1話
―いつの間にか真っ白な部屋、というか空間に独りぽつんと立っていた。
…あぁ夢か。いつの間にか眠ってたんだな、年末が近いせいか仕事忙しかったもんなぁ。
私が勤める会社は10人ぐらいしか社員がいない。女だって私だけ。営業の皆は忙しく事務員の手伝いなんてしちゃくれないのだ。
疲れてんだから夢なんて見なくてもいいのになぁ…。ぼんやり遠くを見つめたが真っ白な空間は境界線もない。
『夢じゃないよ。』
突然降ってきた声にびくっとする。思わず振り返ったが誰もいない。
『僕はまだ形がないんだ。とても小さな存在だから…』
また不思議な声がする。うん。こりゃ夢だな。私ったらのんきにレム睡眠してる場合じゃない。
「そうですか…。じゃあ私、本気で寝るんで。しっかり休まないと明日がつらいんです。」
『待って待って!君は寝ていないし、いま起こっていることは現実だよ?疲れている所申し訳ないけれど、少しだけ話を聞いてくれないかな?』
声の主は早口になって私を引き留めた。
「はぁ。何なんですか?」
色々疑問はあるが、眠れないみたいだし話を聞くことにした。
声の主は生まれたばかりの神様らしい。今はまだ成長期で、これから自分が司る世界へ行き人々の生活や願いを知ることで神として完全体となるそうだ。そして人を知る為には私が必要である、と。
「それって私じゃなくてもよくない?というか、見聞きするだけなら自分でできるんじゃないの?神様なんだし。」
『先輩に聞いたら人に紛れて生活するのが一番いいみたいなんだ。僕は完全体じゃないから人にはなれないけれど、特定の人物と混じり合うことはできる。その人越しに世界の有り様を知れればいいんだ。…確かに君である必要はなかったけれど、呼び出すタイミングが一致した人間は君だけなんだ。』
神様にも先輩とかいるんだな。
「うーん。面白そうではあるけど…。」
仕事の山から逃れて異世界生活だなんて最高だ。こんなチャンス二度とないし行ってみたい。でも不安に思うところもある。
『もちろん、向こうでの生活は保障するし、完全体になれたら元の世界に返すよ。』
だめ押しである。
もう拒む理由は無かった。