無法地帯と何でも屋
話しの流れ上、残酷描写が出てしまいそうなので残酷描写ありにチェックをしました。もし、ここまで読んでくれた方の中に苦手な人がいたら、すみませんでした。
この話では残酷描写とまではいかなくても、暴力表現がでてきます。
星也たちは、足を進めるにつれどんどんと不安になってきていた。
最初テラが大街道にでたときは、ここのどこかに店を構えている人なのかもしれないと思った。次に少し細い路に入ったときは、あんまり儲かっていない人なのかもしれないと思った。
そして、今いる路は・・・・・・薄暗い、裏路地。無法地帯と言うのか、不良ややくざっぽいひとが銃やナイフを整えていたり、タバコをふかしたりしている。中には、どう考えたってタバコではないなにかを嗜んでいる人がいた。
看板も、なにやら尋常ではない雰囲気が漂っているものばかりがあった。
なぜ、テラと自分たちが無事に通れているのかわからない。しかも中にはテラを見てお辞儀してくる人までいた。
しかし、やはり絡まれてしまった。だいたい星也たちと同じぐらいの年の少年グループ。十人ほどいるそのうちの半分は、筋肉増量剤を使っているようだ。新型のそれはしなやかで丈夫な筋肉をもたらすが、血管が異様に盛り上がってしまう。
筋肉増量剤を使っていなさそうな人も、銃やらナイフやらを携えていて、襲う気まんまんのようだった。
「おやおや、こんなところになにか用があるんですかぁ?ならついでに、手荷物も置いていってくださいねぇ?」
リーダー格らしき人のふざけた言葉にあわせて、周りの仲間が下卑た笑いをする。
美路は怖がるような顔を見せ、星也や勲、桜田兄妹は顔をしかめたが、テラは整然とした顔のままだった。
「ちょっと、人に会いに来たのよ」
そう普通に答えたテラが気に食わなかったのか、急に少年グループのうちの一人が叫んだ。
「あぁ!? てめぇの予定なんかしらねぇよ!!」
そしてそのまま、テラに向かって突進してくる。星也は、その手に大きめのナイフがあるのに気が付いた。
星也がそのナイフを落とそうとしようとした瞬間、隣にたっていた勲が動いた。
相手の懐に入り、そのまま腕を打つ。筋肉増強剤で鍛えられていたにも関わらず、相手の手は簡単に悲鳴を上げた。
「って、テメ・・・・・・」
相手の言葉を待たずに、そのまま勲は相手の腕と襟をつかみ、持ち上げる。そのまま背中を曲げて、地面に勢いよく叩きつけた。
「ガッ・・・・・・」
鼻と額から血が流れる。口からは白いものが数個飛び出し、地面を転がっていく。そのまま、相手は気絶をしてしまった。
テラは目を見開いて勲を見た。星也たちは勲の実力を知っていたので、さすがとばかりに拍手をする。少年グループは信じられないとばかりに、口をあんぐりとあけてしばらく固まっていた。
しかし、仲間のうちの一番小さな人がはっとなり、恐怖に顔を青くさせて銃を構えて乱射した。
「っ!やばい!」
星也たちはとっさによける。しかし、テラは慣れていなかったのか、固まったままだった。
放たれた銃弾のうちの一つがテラにまっすぐに進む。旧式だから速度は遅いとはいえ、星也たちは反応ができなかった。
テラの顔のすぐそばに銃弾近づいた、その時。
「!?」
驚き目を丸くして固まっているテラの顔の前に、一つの金属板が投げられる。銃弾はそこにヒットし、鈍い金属音を響かした後空へ軌道をかえて飛んでいった。
みんなが数秒かたまる。そして、全員が金属板の投げられた方を振り向いた。
「あ、ナイト!」
「「「ナイトさん!?」」」
テラと少年グループが、同じ名前を叫んだ。
「だめじゃないか。俺の大事な人に危害加えちゃあ」
そう言いながら日陰からでてきた人物を見て、星也たちはぞくりとした。
長めに切りそろえられたショートカットの髪は輝くような金髪。前髪の一房には、黒のメッシュが入れられている。長めの金髪からちらりと見える耳には、シンプルなデザインのピアスが大小あわせて約五個ずつついていた。
背は高く、たぶん年齢は二十歳弱。足が長く、ほどよく鍛えられているらしい体は均衡を保っていて、筋肉質にはなりすぎておらずしなやかだ。
ぶあつい皮の長いコートを着ていて、首もとにあるタートルネックが口元を見え隠れさせている。
目は切れ長でするどく、二重の瞼のラインがきれいにそれにそっている。
テレビにでればすぐに人気がでそうなほどの、かっこいい顔。男である星也や翔、勲までが見とれてしまうぐらい、まるで芸術品のように完璧な、整った男性だ。
なら、なぜ悪寒がしたのか。それはーーー表情。
口元はきれいなカーブを描くかのようににっこりと笑っていて、そこだけをみるとただの笑っているかっこいいひとなのだが……目が、笑っていないのだ。
一応、目も緩ませているのはわかる。ただ、その瞳にともっているのは、穏やかな光ではなく、冷たい、見るものを凍らせるかのような光。
一目で、怒っているとわかった。
一目で、この人は怒らせてはいけない人なのだとわかった。
ナイトと呼ばれた男性は、ゆっくりと少年グループに近づき、テラのことをちらりと見てから言った。
「言っただろう? 俺に逆らったら、どうなるかってこと……」
リーダー格の人が、目を潤ませながら言う。
「で、でも……まさか、ナイトさんの恋人とは思わなくって……」
ナイトの顔から笑顔がはがれ、一気に愚か者を見る表情に変わった。
「テラは、俺の恋人じゃないよ。大事な、従妹だ。覚えておきなよ」
「すみませんでした!」と言いながら、少年グループは逃げだそうとした。その全員の襟をつかみ、ナイトは止める。
「おいおい、銃を向けられたのに、ただで返すわけナイだろ?」
いつのまにか、ナイトの手には手のひらサイズのナイフが握られていた。
「ひっ……」
全員が、息をのむ。少年グループのみんなは、もう蛇ににらまれた蛙のように固まってしまった。
「「「あがっ……」」」
何人かが同時にうめき声をもらす。どうやら、鳩尾を思い切り蹴られたようだ。
そして、ナイフは全員の頭をめがけ走り……
気が付いたときには、少年グループは坊主集団に変わっていた。
「「…プッ…」」
桜田兄妹が、笑い声をもらす。
まあ、たしかに少年グループは、この場に似合わないどころかたっているだけで笑える絵になるほど、場違いな格好になっていた。
「君たちはここに着たばかりっぽいしね。ここらへんで、やめといてあげるよ」
そう言いながら、ナイトの顔が先ほどの笑顔に戻る。やはり目は冷たく、少年グループを見据えていた。
少年グループは、自分の髪型を勝手に変えられたことを怒ることもできず、ただただ竦んでいた。目からは涙がドバドバと流れ出している。
「じゃあ、さっさといきな」
「「「は、はいぃっ!!」」
坊主集団は、蜘蛛の子を散らすかのように逃げていった。
その様子を満足げに、ただしやはり冷ややかな目で見送り、こちらを振り向く。
「やあ、こんにちは。君たちが、地球から着た人たちなの?」
表情は暖かいものへとかわっていた。
「うん。そうなの」
「そうか。ああ、自己紹介をしないとな」
コホンとのどを鳴らす。
「俺の名前はナイト。テラの従兄。ちなみに、シスコンならぬカズコン」
そう言いながらふふふと笑う。
星也たちはさっき感じた恐怖を忘れ、思わず心の中で「自分で言うか」とつっこんでいた。
「ナイトは、何でも屋をやってるの」
テラがつなげた。
「そう。宅配やったり、ゴミ処理に行ったり、時には商売もするんだよ?」
そう言いながら笑う。笑っているのに、宅配やらゴミ処理やら商売やらはそのまんまの意味としてとれないから不思議だ。
「もしも困ったことがあれば、ナイトに相談すればいいわ」
なぜか、全員そろって相談する羽目にはなりたくないと思った。
「なんでもやるよ?」
にっこりと笑う。
なんだか、この男は本性がつかめない。テラにはやさしい眼差しを向けていて、星也たちにも笑顔を向けているのだが、なぜだかそれが仮面に思えて仕方がない。さっきの出来事のせいだろうか?
笑顔だけではない。長いコートやタートルネックなども、自分を隠すための道具に見える。
「あ、俺の名刺、渡しておくよ」
そう言いながら、ナイトは一枚の紙を差し出した。中にメモリーチップが入っている、使い捨てのタイプだ。
星也がそれを受け取り、鞄の中へしまった。
「本当は俺の家に招待したいところなんだけど、生憎仕事が入っているんだ」
桜田兄妹が、残念そうな顔をする。「何でも屋」という特殊な仕事をしている人の家を見てみたかったのだ。
「まあ、そんなに残念そうな顔をするなよ。いつでも訪ねてきてくれていいから」
そしてなぜかテラの方を向き、意味深な目つきをしながら繰り返し言う。
「いつでも、ね」
テラが、こくりとうなずいた。
「じゃあ、もう俺は行くから」
手を挙げて、そのまま身を翻し道の奥へと進む。
「バイバイ」
その時に開けたコートから少し見えた鋭い光に、星也たちはまた背筋を寒くした。
本当に、本性がつかめない人だと思った。