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Terra  作者: 海星
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地球にあるものとガラスケース

 茶色い大地の上に、緑色の草が生い茂っている。周りにはなにもない。見えるのは、地平線まで平らに広がっている大地のみ。

 ここはどこだろう。と、首を傾げてみる。グラウンド星だろうか。

 後ろを振り向くと、真っ赤に輝く夕日が見えた。そうか、ここはグラウンド星ではなく、地球なんだ。

 大きな、真っ赤な、きれいな夕日。僕はしばらくそれを眺めていた。

 広大な大地。真っ赤な太陽。豊かとは言えなくなってしまったが、たしかに存在する自然。グラウンド星にはないもの。いや、広大な大地ならあるかもしれない。だけど、グラウンド星で、自然を感じることも、太陽に照らされることもできない。

「地球にいるとね、生きているっていう感じがするのよ」

 急に頭の中に、テラの言葉が流れてきた。テラが言いたかったのはこのことだったのか。たしかに、自然も、太陽も、生の集まりと言えるかもしれない。自然には生き物があふれているし、太陽は地球の生命の源とも言える。

 だけど、本当にそれだけのことなのだろうか。テラが言いたかったのは、そのことだったのだろうか。

 そういえば、なにか物足りない気がする。

 はっと気が付き、周りをもう一度見渡す。今僕の周りに人はいない。

 急に頭がずきんと痛くなって、あるものが見えた。青い、二組の目。しかしそれは、僕が好きになった澄んだ色ではなく、獲物を前にしたハンターのように、狼のように貪欲だった。

 さわさわと流れる風を肌で感じながら、僕は考えた。

 そして最後には、僕の好きな澄んだ青い目が、苦しそうにしているのが見えた。


          ☆★☆


 透明なガラスケースの中。五人の子供が横たわっている。

 そのうちの一人、星也が目を覚ました。

 星也は、朦朧とする陰を追い払おうと、頭を何回か手でたたく。

 そしてはっとなり、自分たちの置かれている状況について気がついた。

「勲、翔、薫、美路、起きて!」

 横に転がっている仲間全員の体をたたき、全員を起こした。

「……どこだ、ここは?」

 勲が頭を押さえながら周りを見渡す。明かりのついた部屋の中に置かれている一つのガラスケース。その中に、自分たちはいるのだ。

 ガラスケースは五立方メートルほどあり、その中には星也たち以外はなにもなかった。

 ガラスケースの外にある窓から見える景色は真っ暗。まだ夜中と言うことは、あまり時間はたっていないようだ。

 全員の意識がはっきりとしたときに、ガラスケースの外にあるスクリーンに映像が映った。

「起きたようだね」

 そこにはヴァルトがいた。しかしその顔には初めてあったときの人の良さそうな笑顔はなく、冷たく見下す目があるだけだった。

「なんでこんなことをするんだ!!」

 勲がそのスクリーンに向かって怒鳴った。するとヴァルトは、愉快そうに笑った。

「くく……なんでだって? そんなの決まってるじゃないか」

 そして笑顔のまま、見下すような目をした。

「君たちは、テラの研究に協力するお礼としてここの観光に来たんだよね?」

「そうだよ」

「確かに君たちに観光はさせた。だけど、生きて帰してくれると思っていたのかい? 勘違いも甚だしい。もちろん消すに決まってるじゃないか」

「なっ……」

 全員の顔が青くなった。それを見て満足そうに、ヴァルトは続ける。

「そもそも、コロニーの住人である君たちに観光までさせることにでさえ、僕は反対だったんだ。君たちは僕らに従わないといけない立場。そんなやつらに、遠慮なんていらないからね」

 少し間が空く。だが誰も、言葉を発することができなかった。

「なのにテラは、協力してもらうんだからそれ相応のお礼をすべきと言ったんだ。その言葉を聞いて、僕は了承した。べつに、その意見に賛同した訳じゃあない。もしお礼がないと、裏切られる可能性がでてテラが危険だと思ったからだよ」

 ヴァルトが、急に笑うのをやめた。

「だけど、つれてきたらすぐに消すべきだと言ったんだ。でもテラは、その後研究をするからしばらく生かしといてやってくれと言った。僕とロートは渋々同意し、王もそれで了承したんだよ」

 そして小憎たらしそうに、星也たちを睨んだ。

「本当は、おまえたちはもう死んでいるはずだったんだ。テラに感謝しな」

 ため息を一つはく。

「おまえたちはしばらくテラの実験台になるんだから、テラ自身が世話をするってよ」

 その言葉を最後に、映像は消えた。


 しばらく沈黙が続いたころ、美路が言葉を発した。

「私たちは、テラさんに裏切られたのかな?」

 みんなが押し黙る。苦しそうに、勲が続けた。

「いくら生きる時間が延びたと言っても、俺たちが殺されることに代わりはねえよ」

 その言葉を聞いて、星也はハッとした。

 テラが裏切ったとは思えない。意識が消える前に見えたテラの顔は、苦しそうだった。

 しかし、今思ったのはそのことについてではない。

 勲たちがここにいるのは、星也がテラにそう発案したからだ。もし別の方法であのとき対処をしていたら、少なくとも勲たちはこのような事態に巻きこまれることはなかった。

「……ごめん」

 無意識のうちに、小さく星也はつぶやいた。なんのことかわからないという顔をみんながした後、その意味に気がついたのか勲ががばっと顔を上げた。

「星也のせいじゃねぇよ!」

 しかし、あとが続かない。

「……テラは、なにがしたいんだろう」

「実験台って、ヴァルトは言っていたけど」

 テラが裏切ったわけがない。その思いはみんな同じだった。

 短い期間だけど、一緒に過ごした日々で見たテラの表情は、全部本物だった。嘘とは思えないぐらい、自然だった。

 だからこそ、テラがなにをしたいのかがわからなかった。


 また沈黙が訪れてしばらくした後、部屋のドアが開いた。

 一斉に、ドアを見る。するとそこには、気まずそうに立つテラがいた。

 聞きたいことはたくさんあるのに、誰もなにも口にできない。部屋の中にはテラの歩く音だけが響いた。

「……ごめん」

 近づき、そう言ったテラを、星也たちは凝視した。その「ごめん」の意味はなんなのか、それが知りたかった。

「これから、脱走するから」

 急な発言に、星也たちは驚いた。

「こうなるってわかっていたんだけど、これしか助かる道はなさそうだったから」

 誰かが「あ……」と声をもらした。何か言いたいのに、声にはでない。

 そしてその言葉は、テラの喉まで這いあがってきていた台詞の蓋をひらく引き金となった。

「ちゃんと、みんなを地球へ送るから! 安心して。私は途中までしかいけないけど、私にとってもっとも信頼できる人、ナイトにまかせるから!」

 星也たちは息をのんだ。前にテラが星也たちをナイトにあわせるときに、テラは繰り返し「そのうち、役に立つと思うから」と言っていた。それは、このことだったのだ。テラは大分前から星也たちを地球に帰す方法を考えていた。ちゃんと、考えていたのだ。

「わかった」

 星也は言った。みんなもうなずく。

「「どっちにしろ、テラ以外に僕らが生きることのできる選択肢はないからね」」

 桜田兄妹の言葉に、みんなが苦笑する。

「じゃあ、行こう」

 テラはそう言い、ガラスケースの扉を開けた。 

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