が進まなかったのだが、この近


  辺に気安く泊まれる様な旅籠は無いぞと清五郎


  に言われ泊る事にしたのである。喜三郎は、堅気


  では無いがやくざとも違うと言う微妙な立場な


  ので、やくざ同士の切った張ったの面倒に巻き


  込まれた事は、これまで一度も無かった。厠で、


  用を済ませ台所の水桶から柄杓でごくごくと水


  を飲むと渇ききった身体が潤って行った。やく


  ざの、家にもちゃんと台所は有るんだなと妙な


  事に感心していたら背後に人の気配を感じた。


  振り向くと、喜三郎を初見で出迎えた源治が立


  っていた。




  「お客人、もうお目覚めで?」




   源治が、人を怪しむような声音で言った。




  「いや、何ね昨夜の清五郎親分の酒があんまり


  に旨くてチョイと飲みすぎちまいやしてね、咽


  喉が乾いて眼が覚めてしまったんでさ」




   喜三郎は、どうもこの源治のような男は苦手


  であった。ヤクザの家には、親分を補佐するこ


  の源治のような男が必ずいるものである。


  この手の、男は当たり前の事だが親分の命を


  守るという仕事柄人をあまり信用しない。


  いつ何時、今まで静かに話していた相手が豹変


  して襲って来るかも知れないと言う緊張感の世


  界で生きている者にとっては、自分以外の人間


  はすべて疑って掛かる。それで無くては、親分を


  守る事など到底出来ないだろう。それは、喜三


  郎も重々承知している事なのだが、ただ始終疑


  いの眼で見られるのは存外嫌な気分である。


  喜三郎は、清五郎の家で朝餉を馳走して貰い丁


  重にお礼を言って山十の家を辞した。




  「さて・・・・・」




   喜三郎は、少し思案していた。娘の家は、清五


  郎に大体の場所は聞いてはいたが、今から行っ


  たとして娘の旅支度が出来ていなかったら、ま


  たぞろ出直しという事になる。まあ、でも着るも


  のさえ着ていれば後はどうにかなるか、そう考


  えて取り敢えず行ってみる事にした。娘の家は、


  漁師村の一番奥まった所にあった。一応建って


  いるという程度のあばら家だった。聞きしに、


  勝るとはこの事で喜三郎も全国を旅して色々


  貧乏長屋を見てきたが、それにしてもここはそ


  れまで訪ねた家の中でも一、二を争うかも知れ


  ねえなと喜三郎はあきれていた。




  「御免なさいよ」




   喜三郎は、娘の家と思しき所の入り口に立ち


  声を掛けてみた。




  「へえ、今開けるだでちょっと待ってな」




   若い女の声が、聞こえ戸口のつっかい棒を外


  す「コト」っと言う音がすると直ぐに開いた。そ


  こには、さっき迄泣いていましたと言わんばか


  りに瞼の晴れた娘が立っていた。

















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