町の探検と謎のリコール
町は、やはり新鮮な香りがした。
見たことのない様な物の他にも、デパート、スーパー、コンビニ、ファーストフードなど、日本にもある店によく似たものもたくさんある。
テラに携帯を渡され、それを持ってバラバラに散った。
携帯の技術は、地球の物より発達していた。ただ、サイズが拳小ぐらいもある。地球の物はアクセサリーにもできるぐらい軽量なので、きっと地球以外の星から輸入されたものなのだろう。
この携帯は、特別なボタンを押すと言葉を出さないでも会話をすることができるらしい。
地球では、脳の電波はどうなっているのかあまり解明されていないので、このような機械はない。この携帯は是非とも持ち帰りたいなと星也たちは思った。
今、勲はスポーツ用具店、薫は薬草店(薫は射的部の他にも薬学部の部長を務めていて、この手のことは大得意である)、翔は武具店(ちなみに翔の方は、薬学はできないが爆薬系なら大の得意である)、美路は料理店や食品売場、そして星也はテラと一緒に電気屋に来ている。
「あ、これなんてどう?」
今星也が見ているのは天体コーナー。ここにはプラネタリウムや電子天体望遠鏡、星の辞書などが置いてある。
テラはそのうちの、なかなか高い電子天体望遠鏡を指さしていた。
「え、すごい! 自身のいる宇宙間じゃない宇宙空間まで見えるんだ!?」
顕微鏡を電子化する事で、地球でも見える範囲は広がっている。だがそれにも限りがあって、少なくとも宇宙全体をのぞくことはできないのだ。
しかも、他の宇宙なんて論外。「空間」と言う壁に隔たれた他の世界は、今でこそ「空間」に無理矢理穴をあけることで作られたワープによって行き来することはできるが、本来は決してつながることのない世界なのだ。今星也が持っている透視装置を使ったって、見ることはできないだろう。
「いいなぁ・・・・・・ほしいなあ・・・・・・」
ちなみに今、星也が持っているお金は合計日本円で約十万円だ。貯金していた物もあわせて、テラに換金してもらったのだ。
この望遠鏡も約十万円。これを買うと、他の物はなにも買えなくなってしまう。
星也が悩んでいると、銀の短髪の若い男性店員がやってきて、目の前の見本や注文パネルをとってしまった。
「え、何でとっちゃうんですか!?」
すぐに買えばよかったなんて思いながらも、店員の目を見据える。
「あぁ、お客さん。これはついさっきクレームが入ったから、リコールになったんですよ」
リコールをするということは、何か重大な欠点があったということらしい。
「なんだか、今までに発見されている宇宙の中でいくつかが見えないらしいんですよ」
ふと気が付くと、テラが顎に手をそえて何か考えていた。テラはそのまま顔を上げ、店員に質問をぶつける。
「それって、見えなくなったのって顕微鏡だけじゃないんじゃないですか?」
星也には、質問の意味がわからなかった。しかし、店員は驚いた顔を見せ、答えた。
「よくわかりましたね。だから、見えなくなった星との空間がなにかねじれでも起こったのではと考えられているんですよ。だから、このリコールは一応ということなんです。見えなくなった星にも、ある程度共通点がありましたし」
星也には会話の意味は全く分からなかったが、一つだけ、頭に引っかかった物があった。
「え、共通点って何なんですか」
すると、店員はあきれたような目を星也に向けてきた。
「この子に比べて、君は物をしらなすぎるね」
そう言ってから、店員はテラに顔を向けた。会話を紡ぐように、テラが続ける。
「宇宙は小宇宙として無数にはびこっているというのは知っているわよね」
星也は、コクリとうなずく。よくわからない空間の中に、宇宙が敷き詰められるようにはびこっていると、教科書に載っていたのだ。
「その小宇宙同士を阻める壁。それは時間よ。時間が複雑に入り交じっている部分。それが、宇宙を分けているの。宇宙はすべて膨張し続けているけどぶつからないのは、そのおかげとも言われているわ。時間が調節してくれるのよ。そもそも、時間に広さなんて存在しない。だけど、その構造だとやっぱりずれがでるのよね。たとえばグラウンド星はその中でも時間をたくさん経験している部類にはいるけど、たとえば・・・・・・地球とかは、まだまだ若いでしょ。実際にそうなっているのは、無理矢理時間の壁を無視して作ったワープトンネルのせいなんだけど、やっぱりそういうワープ空間を作った場合にできる時間の差があるの」
テラが話し終えると、店員は満足そうに笑い、そして言った。
「ほら、やっぱり彼女さんは知っているじゃないか。まあ、このことは最近に発表されたばかりだだから知らない人も多いんだけどね。でも彼氏なんだし、かっこいいところ見せなくちゃ」
星也は赤面した。「彼女」と「彼氏」。自分たちがそう見えていたのだと思うと、なぜか恥ずかしいような、こそばゆいような感じがする。テラも、顔に紅葉を散らしていた。
「ち、違いますよ!!」
本当はもっと質問をしたかったのだが、どことなく居た堪れない気持ちになり、逃げるように歩きだした。
気が付くと、公園のようなところに来ていた。星也はテラを置いてきてしまったと思いあわてて振り返ったが、テラはすぐ後ろを追いかけて来ていた。
「ハァッ、ハァ・・・・・・ま、待って」
すぐそばにより、膝に手をおいて肩で息をする。星也は運動神経がよかったのでそんなにきつくなかったのだが、テラとしてはとても大変だったらしい。
「ご、ごめん。少し休もっか」
周りを見渡し、すぐにベンチを見つける。そこに座り、まだ気恥ずかしさが抜けていない二人はそわそわと、しかしなにも話さずにいた。
この公園は、だいぶ古風なものだった。砂場もあれば、ジャングルジム、ブランコまである。地球でも、子供のうちは体を使っといた方がいいいということで遊具は昔さながらのものが多かったが、ここはそう気をつけている地球の物よりも体を使う遊具が多かった。たとえばブランコなら、地球なら丈夫でさわり心地のよい合成ゴムを使っているのに対し、ここの物は鉄の鎖が使われていた。違う星なのにここまでにているのには、なにか神秘めいたものを感じる。
「・・・・・・あ、お菓子売ってるね。たべない?」
星也は話すネタを考え、見つけた店を指さしてそう言った。すぐそばの時計をみると、もうお昼時になっている。少し小腹がすいていた。
テラがコクリとうなずく。星也は店に走り、おすすめと書いてあったものを二つかった。その時にもまた「恋人同士の甘いトークを楽しみなさい」と店のおばさんに言われ、また顔に火をともした。
「はい」
「ありがとう。いくらだった?」
「ん、安かったよ」
「いや、払いたいし・・・・・・」
「安かったからいいよ。おごりってことで」
そう言ってからまた黙り、お菓子をかじった。
ふっくらとしたパンケーキのような見た目のこのお菓子は、ほんのりと甘い香りがして、ふかふかとしていた。一口かじっただけなのに、濃厚な甘みが口を満たす。結構甘いのに重くなく、それどころかさっぱりとしているような気さえした。
「・・・・・・おいしいね」
「うん。私も初めて食べるわ。これはメモしておかないと」
そう言いながら本当にメモをしだしたテラをみて、星也は思わず目を細くした。そんな星也に気が付いたテラが振り向いて、「なによ」なんていいながら頬を膨らませる様子が可愛らしい。「なんでもない」と言いながら、星也はもくもくとお菓子を食べた。
お菓子を食べ終わったちょうどその時、携帯に着信が来た。メールだ。
『合流場所はどこだ?』
どうやら勲からのようだ。
合流は正午に、場所はあとで知らせると言ってある。星也は、今いる公園の名前と地図を張り付け、全員に送った。
全員、ほぼ同時に来た。勲はなにも持っていなかったが、他のみんなは手荷物が増えていた。
「次はどこに行くんですか?」
美路がおずおずと聞く。
「うーん……お昼を食べてから、私の友達のところに行こうかしら」
星也たちはみな、頭に疑問符を浮かべた。なぜ友達を紹介する必要があるのかわからない。
そんなみんなの様子を見て、テラが苦笑いをした。
「結構危険なやつなんだけどね。変わった仕事をしているのよ」
危険な奴なんて言いながらも、テラはうれしそうに笑っている。もしかしたらそうとう親しい人なのかもと、みんなは思った。
「もしかしたら、そのうち役に立つときがくるかもしれないしね」
前回に続き、今回も少し短くなってしまいました。