第十一章 劉伯升の企み
―――兗州泰山郡にある泰山。
かつて、秦の始皇帝や、漢の武帝・劉徹といった歴代の皇帝たちが「封禅」の儀式を行ったことで有名な聖地である。
現在、その麓において、おおよそ二万人もの人間がひしめき合っていた。
そのうちの一万人は、始めからここにいた人間であり、残りの一万は、つい先ほど徐州からやって来たばかりの男たちであった。
その徐州勢を率いてやって来たばかりの新参者である徐次子ら、「旧呂母海賊団」の幹部たちは、現在、陣中を見て、唖然としていた。
「なんだ、これは?」
徐次子は息を呑んだ。
数日前、斥候から聞いた報告では、樊崇なる者が泰山近辺で大いに暴れ回っているとのことであり、それは頼もしいものであろうと期待していたのである。
ところが、実際に合流して、相手の陣中を見てみれば、それは予想をはるかに裏切るものであった。
泰山の麓にいる流賊集団は、自分たちと同じ一万人だと聞いていたのだが、実際に行って見てみると、それは軍隊どころか、盗賊集団ともかけ離れたものであった。なにしろ、陣中には男だけでなく、年老いた老人や、赤ん坊を抱いた女性、さらには無邪気に遊び回る子どもたちまでもがいたのである。
それだけではない。軍中にいるのは人だけではなかった。
砂礫だらけの荒地の上には、牛や羊といった家畜が放し飼いにされていて、まだ幼い牧童たちが、家畜相手に戯れていたのである。
「猛虎の兄貴……」
一抹の不安を覚えたのか、徐州組の幹部の一人が口走ったが、徐次子は遮った。
「言うな。俺だって、何が何だか、わけがわからねえんだ……」
本当にその通りであった。
彼らの目に移るこの集団は、流賊というよりは、難民の集団に等しいものだった。
いったい、どういうことかと疑問に思った徐次子たちは、ひとまずは訳を聞こうと、この集団の首領である樊崇の下へと向かうことにした。
*
「やあやあ、皆さん! 泰山にようこそだべ!」
本陣の幕内にたどり着いた徐次子たちを待っていたのは、彼らをさらに脱力させる光景であった。
「一万人もの人たちを連れて、仲間に加わりてえって聞いたときにゃ、おらぁ、感激したべ!」
田舎者丸出しで、いったいどこの生まれなのかわからない訛りで、元気いっぱいに徐次子たちを歓迎する、ぼさぼさの短い黒髪のちっぽけな少女。
このどこの馬の骨かわからない少女こそ、「泰山難民集団の首領」、樊崇だったのである。
(な、なんだ、コイツ……!?)
徐次子たち一行は呆然となった。一万人もの大集団を率いているというのだから、いったいどれだけ凄い人物かと期待して来てみれば、そこにいたのは、田舎者丸出しの、見るからに無学な少女だったのである。どこで拾ったのか、一人前にボロボロの革の鎧を身に着けてはいるが、それを除けば、その辺にいそうな子ども以外の何者でもなかった。
しかも、それだけではない。
「いやー、ホント、助かったっしょ。男手が少なくて、私たち、ちょうど困ってたんだべ」
樊崇の隣にいる、同じような鎧を身にまとった、茶色の巻き髪のでこっぱち少女、逢安が、やはりひどい訛りのある声でそう言った。
「せやなー、安ちゃん」
今度は、水色の髪を頭の両側でそれぞれお団子にした少女、徐宣が笑顔で言った。どこで拾ったのか、彼女は虫食いだらけの、ボロボロの「女性用儒服」を身にまとっていた。
「ウチらだけじゃこころもとなかったし。でも、徐次子のおっちゃんが来てくれたおかげで、万事すべて、解決やー!」
「せやせや!」
相槌を打ったのは、紫色の髪をやはり頭の両側でお団子にした少女、楊音であった。髪の色を除けば、徐宣と同じ格好であるため、あたかも双子であるかのように見えた。
「こんだけのおっちゃんたちが来てくれたんやさかい、ウチら、ほんま、無敵やわー!」
「はうう、おじ様たちが、こんなにたくさん……」
勝手に盛り上がる樊崇たちの後ろで、黄緑色の髪を後頭部でまとめ、馬の尾のように垂らした髪型の、やはりボロボロの「儒服」を身にまとった少女、董憲が縮こまっていた。恥ずかしいのか、彼女は被っていた帽子で顔面を隠していたのである。
(なんなんだ、コイツら?)
徐次子は、混乱した。
本陣にいる、「幹部」なる者たちは、どこをどう見ても、子どもばかりだったのである。
しかも、その全員の様子を見れば、どうも軍隊を率いているという意識がないみたいであり、例えるなら、まるで子どもたちが「軍隊ごっこ」でもしているかのような有り様だったのである。
「兄貴、ど、どうしやす?」
冷や汗をかいた子分が震える声で聞いた。あたかも、徐次子に助けを求めているかのような声である。
「ま、まあ、待て」
徐次子はそう言って子分を落ちつけさせたが、内心、
(俺の方こそどうすればいいか聞きてえよ!)
と、思っていた。しかし、ここまできた以上、なんとか話だけは着けなければならない。
「いやー、樊崇どの。この度は、我々を受け入れてくれて、まことに感謝の限りでござる」
ひとまず、悪少年・徐次子は、彼らしくない声で、堅苦しい挨拶をした。いつの世も、挨拶は重要である。
「そんなに堅苦しくしなくていいんだべ! こっちだって、男手が増えて、本当に嬉しい限りってやつっしょ!」
挨拶を受けて、樊崇は笑いながらそう言った。その瞳はキラキラとしていて、本当に嬉しそうであった。
(ま、まあ。ある意味、噂以上に明快なヤツだな)
徐次子はそう思った。普通、組織の人数が増えるとなれば、様々な問題が生じるのである。単なる数の問題ではなく、例えば、兵糧の問題一つにしたって、そう簡単に上手くいかないのだ。だから、組織の幹部と言うものは、常に胃が痛む思いに駆られるものである。それについては、徐次子自身がこの1、2ヵ月で体感してきたことである。
しかし、今目の前にいる少女には、そういったことで苦悩している様子は見られない。どうも彼女は、単純に人数が増えたことを喜んでいるだけのようであった。
そんな様子を見て、徐次子は、樊崇のことを、一言でいえば「馬鹿正直」なヤツだと思ったのである。
「いやー、歓迎されて何より。しかし、樊崇どの」
作り笑いをしながらそう言うと、徐次子は先ほどから思っていた疑問を解き明かそうと、目の前の田舎少女に向けて一つ質問することにした。
「なんだべ?」
「先ほど、軍中を見て回ったが、あれはなんでしょうか? 見たところ、女、子どもや年寄りまでいっぱいいるようですし、おまけに牛や羊が放し飼いにされているようですが?」
「ああ、あれ?」
答えてくれたのは、逢安だった。
「女の人たちや子どもたち、おじいちゃん、おばあちゃんたちは、皆、私たちの兵隊さんの家族の人たちだべ? あと、牛や羊とかは、皆が持ってきたり、その辺から連れてきたものだから、皆で飼ってるんだべ」
「せやせや。お牛さんとかは、荷物運びに使えるし、羊さんとかは、毛とかとれるし」
「いざという時は、皆で食ってしもたらええんや。いろいろ役に立つやろ?」
途中から、ぴったりの呼吸で、徐宣と楊音が割り込んだ。
だが、徐次子は納得がいかなかった。
「いや、しかし。いざ戦いになった時、邪魔になるのでは? いったい、ここではどのような『変法』を使っているので?」
彼はそう聞いたのである。「変法」というのは、およそ三百七十年前の春秋戦国時代の秦に登場した政治家、商鞅が行った政治改革のことだが、その中に、「什伍」と呼ばれるものがある。商鞅は戸籍制度を作り、民衆を五戸、または十戸ごとに一つに分け、それによって住人同士を監視させる防犯の仕組みを作ったのだが、後年、軍隊を編成するに当たって、この「什伍」を元にして部隊編成が行われたのである。五人ごとの部隊を束ねる部隊長を「伍長」、十人ごとの部隊を束ねる部隊長を「什長」というのはそのためであり、当時としては最もわかりやすいものであった。
いつしか、この編制のことを、「変法」と呼ぶようになっており、例え、どんなに無知な盗賊でも、このやり方に従って部隊作りを行う事が多かったのである。
徐次子が変法について聞いたのは、
(お前たちの軍は、女子供、老人も家畜もごっちゃになっているが、いざ戦争の時、どのような部隊編成を行っているのか?)
と、いうことを聞こうとしたことにほかならない。
ところが、樊崇たちから帰って来た返事は、またしても予想を裏切るものであった。
「『変法』? なんだべ、それ?」
樊崇はわけのわからないという顔で、そう言ったのである。
「なあ、逢安。おめぇ、なんか知っとるだべか?」
「ううん? 私、全然知らないっしょ。 宣ちゃんはなんか知っとるだべか?」
「ああ! 『変法』やろ? なんか昔、商鞅はんとかいう、えらーい、おっちゃんが作った、難しい法やろ? まあ、ウチは詳しいこと、なーんも知らへんけどなー。音ちゃんはなんか知っとる?」
「あほう! 宣ちゃんが知らんこと、ウチに聞いても、知っとるわけないやろ!?」
「ああ、せやな。あははは!!」
「はうう……」
「ど、どうしやす、兄貴ィ!?」
少女たちのこのやり取りについていけなくなったのか、既に顔中、脂汗まみれの子分が、徐次子に助言を求めた。
「いっそ、琅邪に帰りやすか?」
彼は、本当に帰りたそうであった。だが、徐次子はなぜか首を横に振った。
「ま、まあ待て!」
「なんでですかい!?」
「俺たちは、食いもんがなくてここまで来たんだ。今更引き返したところで、結果は同じことだ。まあ、責任は俺がとる。俺としても不本意なことだが、ここはひとまず、コイツらと一緒に、楽しくやろうじゃねえか」
彼はもっともらしい事を理由に、ここにとどまることを部下に告げたのである。
「ま、まあ。そう言うのでしたら」
とどまることと、その理由を聞いた部下たちは、黙って徐次子の言うとおりにすることにした。
だが、徐次子にしてみれば、先に言った理由とは別に、ここにとどまらないといけない理由があった。それは、本当に情けない理由である。
目の前で茶番劇を繰り広げる少女たちを見ているうちに、彼は心中で、次のように叫んでいた。
それはすなわち、
(ダメだ……。コイツら……。ほっとけねええぇ!!)
*
同じころ、こちらは舂陵郷。
修と秀児は、伯升の号令の下、今日も部曲たちとの鍛錬で、徹底的に鍛え上げられた所であった。
「うう……、足が、足が……」
鍛練はとっくに終わったというのに、修は立ち上がれないままであった。
無理もない。なにしろ、今日は重い葛籠を背負ったまま、十理(約五キロメートル)も走らされたのである。
おかげさまで、修はすっかり、筋肉痛になってしまったのだ。これで立てという方が無理であろう。
「修くん、大丈夫?」
心配した秀児が駆け寄ってきた。彼女も修と全く同じ鍛錬を受けていたため、かなり疲れてはいたが、それでも修ほどひどくはない。さすがは、「あの伯升」の妹だけはある、というべきであろうか。
「ああ、全然、大丈夫じゃない……」
修は顔をしかめながら言った。重荷を背負ったまま走り続けたせいで、彼の足は、まるで棒のようになっていた。
そればかりか、所々からは血が出ていたのである。
「わ、大変だ! 血が出てるよ!」
秀児は思わず自分の両手を口元に当てると、すぐに修の横に屈みこみ、自身の肩を貸してやった。
「ほら、立って。早く家に帰って、ちゃんと手当てしないと……」
そう言われると、流石の修も、立たずにはいられない。左手で秀児の肩を借りると、足が痛むのを耐えつつ、なんとか立ち上がる事が出来た。
「サンキュー。助かるぜ」
「さんきゅー?」
「あ、いや。ありがとな。お前だって疲れてるだろうに」
「ううん。大丈夫だよ」
家へと移動しつつ、話しあう二人。この二人は、本当に仲良しである。
「それにしても……」
家に向かう道中、ふと、秀児が言葉を漏らした。
「ん、どうしたんだ、秀児?」
「あ、いや。あのね、最近、やけに鍛錬が厳しいな、と思って」
「ああ、確かにそうだな……」
修は納得して頷いた。秀児の言うとおり、この一ヵ月、伯升が主導で行う鍛錬が、やけに厳しくなっているのである。
今日みたいに、重荷を背負ったまま走らされたかと思えば、五人ごとの組に分けられ、槍に見立てた棒を持たされ、組同士で戦わされたりもしたし、ある時は十人ずつの組に分けられて、そのまま前進するように言われ、言う通りにしたところ、途中の木の影や草むらの中から、伏兵役が現れて襲いかかって来たということもあった。
その度に、修が腰を抜かして歩けなくなったことは、別の話である。
それはそうと、この最近の鍛錬のやり方が、やけに本格的過ぎるのではないか。二人とも、どうしてもそう思わずにはいられなかった。
「でも、まあ、伯升さんも言ってたじゃないか。『この間、山を降りた盗賊どもがこっちに来ている』って。だからじゃないか?」
修は伯升のことを擁護するかのように、そう言った。
毎晩、賓客たちと交わっている伯升の下には、賓客たちを通じて様々な情報が入ってくるのである。
その情報の多くは、この辺り一帯で起こった出来事についてであり、つい最近、緑林山に巣食う「緑林軍」の軍中で悪疫が発生し、人数が半減した彼らが軍勢を分けて山を降りたという情報も、伯升の下に入ってきていた。
鍛錬に際し、修たちも伯升からこの事を散々聞かされていたので、
「それなら、盗賊よりも強くならないと」
との想いで、いかなる訓練にも耐えて来たのであった。
そのため、修は特に伯升の行動に疑問を持っていなかった。彼の知っていることを引用するなら、かの「三国志」の劉備たちは、物語の冒頭で、「黄巾賊」の討伐のために兵を挙げているのだから、それと同じ事だろうと、一人で納得していたのだった。
だが、秀児はどうも、納得できていない模様である。
「うーん。それだといいんだけど……」
そんな彼女の様子を見て、修は首を傾げた。
「どうした?」
「あ、ううん。なんでもないよ」
聞かれた秀児は、そう言って微笑み返すと、
「ほら、もうすぐ家だから」
と言って、そのまま足に怪我を負った修が歩くのを手伝い続けたが、実は内心ではこう思っていた。
(最近の、縯兄様の鍛錬のやり方、やけに本格的過ぎるよ。何と言うか、あのやり方は、この土地を守るための戦い方というより、まるで、どこかに攻め入るかのような感じが……。なんかの間違いだといいのだけど……)
結局、彼女はその場では口に出すことはなく、修を家に運び込んだのであった。
*
そして夜。
空に三日月が昇る中、劉兄妹の家では、三人でのささやかに夕食を楽しんでいた。
今日の晩御飯は、粟飯と、春萌の家から分けてもらった牛肉と、家で採れた野菜で作った羹であった。
本当にささやかな食事である。
「修。今日もお前は、よく頑張ったな。だから、何杯でも飯はおかわりしろよ!」
酒の入った盃を片手に、伯升が修に向かって声をかけた。
「しっかり動いた分、しっかりメシは食え! それが、男というもんだ」
昼間の厳しさとは打って変わって、本当に面倒見のいい人である。
修は、この世界に来た当初、どうして「怠け者」の伯升が、大勢の賓客に慕われているのかがわからなかった。
だが、彼の家で半年近くも居候させてもらっている今となっては、なんとなくそれがわかるような気がしてきたのである。
鍛錬の時などは、一切妥協せず、とにかく鞭ばかり振るうような男だが、夜になると、共に食い、共に飲み、共に話す。一言でいえば、「アメとムチ」の使い方がうまい人間。それが、劉伯升であると、修は思うようになった。
そんなわけで、その日もしっかりと晩飯を食べ終え、あとは「お酒」(どぶろくの一種)でも一緒に飲むかと、思ったときであった。
「縯兄様」
ふと、秀児が口を開いた。
「なんだ、秀児?」
「ひとつ、お聞きしてもよろしいですか?」
いつになく、真剣な眼差しで、兄の顔を見上げる秀児。そんな彼女の顔を見て、修は何事かと思ったが、ひとまずは話を聞くことにした。
「なんだ?」
「縯兄様。ここ最近の鍛練についてですが、やけに張り切り過ぎていませんか?」
「なんだ、そんなことか」
伯升はそう言うと、笑みを浮かべながら、いつもの理由を言った。
「前にも言っただろが。ほら、例の『緑林軍』が……」
「『緑林軍が攻めてくるかもしれねえ』。しっかりと憶えていますよ」
秀児はわざと声を落として伯升の声を真似すると、にこやかな笑みで、話し続けた。
「ですが、今日の鍛練の最中、ふと思ったのです」
彼女はそこで一旦息をつくと、そのまま自身が考えていることを、一気に告げた。
「この一ヵ月の鍛練ですが、どうも兄様のやり方を見ていると、単に賊どもから土地を守るための特訓とは思えない気がするのです」
「ほう、その根拠はなんだ?」
「今まででしたら、単純に部曲一人一人に槍の扱い方とか、並び方とか、春萌義姉さまのお屋敷への避難といった、簡単なものでした。しかし、この最近は、異常なまでにたくさん走ったり、組ごとに分かれて戦ったり、やけに陣形まがいな整列をしたり、『伏兵』と戦ったり。どうも本格的過ぎるのですが? 思うに、あれは、『どこかを攻めるための鍛練』みたいにも見えるのですが」
彼女はそこまで述べた。なるほど、たしかにおかしな話である。
単純に土地を守るだけなら、どうして、「どこかを攻めるための鍛練」などをするのであろうか。
だからこそ、秀児は疑問に思ったのである。それだけではない。
「思い返せば、鍛錬が厳しくなったのは、一ヵ月前。あの横暴な役人が春萌義姉様の所にやってきた次の日のからです」
「秀児。お前、ちゃんと見ているじゃねえか」
秀児の言うことを黙って聞いていた伯升が、怪しげな笑みを浮かべながら言った。
「縯兄様。兄様は、まさか……」
「おっと、待った! 俺は何も、あんなくだらねえ猪役人ごときにケンカを売るつもりは、一切ねえ!」
秀児が冷や汗を浮かべながら言いかけた時、伯升は秀児が何を言わんとしたのかを察したらしく、役人にはかまわないと、はっきり言ったのである。
「なあんだぁ……」
それを聞いて、修も秀児も胸をなでおろした。だが、伯升の話は、これで終わりではなかった。
「いいか、よく聞け」
ホッとする二人を見て、伯升は相変わらずの笑みを浮かべたまま、言葉をつないだ。
「この劉伯升、あんなくだらねえ連中の事など、まったく相手にしておらんわ! あんな連中、相手にするだけ、時間の無駄というものよ!」
そこまで言うと、伯升は、二人が全く予想していなかった事を口走った。
「この劉伯升が望むことは、ただ一つ! 簒奪者・王莽を誅し、高祖が築きし大漢帝国を、この地上に甦らさんことのみ!」
それを聞いた直後、ちょうど酒(甘酒)を飲んでいた秀児が、すぐ前にいた修の顔面に向けて、口の中の酒を噴いてしまったことは、別の話である。




