ようこそ我らが地球へ
SF…とはかけ離れた駄文ですのでご注意下さい(逃)
今回の調査は、初の実地潜入という事で少しばかり緊張している。
調査対象は、第177宇宙域第8銀河系第3惑星。
俗称・地球。
この比較的新しい惑星で、現地民とのコンタクトをとるのが、今回の私の仕事だ。
私はスーツという戦闘服を着込んで、鏡の中の自分を観察した。
もちろん、現地民である地球人の姿形を借りている。
目は二つ、鼻が一つに、口が二つ。
これで潜入後も奴らは私の正体には気がつかないだろう。
それにしてもおかしな話だ。
こんな薄っぺらい服を着て、戦闘服だと言うのだから、きっと地球という惑星の現地人達はおそろしく頑丈な表皮を持っているに違いない。
準備万端、私はかねてからの計画通り、現地人たちに見つからないように地球に潜入した。
さんぐらす、というものに似せた情報端末兼太陽光線遮断のゴーグルを装備する。
私にはこの星の眩しさは耐え難いのだ。
かくして私は、着陸地点から現地人達がひしめく通りへと足を向けた。
トーキョー。
それが私の降り立った場所の名前らしい。
そこには私の予想を遥かに越えた数の戦闘員達がひしめいていた。
みな同じような「スーツ」に身を包み、四角く高い箱を出たり入ったりしている。
おそらく、あれら全てが基地に違いない。
これは思ったよりも危険な星のようだ。
しかし今回の私の任務は、あくまでも交戦ではなくコンタクトだ。
来るべき侵略の日の為に、現地人のデータを収集しなければならない。
私は用心しながらゆっくりと辺りを見まわした。
イスに腰掛けている現地人が、口から何かを吐き出すと、それは白く煙って上空へと流れていった。
…あれは何だ。
手に持っている白い小さなモノを、再び口に運ぶ。
私は目を凝らした。
食べたものを惜しげもなく吐き出すとは、妙な光景である。
私はゴーグルをその現地人に合わせると、口から吐き出した煙の情報を引き出した。
…なんて事だ。
あれは、毒ではないか。
私は愕然とする。
現地人はなおも、毒を吸いこんでは吐き出し、また吸いこんでいる。
…ここはやはり、思ったよりも危険な星のようだ。
おそらくあれは、来るべき襲来に備えて、自ら毒を身体にいれて慣らしているに違いない。
反対側では、数人の現地人達が群れている。
怪しまれぬよう、私は細心の注意を払いながら横歩きに近づいた。
甲高い声が耳につく。
「ほら、これよ」
「なに、それ?もしかしてあれ?新しく出て今CM中の…なんてったっけ、あのファンデ」
「そうそう、それ。昨日発売日だったのよ。買っちゃった」
「うわ、給料日前なのにリッチねぇ」
「どうどう?良い感じ?あたしも買おうかなー」
「ちょっと使ってみる?」
話の主格らしい現地人が鞄から四角いケースを取り出した。
わたしはすぐさま、ゴーグルでその成分情報を引き出しにかかる。
現地人らは順番にそのケースから何かを顔へと塗布し始めた。
…何てことだろう。
私は再び戦慄した。
彼らは恐らく、肌からも毒物を吸収して有事に備えているらしい。
なるほど、この星では日常的にこういった訓練がなされているのだろう。
これはますます気を引き締めてかからねばならない。
コンタクトは、別の現地人を選んだほうが良さそうだ。
通りの先から、小さな生物が歩いて来た。
白い生き物だ。
あれは確か…。
私は情報を確認する。
そうだ、イヌという生き物に違いない。
現地人がペットとして飼っているという動物だ。
ゴーグルにうつったイヌの後頭部の下あたり、首のところに私は光の点滅を発見する。
どういう事だ。
生き物の中から、機械的な反応があるとは。
情報を詳しくみてみると、なるほど、イヌに埋めこまれた機械は「衛星」とコンタクトを取っているらしい。「迷子」にならないように、イヌに仕込まれているという。
…何の事かはさっぱり分からないが、察するに、こういう事だろう。
宇宙空間にある「衛星」とコンタクトを取る事で、宇宙域からの襲来を予期し、迎撃するつもりに違いあるまい。
イヌは大量に飼われているらしいから、これで宇宙からの襲来に対する警戒は万全という訳だ。
やはり、あなどれない星である。
私はとんでもない星に降りたってしまったのかもしれない。
次に目についたのは小さな現地人だった。
基地の壁に凭れながら、手元に持った何らかの機械を操作している。
私は恐る恐る、近づいていった。
横からこっそりと覗き込んで、私は慌ててその傍を離れた。
…子供までが、あのような訓練をしているとは。
いわゆる、バーチャルトレーニングというやつだろう。
小さな現地人は、手に持った小さな機械の画面で、迫り来る宇宙艦を撃ち落していた。
額に浮かぶ冷や汗を拭いながら、私は来た道を引き返し始める。
おかしい。
平和ボケした穏やかな惑星だと聞いていたのだが。
戦闘準備がこうも整っている星だったとは、寝耳に水だ。
これは一度、体勢を立て直して出直してくるべきであろう。
急ぎ着陸地点へと戻る私の目に、やけにゆっくりと歩いて来る現地人の姿が映った。
はっとして足を止める。
戦闘服は装備していない。
背を曲げて、ゆっくりとこちらに向って歩いて来る。
ゴーグルごしにも、危険なところは見受けられない。
…まともな一般人もいるではないか。
これで調査ができる。
私はほっと胸を撫で下ろした。
現地人は近付いてくる。ゆっくりと、一歩一歩。
「あの」
現地人の言葉で、私が声をかけた、その途端。
妙な音がその現地人の身体から発せられ、懐から現地人が小型の機械を取り出した。
ゴーグルが機械に反応する。
現地人は声をかけた私と手に持った音を発する機械を交互に眺めると、やおら私にその機械を差し出してきた。
手に収まるサイズの機械。
音は鳴り止まず、ランプがちかちかと発光している。
画面には数字がこれまたちかちかと踊り、その下にはボタンがたくさん配置されていた。
私はピンときた。
この機械は警戒音を発しているのに違いない。
となればこれは、宇宙人発見器なのだ。
緊張が頂点に達する。
「あの〜、すまんがコレは、どうやったら出れるのかねぇ」
現地人が何かを言っているのも、全く頭には入ってこない。
こんな危険な星で、私一人で正体がバレてしまったら、どうなるか分かったものではない。
瞬間、私は脱兎のごとく逃げ出した。
背後で現地人が何やら喚いている。
「何じゃ!最近の若いモンは…!そのくらい教えてくれてもよかろうに」
もはや一刻の猶予もありはしない。
現地人は間違いなく、仲間に宇宙人発見の報を知らせているのだ。
ここにいるのは危険だ。
任務は失敗だ。
かくなる上は、無事に宇宙へと戻らねばならない。
私はなりふりかまわず、着陸地点へと舞い戻ったのだった。
*報告書*
宇宙歴○年。第177宇宙域第8銀河系第3惑星・地球に潜入、調査を実施。
現地人は完全武装。子供に至るまで我らの侵攻に備えているもよう。
訓練は日常的に行なわれており、むやみに踏み込むのは危険。
調査には万全を期して、侵略時の危険回避を第一と考える。