唐揚げ(カレー味と醤油味)
俺の名前は 鈴木五郎。 飯屋の店長だ。
今日は朝からムラムラする、もちろんやましい気持ちはない。単に創作意欲がわくというやつだ。珍しく下準備も早く終わり、今日の日替わり定食を何にするか、と悩んでいるところだ。ここのところ豆腐ばっかり食っていた気がするから、今日は肉って感じだな。
「肉」、いい響きだ。ちち(胸)、しり、太もも、すべて最高だ。鶏肉が俺を呼んでいる。
可愛いボンキュボンな女の子が好きにしちゃう?と聞いてきたら無論、好きにしちゃうに決まってる。お望みなら、変態ゆきあつさんにだってなってやる。今日はどうしようか。照り焼き、唐揚げ、タンドリーチキン、シンプルに塩と胡椒だけというのも乙なものだな。
「鳥ちゃん、どんな風にされたい?」
「五郎さんの好きなようにして下さい。それが私の幸せです(裏声)」
「そんな、好きにしていいだなんて。ドロッドロの白いソース(タルタルソース)をぶっかけたり、全身から汁が零れ落ちるようなことをしたり、君をアツアツの中に入れてもう戻れないようにしても本当にいいんだね?」
「はい、五郎さんにしていただけるなら構いません(裏声)」
「鳥ちゃんはなんていやらしい子なんだ。どれ、おじちゃんが好きにしちゃうぞ!」
「あーーーーー!!(裏声)」
「・・・あのー、店長。その一人芝居終わりました?」
ソフィーヤ後ろに立っていた今までのくだりをすべて見られていたらしい。
「ソフィーヤ、ちょっと鳥役をやってくれないか?今いいとこなんだ」
「絶対イヤです」
ソフィーヤはそう言うと食堂のほうへ行ってしまった。
開店までにはまだ時間があるがあまりソフィーヤを怒らせるとあれなのでそろそろ日替わりの準備に入る。日替わり定食はいつも小さなホワイトボードに書く。今日の日替わりは「鳥の唐揚げの二色食べ比べ(ノーマル、カレー、木綿豆腐、、ごま唐揚げから選べます)」だ。
10時を少し過ぎるころ店は開店する。水曜日いつも足蹴くかよって客がいる。朝倉さんだ。今日も一番にくるといつもの席に座りいつものを頼む。
「ソフィーヤちゃん、日替わり定食を」
「はーい、日替わり定食入りますよ。味はカレーとノーマルでいいですか?」
朝倉さんは頷いた。今日も同じように朝倉さんは日替わりを頼む、朝倉さんの職種は俺と同じ飯屋だ。朝倉さんは料理店「コート・デュ・ノール」の料理長だ。「コート・デュ・ノール」は戦前から続いている高級料理店であり、かなりの有名店だ。ちなみに、俺はその店を出入り禁止になっている。そんな奴が何の酔狂でクソ狭い洋食屋で飯食っているのかというと、答えは簡単だ。俺と彼とはちょっとした昔馴染みだからだ。
さて、今日の日替わりは下準備をしたものを使う。まず、鶏もも肉の余分な脂を除き、食べやすい大きさに切り、それを醤油、酒、塩、おろししょうが、、おろしにんにく、水をもみこんでから、冷蔵庫で30分以上置いたものを使う。今日は普通のも作るが、ちっと違うものも作る。ボウルにさっきの材料を混ぜ合わせ、汁けをきった薄力粉、かたくり粉、を加えてもみこむようにまぶす。もう一つのほうには先ほどの材料に加え五郎特製のカレー粉を加える。深めのフライパンに並べ、ひたひたにつかるくらいの量のサラダ油を注ぐ。
「はははは!客は神じゃねー!俺が神だ!!」
揚げ物を揚げるとなんかテンションが上がるのは俺だけではないはずだ。
強火にかけ、フツフツと泡が出てきたら中火にし、5分程度揚げる。肉を一つ裏返して、こんがりきつね色になっていれば、他の肉も全て裏返し、全体がこんがりとしたきつね色になるまで揚げてよく油を切り、器に盛りる。ご飯とキャベツ、豆腐の味噌汁をつけて完成。
「さぁ完成だ、五郎特製鳥の唐揚げの二色食べ比べ定食。揚げたてをサクッとやってくんな」
出来立ての定食を朝倉さんの前に出す。彼はそれを見るとさっきまでの無表情が少し綻んだになった、揚げたての唐揚げとカレーの匂いがそうさせているのだろう。
「いただきます」
そういって朝倉はカレー味の唐揚げに齧り付いた。その時朝倉に電流走る、このカレー粉が鈴木五郎のオリジナルである。
「うまいな。クミン、ターメリック、ローリエ、オールスパイスを中心にした辛さがかなり控えめになっている。そして、ほかの味と比べることによってカレーのスパイスな香りが一層引き立つな。そして、ノーマルな方は一見普通だが醤油の味をあえていつもより薄くして他の味にはない鳥肉本来の肉汁が楽しめるようになっている。何回も通ってほかの味も試してみたくなる味だな」
「そりゃどーも」
一口食べてスパイスを入っているスパイスを列挙され、ノーマルもあえて作った意図をくみ取られると料理人にとって来るものがあるが喜んでくれるならいいだろう。
朝倉は半分くらい食べると五郎に話しかけた。
「今度、うちの店がテレビに出ることになってね。ゴロー君出てみないかね?私と一緒に」
「出ないですね。親からテレビ、新聞には頼むから載らないような人間になってくれと言われてますんで」
俺自身誰かの猿回しの猿になるつもりはない。
「たぶんそれは犯罪者にはなるなという意味だと思うが、それにキミがご両親の言葉を素直に聞くような人間だったというのも意外だが」
「確かにそうですね。」
テレビに出たらまた客が増えて忙しくなるんでヤダとかは全く思っていないが、この人の考えていることはなんとなくわかる。そして、いつものが来る。
「うちで働かないか、君はもっと広い世界を見てもいいんじゃないか?」
「あいにく、俺の世界はここなんで。それ以外は広すぎます」
良い断り方だ、教科書に乗せたいくらいだ。朝倉さんは苦笑し、私はいつもの通り俺は笑った。
また来るよ、朝倉さんはそう言って店を出た。その背中は少し寂しそうな気がしたがきっと気のせいだろう。あの人もソフィーヤのことなどで考えることがあるのかもしれんが知ったことか。
「店長、いつも朝倉さんの誘いを断りますけど何でですか?」
「広い店だと掃除が面倒なんだよ」
そう言って朝倉さんの食べ残しを食べながら、俺は今日二番目のお客が来るのを待った。




