部活と出発
「おいっもっと肩から支えろっ」
「はいっ」
五十平方メートルほどあるこの広い体育館の半分には、たくさんの竹刀を持った学生がきれいに並んで素振りをしていた。全員一生懸命で、笑っているものは一人もいない。
そんな中、星也は剣道部で部長の仕事に励んでいたをしている。
しかし、いつもなら余裕でこなせる部長の仕事も、さすがにこの頃はきつかった。
「おーい、そっちどうかー」
「だめです! 基本からなっていないっ」
星也がはき捨てるようにいうと、周りの生徒が全員びくりとした。後輩だけでなく、既に引退していた先輩まで。
授業内容に、戦争対策としての授業が組み込まれてから約一ヶ月。
基礎体力をつけるためということで、文化部のやつらが大量に運動部へ流れてきた。
この急な変換は、「国の教育方針がかわった」ということで説明された。この説明ならば、外のニュースが伝わらないおかげでばっちりだますことができる。
機械が発達した今の時代、人間の体力は廃れてきている。五十メートル平均男子九秒女子十秒。昔は六秒台の中学生がクラスに二、三人はいたというから驚きだ。
そんな化け物じみた運動能力を持つ人が、なぜかこの学校には五人いる。それが、星也たち生徒会メンバーだった。
星也は小さい頃から剣道をやっており、厳重地区四区全部が集まった年齢制限のない「剣道大会」で、準優勝をしたことがある。ちなみに、優勝したのは星也の父親だ。
勲は、星也のように大会に出たことはないが、格闘技ならできないものはないというほどの力をもっていて、この学校では柔道の部長を務めている。翔と薫は、さすが警察の子どもというべきか、銃の類の扱いが上手い。星也と同じような条件の「射撃大会」に出て、同位優勝をしたことがある。射撃部の部長を翔が勤めていて、薫も射撃部に入っている。
そして美路は、弓道が得意。美路も同じ条件の「弓道大会」にで準優勝をしたことがある。この大会の優勝者は、美路の父親だ。やはり弓道部の部長を務めている。
生徒会員全員が運動部の部長として働いているので、生徒会の仕事がなかなかできず、とても忙しい毎日が続いている。
そんな中、星也は一人浮かれていた。いや、学校全体で言えば、五人かもしれない。
今日は、いよいよグラウンド星に行く日だ。学校が終わってから、俺の家の前に集まり外へ出ることが決まっている。
準備は昨日のうちにやっておいた。カメラとビデオ、あと、もしもの時の為にと校長に渡された隠しカメラとビデオ。どっちも、コンタクトやネックレスの形をしている。
校長には、何を具体的に見るべきかという資料を渡された。コンタクト型コンピュータで見れるタイプの、持ち運びに便利なやつだ。
準備は万端。後は、まだかまだかと学校が終わるのを待つだけだ。
☆★☆
学校が終わり、家に帰ってから持ち物を観察する。物を縮小する機械があるので、荷物は肩掛けカバン一つにまとめることができた。
さすがに、まだ皆来ていないようだった。しかしもうやることはないし、きっと全員すぐにやってくるだろうからと、テラと一緒に外にでる。
のんびりと景色を眺めていたら、テラが、初めてあった時と同じように、ひさしを作って空を仰いでいた。
「なに、しているの」
なんとなく、聞いてみる。
「・・・・・・地球って、綺麗よね」
テラが、感慨深そうに話した。星也が首をかしげる。
「そう? 普通じゃないの?」
すると、テラはにっこりとわらって星也を向いた。
「地球にいると、生きているんだって、実感できるの」
そして、また空を仰ぐ。
「グラウンド星では、もしかして私たちは、神様かなんかが作ったデータによって規則的に動いているんじゃないかって思ったりするのよ」
星也もまねして、空を仰いでみる。
「でも地球だと、ちがうのよね。道も、地も、建物も、生き物も、みんな生きている感じがするのよ」
テラが、びしっと星也を指差す。
「人も、違う。生きてるって感じがする」
星也は、テラが何を言いたいのか判らなかった。生きているんだから、あたりまえじゃないか。
「こんなにたくさん、生きてるって感じることができるんだもの。私たちは、けしてデータのようなものじゃないわよね」
テラが、星也に問うようにそういう。でも、星也はなんて答えたらいいのかわからなかった。
グラウンド星にいけば、その答えがわかるのだろうか、と思った。
「よし、そろったね」
テラがそういいながら、厳重地区の印である白い線のところまで行く。
「じゃあ、これで一秒だけ電波消すから」
テラが取り出したのは、電波遮断機。
この白い線には、当然ながらセンサーが付いている。この線の上を、人の体温が通ったときにブザーが鳴る、というやつだ。
しかし、このセンサーには特殊な機能がついている。例えば、人の体温が完全に通るのを確認するまでブザーが鳴らないことや、向こう側にいる人と体温が繋がった状態で渡れば大丈夫、というものだ。
なぜかというと、最初この線を引いたばかりの時に、物を外へ飛ばしてそれを取ろうとしてブザーがなる等の事件がいくつも発生したからだ。
国はなぜか、日本人の中に裏切り者が出るとは考えていないらしい。だから、センサーの設定をこんなに甘くしてしまったのだ。
しかし、この仕組みだと星也たち六人が外に出ることはできない。そこで、さっきの電波遮断機だ。
少しの間だけ電波を飛ばすことで一人が向こう側に渡り、その後全員が外に出よう。という作戦だ。
一秒しか使えないのは、少しでも電波を飛ばす時間を減らすことで、切れた電波をつなぎ合わせる作業をより正確にするためだ。
星也たちは、スムーズに外に出ることができた。
宇宙船に乗る。驚いたことに、その宇宙船はテラ個人の・・・・・・いや、正確に言うと、テラのいる研究所が所持している宇宙船らしい。
大きなトランクの中に入り込み、「研究資料」のレッテルを外から貼られて荷物室へと運ばれる。本当はこの後荷物検査が行われるのだが、テラが
「急いでいるから、お願い」
と言い、袖の下とやらを渡して特別に許可をもらったそうだ。
星也完全に入り、作業員が全員出たところでテラがふたを開ける。
「ぷはっ」
久しぶりの光と酸素を楽しみながらも、船内をぐるりと見渡した。
「すご・・・・・・」
全体的に明るく、窓は二十平方センチほどのものがだいたい四つある。そのうちの一つの前にはこぎれいなソファやテーブルがおいてあり、奥にはキッチンのようなものまであった。
「そろそろ出発するわよ」
テラがそう言ったので、全員急いで離着陸ようの部屋へと向かった。
水色の、鮮やかな機体の宇宙船が静かに上がり、四つの柱に囲まれたワープ経路の中に突入する。
その様子を、一人眺めている人物がいた。
「・・・・・・もしもし、校長。どうやら無事に行ったようです」
鉄仮面の、スーツを着た男が、マイクに向かってそう話しかけた。
『ふぉっふぉっふぉ。よかったよかった。星也くんたちなら、きっと上手くやってくれるだろう』
校長の声を、無表情のまま聞く男が、ゆっくりと口を開いた。
「・・・・・・わかりませんよ。彼らは幼い『籠の鳥』。外に出たら、なれない環境に崩れ落ちるかもしれません」
スピーカーからは、喜びとも悲しみとも取れる校長の笑い声が、小さく響いてきていた。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
一つ、気が付いたことがあったので言っておきます。
ただ今、いつものノートパソコンが壊れているので旧式のほうで投稿しているのですが、三点リーダーの変換ができません。
それにより読みにくくなっているかもしれません。すみませんでした。
指導としての感想、ただ文を読んだだけの感想、どちらでもかまわないので、感想を書いていただけると嬉しいです。
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