Ⅱ話 俺の愛しい水――……
熱い暑い猛暑の人間界……
神社を出発してから15分。
人影が疎らな細い住宅街の道。
家までまだ半分以上もある……
俺の喉もさすがに干からびてしまい、とにかく水を欲した。
もう、この喉の渇きは痛みを感じるほどに――――喉が千切れるほどに――――
陽炎が揺れ、住宅の蜃気楼が見えてきた……
水……水…………水―――水―――――……
「暑い……水……水筒……」
俺はリュックサックのチャックを開け、水筒を探す。
が
出てくるのはタオルやら軍手やらで、一向に水筒が姿を現さない。
「やべぇ、もしかして……」
水筒……ワスレタ――?
俺はさっきよりもダラダラ汗を流した。
暑さからじゃなく、それは冷や汗で……
心当たりのある所はすぐに思い出せた。
休憩時間にあの日陰のある祠の近くで水筒を出して飲んだ。
もしかしたら、あの祠の近くに――……!
俺はなんとしてでも水を手に入れるため、陽炎の揺れる炎天下の道を引き返した。
「確かここら辺に……」
15分後、俺は神社に引き返してきた。
さっきまでボランティアで賑わっていたのに、もう静まり返っている。
鳥居と狛犬の裏に、さっき気になっていたあの祠があった。
「あった……!」
案の定、あの薄気味悪い祠の横に黄色い筒が横たわっていた。
「良かったー!」
残り少ない水筒は、持ち上げると軽くてちょっと虚しかった。
もう少し入れてくれば良かったな、と少し後悔する。
このままでは帰りの水が無くなってしまう――……
でも、もう限界だ。
俺は水筒の飲み口を唇に近づけた。
やっと水が飲め――……
ガッ
「わ!?」
俺の顔面1cmにも満たないキョリで、何かが祠の穴から出てきた。
俺は祠の中からヌッと出てきたものに驚き、声をあげた。
そして手からスルリと筒が抜ける。
「ぎゃああああぎゃああーっ!」
得体のしれない゛モノ゛は物凄い勢いで出てきて、俺にぶつかった。
俺は何かに勢いよくぶつかり、4mくらい先まで飛ばされた。
激しく体を地面に叩きつけられる。
「い……ってえぇ――っ!」
全身に鈍い痛みが走る。
痛い、イタイ――……
「何が起きたんだ……?」
俺はやっとの思いで砂だらけの服と手を払うと、悲しい光景を目にした。
「…………俺の……み……ず――?」
その瞳は、まるで自分の愛しい人の亡骸を目にするような。
黄色い筒が横たわり、液体がドクドクと流れ、地面にシミをつくっていく……
瞳孔が大きく開き、視界が水彩画の様にぼやけて潤んだ。
「うっ……うそだろおぉ――――ッ!?」
俺は干からびた喉で、物凄い力で叫んだ。
中枢神経を通らないで末梢神経で伝達された、反射による叫びだ……