二人乗り自転車
高校からの帰り、下駄箱を出た所でクラスメイトがため息ついて何かをまっていた。
俺は後ろから彼女に声をかける。
「よぉ、ため息なんかついてどうしたんだ」
クルッと顔だけこちらに向けて、俺だとわかるとあからさまなため息をつかれる。
「あんたには関係ないことよ」
「そうか、じゃあ明日な」
俺は自転車置き場に向かおうと、彼女の横を通り過ぎた。
「で、でも…」
しりすぼみになりながらも、俺に思い切って声をかけてきた。
「…実は親がに来てくれるはずだったんだけど、急用が入ったとかで、来れなくなっちゃって…」
「じゃあ歩いて帰ればいいじゃんか」
俺はその場で彼女の方に体を向けて立ち止まった。
「か弱い女の子に、何キロも歩かせるって言ってるの?」
「大丈夫だろうさ。暗い夜道っていうわけでもないしな」
「あのね、男子は聞いて無いかもしれないけどね、この辺りは変態が出るっていう噂なのよ。下半身裸で、女に抱きついてくるのよ」
「なるほど、そいつが怖くて送り迎えしてもらってたのか」
俺が聞くと、何度もうなづいた。
ちょっと考えてから、俺は彼女にいった。
「途中までだからな、乗せるの」
「ありがとね」
計画通りとニヤリ顏が見えたような気がしたが、そんな考えは頭から追い出した。
自転車は、俺が前に座り、彼女は俺にしがみつく形で座った。
ふくよかな胸が、俺の背中に直接当たってくる。
二人の荷物は、前のカゴの中にいれた。
「行くぞ」
「うん」
キュッと、さっきよりもきつめに、俺に抱きついてくる。
走り出すと、風が当たって気持ちがよかった。
「ねえ」
後ろから声をかけてくる。
「なんだ」
自転車で斜面を漕がずに降りていく。
「こうしてると、ドキドキしてるのがよく伝わるね」
「そうだな」
そう言われると、急に彼女を意識してしまう。
伝わる熱、鼓動、そして息。
「ずっと、こうしていたいなって、ダメかな」
後ろから耳元で囁かられる。
信号が、青から黄色、そして赤へと変わり、俺は自転車を止めた。
「…ダメじゃない、ずっと一緒にいたいさ」
青信号になるまで、歩道に自転車を止め、彼女に言った。
「そうさ、一緒にいたいんだ」
「…やっぱりね」
彼女はそう言って、自転車から降りた。
前かごに入っている荷物を取り、俺に軽くキスをした。
俺が何か言おうとする上に、言葉をかぶせてくる。
「いつも思っていたのよ、赤い糸が見えるって。あ、家すぐそばだから、私これでバイバイね。また学校で」
ニコッと笑って帰っていく彼女を見ていると、時間の経つのを忘れた。
それだけ、彼女に惹かれたということだ。
俺は、青信号になった交差点を、自転車で全力疾走して家を目指した。