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4話

 とりあえず売れたので広場から去る。薬を買った青年の結果は見なくていいし、後から文句言われても困るもんな。


『えっ!?無責任じゃ?』


 神様ったら…


「いやね、ちょっと勇気の出る薬だよ?リラックスできてれば、絶対誘えるし、所詮は気の持ちようだもの。相手のタイプじゃなきゃ断られることもあるし、結果の責任はとれないよ。」


 さて、この話はおしまいだよ、と心の中で思い、辺りを見回す。異世界に来てからまだ3日。昨日の街ブラで滞在に必要な物を揃えたり、薬瓶などを見繕ったりしたおかげか、宿周辺ならどこに何があるのかは大まかにわかった。あ、そうだ、市場に行こう。途中、まだ神様がモゴモゴ言ってたけど、いいんだよ、恋なんてなるようにしかなんないんだから。


 そんなこんなでガヤガヤと賑やかな音が近づいてきた。市場に到着だ。海外の市場みたいに野菜や果物なんかが山積みになってたり、お魚や肉屋もある。歩いたからお腹すいたぁ。お昼は屋台のごはんにしよう。美味しそうな匂いが屋台から漂ってくる。目についた薄いパンを焼いている屋台の前で止まる。


「おじさん、これ1つちょうだイ。」

「あいよ~。」


 おじさんが焼きたてのパンに手際よく肉や野菜を挟んでくれる。


「色っぽい嬢ちゃんにはサービスだっ。」

「わー。アリガトーおじさんっ。」


 おじさんはちょっと多めに肉を入れてくれた。パンの代金を払い受け取っていると、隣の屋台の人とお客さんの話が聞こえてきた。


「―だから婆さん出てこねぇんだよ。」

「やっぱり心配だねぇ。」


 ん?何だろう?


「ねぇ、おばあさん、どうしたノ?」


 さりげなく会話に参加してみる。


「うわっ。なんだ嬢ちゃん、見ねぇ顔に格好だな。旅行者か?」

「ノー、違うヨ。わたし薬売りネ。最近仕事始めたヨ。」

「へぇ。そうなのか。うちの婆さんは病気じゃねぇから薬はいらねぇぜ。ただ、爺さんが死んでからすっかり気落ちしちまってなぁ。家にこもってばかりで心配してんだよ。」


 私の姿にびっくりしたようだが、隣の屋台のおじさんは手元の鉄板を見ながら話を教えてくれた。


「ちょっと前に私も誘ってみたんだがねぇ。首を横に振るばかりで…。少しでも外に出れば気分も良くなるだろうにねぇ。」


 お客さんも心配なようだ。ふぅん。おばあさん、きっかけさえあれば出てきてくれるかなぁ?ふむ。ねぇ神様、気持ちを変えるんじゃなくて偶然引き起こす事ってできる?


『具体的なイメージを思い浮かべて見てくれるかい?それで判断するよ。』


 よしきた。こんなイメージはどうだろうか。思い付いたことを想像してみる。


『うん。それなら可能だよ。』


 早速手持ちの薬に力をかけてもらい、屋台の人に提案してみる。


「そういうことなら、私に任セ。」

「お任せって。どうするんだ?」

「おばあさんが外に出るきっかけを作る薬ありマス。」


 今度は黄色の水薬をバババーンと効果音を言いながら薬瓶を見せる。


「はぁ?きっかけを作るったって薬は関係ねぇだろう?そんな都合のいい話があるわけねぇ。」


 ですよね。やっぱり信用してないようだ。でも強気でいくよ私!


「そんなこと言言われてモ、そういう薬が事実あるのデース。信じろとしか言えまセーン。」

「おい。そんな怪しい薬買えねぇよ。」

「きっと成功しますヨ?」


 自信満々に頷いて見せる。が、やっぱり屋台の人は信じない。もーしょうがないなぁ。


「たった1,000ウェンなのニ?」

「いやっ、安くもねぇよ。ちょっとした薬が買える値段だろ?」


 心の中で結構値引きしたのにうんとは言ってくれない。ちぇっ。


「これも立派な‘ちょっとした薬’デース。」

「なんでそんなに売りつけたがる。」


 だんだん眉間にシワも寄ってきてますね。コワイコワイ。


「そりゃあ、おばあさんが心配だからデース。ですが、こちらも商売デス。涙を飲んで大特価サービスデース。」

「そうは言われてもなぁ。」


 しつこく勧めるせいか今度は困った顔になってきた。


「私も故郷におばあちゃんいましタ。ずっとばあちゃん子だったのデース。歳を重ねるごとに元気がなくなっていく姿は悲しい事デシタ。今はもう…だからこそ、そのおばあさんには元気になって欲しいデース!」


ぐっと力を入れて屋台の人を見る。本当に悲しい事なのだ。年老いていく姿はもちろん自然な事なのだし受け入れていかなければならないが、少しでも穏やかに幸せに笑ってほしい。


「ねぇ、トニーの旦那。せっかくだから使ってみたらいいんじゃないかい?それで元気になるなら安いもんじゃないかねぇ?」


 黙って聞いていたお客さんがとうとう助け船を出してくれた。嬉しいっ。


「そうデース。騙されたと思って買ってくだサーイ。」


「しょうがねえなぁ。じゃあ、この街で商売始めた祝いとして買ってやるよ。これで文句ねえな!」

「わー。ありがとうおじサン!じゃあ、1,500ウェンデース。」

「おいっさっきより値段上がってんじゃねーか。」


 はぁっとため息を吐いた店主代金を渡してきた。


「効果が出るまで日数かかりマース。外に出てからは任せるヨ。」

「ほんとに効くのか嬢ちゃん?」

「騙されたと思って試す価値ありヨ。薬事態は副作用ないネ。それじゃおじさん毎度アリ。奥さんもアリガトー」

「いいんだよ。この街はいいところだよ。商売うまくいくといいね。がんばりな。」

「うん!サンキューアリガトメルシーボクー。」


 買ったごはんを食べながら、王都なんてでっかい街なのに、この街の人たちが優しいことをしみじみ噛み締めた。よっし。じゃんじゃん売るぞ。がんばろうね。神様。






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