真っ新に君を想う
はじめまして、こんにちは。
全体的に静かな流れになっていますが、少しだけ出てくる激情とか、喜びみたいなものを感じてもらえればと思います。
ちなみに一人称を彼、彼女で通しているのは仕様ですのであしからず。
年齢設定は特にありませんが、高校生くらいのつもりで書いてあります。
それでは、お楽しみ頂けることをいのりつつ。
賑やかな校庭とは対照的に、校内は静まり返っていた。
誰もいない、しんとした廊下を歩きながら、鞄の中にしまってある手紙に思いをはせる。
『今日の放課後、図書室で待っています』
僕がこんなところに居ることになったきっかけは、帰り仕度の最中に机から出てきた一通の手紙だった。
奇跡的に折り曲がらなかった水色のさわやかな便せんには、女の子らしい丸文字で男らしい簡潔な一文が書かれていた。
そのまますっぽかしてしまおうかとも思ったが、その丸い文字に懐かしさを感じて、つい、行ってみる気になったのだ。
今日は一斉下校の日で、今学校に残っているのはたぶん、先生達だけ。
初めに手紙を読んだとき感じたのは、喜びでも、期待でもなく、うまい時間を選んだな、という、呼び出されたにしてはあまりにそっけない思いだった。
いつも一緒に帰っている友達には、先に帰ってくれと伝えてある。
うちの学校の図書室は、放課後でも本を読みに来る人のために解放されていて、大きさもだいぶある。
カウンターにいる司書の先生に見られずに告白することは簡単だろう。
ドアを開けて中に入ると、案の定誰も残っておらず、少し、がっかりした。
もし、ここに誰かいたら、手紙の送り主はどうするのだろうか、と楽しみに思っていたからだ。
別に、告白されることは楽しみでも何でもなかったから、それが起きようが無くなろうが、どうでもよかった。
棚の間をぶらぶらと歩きながら暇をつぶす。
彼女がいるわけでもなく、特別もてるわけでもない、僕と同じ様なやつが同じように呼び出されたんだとしたら、きっと何度もその手紙を読み返して、うきうきしたり、興奮したりするのが普通なんだろう。
そいつらに、好きな人がいて、その手紙を贈ったのはその人じゃないことが確かだったりしなかったら、だが。
僕がはじめて好きになった初恋の君は、先月引越して、ここにはもう、いない。
いるはずがない。
だから、なんて返事をするかは決まっていたし、気持ちだって冷めきっていた。
彼女がいなくなった今でも、ふとした瞬間に彼女の、夢留の笑顔が脳裏をかすめる。
耳の下までしかない短い髪を舞わせてこっちを振り返る様が、一度だけ見せた涙の一粒が、いつまでも、まぶたの裏から消えてくれなかった。
鼻の奥に熱を感じて、あわてて本棚に目をやった。
どの背表紙にも、憶えがある。
体を動かすことが得意なくせに、本を読むことが大好きな彼女に連れられて何度も図書室に来るうちに、ほとんどの本を読破してしまっていた。
懐かしい背表紙の中に一冊、ひときわ視線を奪われる本を見つけ、思わず手に取る。
『あなたへ』
と書かれたクリーム色のその本は、夢留が一番好きだった本だ。
彼女が引っ越してから、何度開いたことだろう。
何のためにここに来たのかも忘れ、ページをめくった。
中を見なくても朗読できそうなほどに何度も読んだ文章を丹念になぞっていく。
指をずらして次を開く、つもりが、ばらばらっとだいぶ先のところまで飛んでしまった。
別にここからでもいいかな……と、そのページに目を落とすと一枚のメモがあった。
僕に読ませるためにあるかのような、手紙と同じ柄の紙。
書かれているのはたった一文。
『あなたが好きです』
簡潔なその文は初めの手紙と同じ、どこか懐かしいような気のする文字で書かれていた。
どうしてこの本を手に取ることを分かったのだろう、この本が特別なことを知っているのは僕だけのはずなのに。
不意に、その文字の心当たりに気付いて、はっとする。
懐かしいと感じたその文字。
あの本が特別なことを知っていたわけ。
ところどころに散りばめられたメッセージが、彼女を示していた。
冷静でいることなんかできなかった。
まだここにいるかもしれない、そんなかすかな希望にすがるようにあたりを見まわす。
急ぎながらも焦りで見落とすことのないように、隅々まで確かめる。
手に持っていた本を下に置き、目の前の棚に向かって足をのばす。
そのまま前に進み、裏側を覗く……はずだったのだが。
不意に僕を引き留める存在を感じ、動けなくなる。
「振りむいちゃだめだよ……驚いてくれた?」
聞こえたのは、聞こえるはずのない愛しい声。
何で、どうして。
あふれてくる思いを必死に飲み込み、彼女の声を待つ。
彼女の触れる部分は熱く熱持っていて、火傷してしまいそうな気さえする。
「この前の転勤、間違いだったんだって、すぐに帰ってきたんじゃ恥ずかしいでしょ、だから―――」
「だまって」
話は聞く。ただしそれは顔をみた後でだ。
長くなりそうな話を遮って、後ろを振り返る。
久しぶりに見る夢留のすがたはすごく愛しくて、どうかすると抱きしめるくらいはしてしまいそうだ。
少しうつむいている彼女の顔を顎から持ち上げて上を向かせる。
僕の行動を予想外に思っていることがばればれな表情に、自然と笑みがこぼれる。
何も教えてくれなかった腹いせに驚かしてやろうと思ったけど、もうやめた。
そのまま夢留の方に身をかがめる。
向かないでっていったのに。
夢留のささやく声を間近に感じながら、僕はしっとりと赤く濡れたその唇にキスを落とした。
いかがだったでしょうか。
別の作品も読んでくれている方は、書き方がだいぶ変わっていたので驚かれたかな~っとも思っています。
文学的な感じに書くのは初めてだったので少し不安もあったのですが、何とか納得できる形になったかな、と思っています。
感想、意見、アドバイスなど、お待ちしています!
辛口な意見もどんと来い!ですので、よろしくお願いします♫
それでは、またどこかでお会いできることを願っております。
ひぅでした~☆