テラの発明と帰還
星也たちはてっきり、目的地は宇宙船空港のすぐそばの人気のないところだと思っていた。
しかし、実際についたのは、宇宙船空港には違いないが、その中の、離着陸広場だった。
黄色く光る広い地面のうえに、無数の飛行船が留まっている。そのなかにはテラの研究所のものもあった。五つほどある出発コーナーのうちの三つには、小型の宇宙船があった。空には、四つの柱に支えられた、四角いワープホールがある。その奥はどこまで続くのかわからなくなるほど真っ暗で、所々に小さい光を発しているものが見えた。
宇宙船のあいだは、簡易型ロボットや職員の人と思われる人たちがたくさん行き来している。ロボットは人型だが、地球で開発された新型のロボットとは比べものにならないくらい旧式で、人に似ていなかった。つるりとした胴体と腕や足をつなぐのは球の間接で、動きも遅い。ただ仕組みはしっかりとしているらしく、人二人を使って運ぶようなものも一人で持ち上げていた。
「ねぇ、なんでここなんだ? ここじゃあ、手続きができないじゃんか」
勲がナイトを見てそう言った。するとナイトは、顔に貼り付けていた笑顔を愉快そうなものに変えた。
「へぇ、君たちが、正当な手続きを持って帰れると思っていたの?」
「い、いや……また来たときみたいに、トランクに隠れて入るのかと思って……」
勲がひるむ。するとナイトはため息をついた。
「俺が、宇宙船を持っているとでも思っていたのかい? 持っている訳ないじゃないか」
そう言えば、テラの研究所が宇宙船を持っているということは特例で、ふつうなら企業のもつ宇宙船に乗るのが常識なのだったと思い出す。
納得した様子の勲を見て、ナイトはつぶやくように続けた。
「まあ、俺の場合は金はあるんだけど、国籍はないからね」
星也たちは小さく「えっ」とつぶやいた。
「その方が身軽でいろいろと便利だしね。小さい頃つけられたやつは、事故を装って死んだことにしたんだよ」
そういえばこの人は何でも屋だったなと思い出す。
「でも、親が納得しないんじゃ……あ、もしかして内緒で? それでも悲しんじゃうんじゃ……」
星也がそうつぶやくと、ナイトはおかしそうに笑った。
「俺の両親は死んでいるよ。テラの両親と一緒に、事故でさ」
目を見開く。そういえば、テラは両親の話なんてしたことがなかった。たまたま話題にのぼらなかっただけと思っていたが、違ったのか。
ナイトはそこで言葉を切り、背中に背負っている鞄から四つの小さな鞄を取り出した。
「はい、鞄。てっきりカメラは壊されちゃってると思っていたけど、全部無事のようだよ」
星也たちは驚き、喜んだ。もう戻ってはこないだろうと思っていたのだ。もちろんスパイの仕事のデータが入っているということもあるが、この中にはテラと過ごしたグラウンド星での観光の思い出がさまざまなもので残っている。
「「「「「ありがとうございます!」」」」」
星也たちが一斉にお礼を言うのを見てから、ナイトが更に別のものをとりだした。
それはコートのようなものだった。フード付きの、丈の長い、長袖の黒いもの。コートと違うところは、布と布の間に何かはいているのか、ごわごわとしていることだけだった。
「「なんです? それ」」
桜田兄妹が尋ねると、ナイトはそれをいとおしそうに見ながら言った。
「これは、地球の瞬間移動装置を元にしてテラが作った、宇宙服」
星也たちは驚いた。そんな技術、地球にもない。もちろん、グラウンド星にもないだろう。つまりこれは、基礎は元からあったとはいえ、本当にテラの実力が成した作品だといえる。
「瞬間移動装置は、ワープの入り口のそばでないとほかの世界には移動できない。しかも、生身の体でさっきのようなものを使えば、異空間が複雑に入り交じっているあのトンネルを無事に通ることはできない。だけどこれは、全身を覆うようにコードを張り巡らし、全身に特殊な電磁波を送ることで、無事にわたることができるようになっているんだ」
そう話しながら、ナイトは星也たちに早く着るように促した。
着心地は、思っていたものよりもわるくはなかった。胸のあたりに機械の中心部を設置してあるらしく、そこだけ板がついているような感じがする。ごわごわしているが、その不快感は旧式の雨合羽を着たときとたいして代わりはなかった。
「よし、じゃあ、全力であそこまで走ろう」
そう言いながら、ナイトはあいている出発コーナーのうち一番近くのものを指さした。走るのは、ほかの職員に捕まらないようにするためだろう。
星也はそこで、自分のもっているものを思い出した。
「あ、これ。これ使えませんか」
そう言って鞄から取り出したのは、小型の物体透明透明化装置だ。これは旧式で、光を当てると透明になるというものではなく、これの半径一メートル以内にいるものが透明化するというもので、しかも軽量化されているため、使っても五分ほどしか持たないが、ばれないように行くにはそれで十分だろう。
「え、それはなんだい?」
「透明化装置です。これを持っている人の半径一メートル以内のものは、全部透明になるんです。あ、意識遮断装置とは仕組みが違うので、ここでも使えると思います。五分しかもたないんですけど、それで十分ですよね?」
ナイトは、笑顔を貼り付けたまま固まった。驚いているのだろう。こういうときにまで驚いた顔を見せないのかと妙に納得しながら、星也はナイトの様子を見る。
「……それはぜひ、テラに研究させてあげたいな。でも、もしグラウンド星側にばれたら戦争で不利になるしな……戦争が終わったら、是非テラに研究をさせておくれよ」
星也は大きくうなずいた。
「はい」
「よし、じゃあ行こうか。宇宙服の操作は俺がするから、その機械の操作、頼むよ」
コートのフードをかぶり、星也を中心して並ぶ。
星也がスイッチを入れると、まわりに薄い光のベールが現れた。
「へぇ……興味深いな。まあ、それは後にして、早速行こうか」
星也が歩く速度に皆あわせて進む。
周りの人たちは面白くなるぐらい星也たちに気が付かない。
出発ゲートまで、何の問題もなく進むことができた。
「よし、じゃあ行こうか」
ナイトがそういいながら、手に持っているリモコンのようなもののボタンを押した。
周りの景色が、急に明るく光りだした。星也たちにはそう見えたが、実際は星也たちの来ている宇宙服が電波を放ち、星也たち自身を光らせているのだ。
急に上から押さえつけられるような衝撃があったあと、気が付いたら星也たちは空を飛んでいた。垂直にぐんぐんと進み、そのままワープの入り口に突入する。
突入した瞬間。あたりは真っ暗になった。
「わぁ!」
そしてあたりに見えるのは、たくさんの光の粒がゆらゆらと揺れている様子。真下を見ると、そこには黄色くひかる丸い星が見えた。
「あれがグラウンド星だよ」
ナイトにそういわれて、やっとそれが生命体の住む星だと気が付いた。黄色い球には、ところどころ流れるようにうごいているところが見える。そこはきっと、海なのだろう。地球なら外側から太陽の光を受けて青くなるが、グラウンド星はしたから光が来るのでただ光を通す透明な液体になるのだ。
グラウンド星の海は、お風呂のようにあったかいとテラは言っていた。その中で成長した生命体なので、グラウンド人は寒さにも弱いのだと言っていた。
地球の海はつめたい。だけど、地球人が暑さにとても弱いということはない。そう言ったら、でもなぜか、グラウンド星は寒さに弱いのよと言った。
真上には、宇宙船に乗っていたら決して見ることのできなかった地球が見える。
真っ青に光るその球は、ところどころに緑があって、とても綺麗だ。
グラウンド星をいくら見ても、その緑は見えない。ただ、黄色い球があるだけ。
星也たちは急に、この星を、母星を守りたいという思いがこみ上げて来るのを感じた。
生命の源の海の青も、自然の集まる緑も、生きたいと訴えているように感じたのだ。
じっと地球を見つめていると、だんだんとその青が、テラの目のように見えた。
自分たちの為に、仲間を裏切ってまでいろいろとしてくれたテラ。
星也たちは、テラをむりやりにでも地球につれて帰ればよかったと、ふと思った。
今では、もうそんなことはできない。
この母なる星、母なる大地とともに、テラも守りたい。一緒に生きたいと、全員が思った。
足元をもう一度見ると、グラウンド星はもう見えずに、ただひしめく光の粒だけが見えた。
この先に待つ、戦争。その闘いはきっと、過酷なものになるだろう。でもきっと、そのさきに待つのは希望だと思っている。
その保証は何処にもないのだが、そう信じることで、皆で信じることで、自分達の夢はかなうのではと思うのだ。
テラはきっと、この先戦争で大変な思いをするだろう。でも、同じ思いはもっているはずだ。
その希望にみちた未来の為にも、今は懸命に生きよう。懸命に戦おう。
そうすればきっと、願いはかなうのだから。
ここまで読んでくださってありがとうございました。
もしかしたら、「あれ?宇宙戦争物なのに戦争場面がないよ?」と感じた方がいるかもしれません。
すみません。その場面は省かせていただきました。
最初は書くつもりだったのですが、予定が狂ってしまって・・・
切りも良かったので、ここで終了にさせていただきました。
四月に、戦争場面の話を書くつもりです。
その話は一応続編となりますが、その話しを読むだけで内容がわかるように書くつもりです。
初めての長編完結作となりました。まだまだ未熟で変な表現なところもあると思うので、感想・評価・批判などで指導していただけるとうれしいです。
いままでありがとうございました。