異文化と違和感
光の世界に吸い込まれる。磁石になったかのような気分だ。
「何してるの。もう、外に出ていいのよ」
星也たちは、恐る恐る目を開き、外に出た。
そして、驚愕した。
外の様子は、窓から良く見ることができる。その窓からは少量の光が漏れていた。
外を見たら、そこは真っ暗。しかしよく目を凝らしてみてみると、ところどころに丸いものが見える。丸といっても、薄っぺらい紙でできたかのように、うねうねとゆれながら流れている。光っているものもいくつかあった。
「あれって、何ですか?」
美路がテラにそう聞いた。全員の耳がテラのほうへと傾く。
「あれは星よ。ワープって言うのは、空間をひねって作り上げたトンネルのようなものを通ることなの。一応トンネルにはなっているけど、本当はつかむこともできない空間に穴を開けただけのようなものだから、煙のような形になっているのよ」
星也たちが、外を見ながら感嘆の息をもらす。宇宙には、やはり知らないことばかりがある。
皆、自分達は籠の外に出たんだとひしひしと感じていた。
「そろそろ着くわよ」
テラがそう言ったので、また離着陸部屋へと入った。しばらくしてから、軽い衝撃が来る。着いたようだ。
部屋の外へ出る。
桜田兄妹が珍しく叫び声をあげた。
「「星が発光している!?」」
窓から見えた地面が、黄色っぽく光っている。見渡してもそれは何処でも同じで、皆驚くしかなかった。
「グラウンド星は、地中深くにある、地球で言うとマグマのようなものが、グラウンド星自体を照らしているの。地面も地球の土とは少し違って光を通しやすいものだから、おかげで明るいのよ」
星也たちが外に出ようとすると、テラがとめた。
「これ、つけて」
渡されたのは、青色のコンタクトレンズだった。
「え、なんで?」
星也がそう聞くと、テラは困ったかのような顔をした。
「なんか、この星の光は目に悪いらしいのよね。グラウンド星人はもう慣れているけど、地球人は十秒も経たないうちに視力が下がるらしいの。だから、絶対にはずしちゃ駄目よ」
ぞくりとする。十秒で下がるというのは、かなり危ないのではないか?
「え、じゃあ、寝るときはどうしたらいいんだ?」
「このレンズは、比較的目になじみやすい素材でできているの。しかも、ちゃんと地球人の体質に合わせて作ったものよ。これを着けてしばらくしたら、すぐにつけているって事を忘れるぐらいになじむと思うわ」
星也たちは、コンタクトをつけてみた。たしかに、思っていたよりも目にしっくりとくる。
「コンタクトは二週間ぐらいならつけたままで大丈夫よ。コンタクトの付け換えは、顔にこのカバーをつけながらやれば大丈夫よ」
そういいながら、テラは星也たちに一人づつ顔と大体同じぐらいの大きさの丸い袋を渡した。
「それは、顔につけるとフィットして、目にコンタクトと同じような素材のものがつくようになるわ。その上からコンタクトをかぶせると、コンタクトのついた部分から溶けてなくなるの。使い捨てだから、使用したらすぐに私に言ってね。新しいのをあげるから」
更に、テラは五つのイヤホンのようなものを取り出した。
「これは、言語翻訳機よ。耳に付けるだけで大丈夫だから」
そう、地球とグラウンド星の言語は違う。地球の言語は統一されていたが、さすがにほかの星と統一することはまだなかったのだ。
そう考えると、テラはやはり頭がいいのだと気づく。昔の英語と日本語のとは違い、地球の言葉とグラウンド星の言葉を覚えるのは困難なのだ。文化も違えば考え方も違う異星の言語は、根本から違うらしい。
みんなは感心した。だが、二人だけ、ふと疑問に思ったことがあった。
(・・・・・・翔、これってさ、どっちも地球の技術だよね)
(うん。片方は、グラウンド星に戦争を仕掛けたときぐらいのだよ)
(もう片方は、まだ地球の言語が統一されていないときのものよね)
(そうだね)
(これってさ、グラウンド星が先に作ってたともとれるけど・・・・・・)
(そうだよね。グラウンド星が地球の技術を習ったとも、とれるよね)
二人は顔を見合わせ、目と目で語った。
このことは、星也に報告をしておいた方がいいだろうということで、結局会話は終わった。
☆★☆
グラウンド星は、地球、少なくとも日本の東京とは全くにてない風景だった。
車もあるし、反重力機器ににているものを使っているものににているものもあった。ただ、建物が違ったのだ。
全部、建物と地面との間が広い。その高さはバラバラだが、一番低い建物でも大人一人が歩いて通れるぐらいの高さがあった。
「地面にくっつけちゃうと、熱がたまって大変なことになるのよ」
テラはそう言った。
テラによると、この建築方式が主流になったのは約三〇〇〇年前のことらしい。だいたいイエス・キリストが生まれた年ぐらいだ。ちなみにその前は、床下には今の地球と同じぐらいの隙間しかなかったらしい。そこに、藁や綿などを敷き詰め、それを定期的に変えることで温度調節をしていたのだそうだ。
グラウンド星には四季がないように思われるが、実は違うと言うこともわかった。この光や熱を出している物は、地球のマグマとは違い、だいたい地下十キロメートルのあたりに丸い核を包み込むようにして流れ続けているのだそうだ。その核は動かず、少しゆがんでいる。地表は周り続けているので、光や熱を発している物が多い時期、少ない時期が生まれ、季節ができるのだ。その季節の区分は、むしろ地球より多い。一年は核の上を地表が一周する時間なのだが、でこぼこしているので暑い季節と寒い季節がしょっちゅう入れ替わるのだ。夜も、一応ある。なぜだか未だにわかっていないのだが、地中を流れる物が、定期的に発光をやめているのだ。
地面が発光しているので、日本のように空が青いわけではない。空だけはいつも夜で、吸い込まれるような黒色をしている。今は夕方らしいので地面が明るく、空はただ黒いだけだが、夜になるとグラウンド星の周りにある星も見えるらしい。
グラウンド星は、地球とは違い、同じ宇宙の中にいくつもの生物の住んでいる星がある。グラウンド星から見えるのはそのうちの四つ。あとは恒星がいくつか見えるのだそうだ。一応衛生もあるが、こちらの宇宙には太陽のような恒星よりも自家発電をする惑星のような物が多いので、光があまり反射されず、裸眼で見ることができない。
星也たちが物珍しそうに辺りを見回していると、約二メートルぐらいある、銀髪のおじさんが話しかけてきた。
「ようテラ。今日はにぎやかだねぇ。この子たちはおのぼりサンなのかい?」
耳に入れてある機械は実に優秀で、日本で話しかけられるのと変わらないぐらいスムーズに自然に音が入ってきた。
今、星也たちの髪は金髪に染まっている。テラが持っていたメラニン調節器で変えたのだ。
本当ならば一人一人色を変えた方がグラウンド星人に紛れ込むことができるのだが、そこはテラの判断で変えた。
髪を金髪のままにするのは、正式な式の時、またはこういうブームが到達していない田舎の人たちらしい。
星也たちはグラウンド星についてぜんぜん知らないし、顔も知られていない。ならば「おのぼりさん」にしといた方が都合がいいだろう、ということなのだ。
ちなみに実は、星也たち地球人がグラウンド星にきているということは秘密事項で、知っているのはグラウンド星をまとめている地球で言う大統領と、テラの研究室の仲間だけだそうだ。
星也としてはそれは好都合だった。スパイ活動をするのに、「地球からきた」と知れ渡っていたら行動しにくい。きっと、不審な行動をしたらすぐにばれてしまうだろう。
「ここよ」
テラが短くいいながら指で示したのは、結構大きい銀色の球型ビルだった。地面に少し斜めにたっている足の一つにいき、その前で止まる。そこには一枚の扉があった。
扉を開くと、そこはもう室内だった。星也は、きっとこれは空間移動装置の中でも、宇宙船に使われているようなワープの類だと思った。東京が厳重保護地区にされたときに没収された空間移動装置は、扉型、投影型などどんな種類でも、必ず目的地を示すボタンなどがあったからだ。
「おかえ・・・・・・あ、テラっ」
眼鏡をかけた、深い緑の色をした髪を持つ背の低い男がこちらをみてその大きな目を見開いた。
「その子たち・・・・・・」
「おかえり。お疲れさま」
すぐそばのドアから、背の高い、燃えるような赤いストレートの髪を持つ鋭い目を持ったかっこいい女性がでてきた。
「その子たちが、例の田舎学校の見学生ね」
赤髪の女性の言葉に、星也たちは一様に首を傾げた。この二人は、白衣を着ているところも見るとテラの研究仲間のはず。さっきのテラの話によると、自分たちのことを知らないはずではないのだ。
「うん。さっそく始める?」
テラがそう続ける。本当に、なんのことかわからなかった。
「え、見学生ってどういう・・・・・・」
「お客様がまだいるから、後にしましょう」
星也が質問をしようとしたら、赤髪の女性がそれを制した。
しかし、その言葉によってどういう状況なのかわかった。このことは極秘なのだ。客がいるならそれがうかがえる話をするわけにはいかない。
「とりあえず、こっちで待っていて。たぶん一〇分ぐらいで終わるから」
緑髪の男性が、すぐそばのドアを開いた。そこには、おおきなソファーが二つと、それを挟むようにガラスのテーブルが、上にマーガレットに似た造花が置かれた状態いで置いてあった。
「すぐに、お茶を準備するよ」
そんなやりとりの中で、また桜田兄弟は、疑問をぶつけ合っていた。二人は以心伝心のように目で話せるので、他の人に話を聞かれることはない。
(ねえ翔・・・・・・やっぱりおかしくない?)
(うん。あのドア、ふつうの物だったよね)
(あの長い足のところからここまで上るのは瞬間移動装置だったけど、タイプは宇宙船のとおなじ空間を最初からつなげておくタイプ。これじゃあ旧式すぎるよ)
(戦争前の日本では、一つの部屋にドアが一つ、目的地をボタンで押してから開くというのが主流だったよね)
(たまにふつうのドアのところもあったけど、この建物はどう考えたって広いし、あのドアを使われていないのはへんだな)
(だよね。もしかして・・・・・・)
二人は頷きあった。その様子を見て、テラが首を傾げた。
「どうしたの?」
「「いや、あのソファーの素材って、合金繊維なんじゃないかなって思って」」
「あら、そうよ。よく見ただけでわかったわね。この間出た新商品なのよ? 特殊なやり方をしないと、燃やしたって破損しないんだって。何で知っているの? あ、そういえば地球から輸入した技術って言ってたわね」
二人の嘘に、テラはすっかりだまされた。
しかも二人は、とっさについた嘘なのに、思わぬ収穫を得ることができた。
この嘘は、実は自分たちが無知だとでも思わせて、油断させるための物だったのだ。
(合金繊維は戦争の三〇〇年前の技術)
(戦争直前には、特殊なやり方でしか破損しないだけでなく、感触が最高の合成繊維が生まれている)
(厳重地区の僕たちの家の物だって、合金じゃなくて合成を使っている)
(合金は、感触が微妙)
(他の星の方が上の技術があるのは別に変じゃない。輸入もおかしくない)
(でも、そんな古くさくて不便な技術、輸入する分けない)
((やっぱり、グラウンド星って・・・・・・))
二人は確信を得た。
どうやら星也たちも、この違和感に気がついたようだった。
こんにちは。海星です。
この頃学校行事が忙しくなり、パソコンをさわる機会が少なくなってきてしまいました。
そこで、私はこの間あった誕生日を機会に、あるものを買いました。
「ポメラ」です。
これで、バス時間とかにも進められるようにしたいです^^;