Ⅴ話 女は怖い
アテメと名乗った女性は、落ち着きを取り戻したようだった。
「ごめんねー、ちょっと考え事しててぇー。ゼウラ様がお呼びだからぁ」
彼女はこっちに来てという合図なのか、俺に向かって手招きしてきた。
周りからは、俺に視線が集中している気がした。
左右に羽を生やした者、そうでない者が沢山いる。
パソコンやプリンターこそはないが、ここはまるで会社のようだった。
俺はとりあえず信用できる人がいないので、彼女についていった。
そこで俺は、いくつか彼女に問ってみた。
「あの……質問、いいですか?」
俺がそう言うと、彼女はにこっと微笑み、優しい口調で答えた。
「えぇ、もちろん。質問ってなぁーに?」
「……ここって天国ですか?」
俺はおそるおそる言ってみた。
「いいえ、違うわ。ここは天界。天国は死んだ人が行くけれど、ここは神や天使、悪魔や死神が集う所よ」
俺は言っている意味が分からず、頭の中がハテナマークでいっぱいだった。
「つまり……俺は死んでいない……ってことですか?」
「そう。貴方は死んでいないわ。世界で5つ、天界と人間界を繋ぐ道があるの。貴方はその道を通ってしまったのよ」
彼女はふぅっとため息をつくと、少し足取りをゆっくりにした。
俺は、まだ死んでいない――!?
つまり、また生きていけるってことか!
そして俺は、生前の天使に何か関連があるのかと思い、質問をした。
「あと……ラファエラて人?否、天使?ご存知ですか?」
彼女はその質問を聞いて、歩いていた足を止めた。
「ラファエラに、会ったの!?」
やっぱり、あの天使というのはどうやら嘘では無いらしい。
「えぇ。神社の祠で……彼に突き飛ばされてここに来ました」
俺はそう言うと、彼女は呆れた様子だった。
「ラファエラったら……!祠を封印し忘れたのねぇ!」
穏やかだった彼女の顔が一変、険しい顔になった。
俺はそんな顔を見て、少し……否、かなり身震いした。
女って怖えぇーっ!
暫く歩くと、彼女はドアの前で立ち止まって、カッカッとノックした。
「どうぞ」
低い、おじさんみたいな声がした。
彼女は重々しいドアを開けた。
ギイィと、ドアの音がする。
ゼウラ……って気難しい人だったりして?
一応、この天界を統治されている方……なんだよな?
立派な髭を生やし、立派な机に立派な椅子に腰掛け、いかにも社長。
「連れて来ました。どうやらラファエラが祠を封印し忘れた挙句、彼を突き飛ばして穴に落としてしまったそうです。人間の彼に非はありません」
彼女は先ほどの穏やかな表情と優しい口調だったのに対し、キリッとした表情、凛とした口調で、いかにも社長秘書~な感じだった。
女って怖えぇーっ!
彼女が俺に非は無いと言ってくれたお陰で、俺は少し安心した。
が、俺も俺で彼にしがみついたりしたから、彼だけに責任を問われるとなると……少し罪悪感が芽生えた。
「そーか、そーか。ラファエラが……全く世話が焼けるねぇー」
あ、案外縁側でお茶飲んでる爺さんみたいな人だ。
俺は安堵のため息をついた。