銃訓練室と二対二
地下三階の銃の研究室を見てから、地下二階へと上がる。
銃の研究室は、とにかくものすごかった。エレベーターの扉が開いたとたんに、大型の機械やその間を歩いている白衣の研究員が目に入った。
交通手段の道路以外は、全部機械で覆われている。たまに強化ガラスと的が置いてあるのが目に入った。試し撃ちだけは、このガラスケースで行うらしい。
地球でも昔から使われている銃弾装着タイプから、電気バッテリーをはめてつかうレーザー銃タイプまで、たくさんの種類の研究・改良が行われていた。
桜田兄妹の反応も予想通りの撮影の繰り返し。その様子から、やはり重火器よりも軽い銃の方が好きなんだとわかった。
エレベーターが近づいたときの桜田兄妹は、研究室に未練たらたら、だけど次の訓練所も気になるといった風貌で、なんだか見てる人まで同じ気持ちになってしまいそうな気がした。
そして、今いるのが地下二階。銃訓練室だ。
広い部屋はいくつもの強化壁によって区切られていて、その中ではそれぞれ別の銃が使われていたり、違う訓練法と思われる練習が行われている。
「ここでは、パターン別、種類別などで分かれて訓練をする。一番左で行われているのは、旧式のやつのコントロール練習だ」
普通銃では、自動的にコントロールしてくれるシステムを組み込んでいる。ただ、そういう機械は、磁力が強いところではあまり使えないのだ。厳重地区で使っていた反重力器ぐらいのものなら大丈夫だが、環境破壊が続いている中、磁力が異様に強くなっているところもある。強い磁力に弱いという性質を利用した「機械強制停止器」という物もある。磁力に強く改良することもできるが、そうするとサイズが大きくなってしまい、戦闘の時に不利なのだ。
だから地球では、旧式も利用している。どうやら、グラウンド星も同じようだ。
桜田兄妹は、旧式も新式もどちらも扱える。自動コントロールシステムをつけてしまえば的当ての意味はないし、新式特有の能力を利用しないとでれない大会もあるからだ。
「ちなみに、今回戦闘を行うのは一番奥にある障害物がたくさんある広い部屋だ。だからそこにいくまで説明をつづけるぞ」
ケント・ニスがそう言いながら、星也たちに移動用車に乗るように促した。
きっと両脇それぞれの撮影を分担するつもりなのだろう。いつも一緒に座っている桜田兄妹が、珍しく隅と隅に別れて座る。
ケント・ニスが説明をしている間、桜田兄妹のみならず全員が外の風景に釘付けになっていた。
地下四・五階で見た風景は、迫力があった。地から響いてくるような振動や、見る者を興奮させる爆発。
だから、正直言って地下三階にきたら、すごいとは思うとはしても迫力は感じないと思っていたのだ。
だが、その予想はいとも簡単に覆された。
軽いからこそ出る、スピード感。銃弾の装着が早いからこそできる、連続の戦闘シーン。
地下四・五階の迫力とはたしかに違う。しかし別物の、上級な迫力がそこにはあった。
「よし、ついたぞ」
向こう側の壁が見えてきたときに、車が止まった。
目の前にあるのは、だいたい学校の運動場二つ分の広さのあるガラスケースと、その中にそびえ立つ廃墟ビルや植木、車。
どうやら実践をシュミレーションする訓練場のようだ。
「ここで使うのは、この加重弾。あたるとその部分が重くなり、実際に攻撃を受けたときと同じぐらいに動きづらくなる」
説明を聞きながら、訓練場のすぐそばにある部屋に入る。そこには訓練場を様々な方向から映し出しているスクリーンや、訓練に使われると思われる防具、銃などが置いてあった。
「今回相手になってくれるのはこの二人だ」
ケント・ニスが手を向けた方を見る。そこには、水色の長い髪を一くくりにした女性と、紺色の短髪の男性がいた。二人とも、桜田兄妹と大体同じぐらいの背。服も、星也たちがきているのと同じものだ。もしかしたら、一番若い人を選んでくれたのかと星也たちが思ったとき。ケント・ニスが続けた。
「水色の方がシュネル、紺色のほうがゲナウ。二人とも、第一部隊の隊員で、その部隊の中でも上位の成績を持っている」
勲が思わず「げっ」とつぶやいた。
しかし、桜田兄妹は全く動じず、そのまま挨拶を交わす。
「「よろしくお願いします」」
「よろしく」
「手加減はしないからね」
シュネルとゲナウがにっこりと笑う。すると、桜田兄妹もそれに応じるように笑った。
銃と防具を選び、替え玉を大量にウェストバックに詰め込んでそれぞれステージへと向かう。
防具といっても軽量型のヘルメットしかないので、全員が似たような格好になった。
銃は、桜田兄妹が旧式と新式の両方を持ち、シュネルとゲナウは二人とも新式を二つずづ持った。ここには磁力が強いところがないので、自動コントロールシステムのついている新式の方が有利。桜田兄妹が旧式も選んだのは、旧式と新式の両方の特色を利用した戦闘方式でもとるつもりなのだろう。
基本訓練を積んだ人は、片手で弾を変えもう片方で撃つ、という方法をとる。たまに、両手にもって一気に撃ち、弾切れになったら隠れて装弾をするという人がいるが、それだと不利になるのだ。ちなみに、新式はバッテリーで動くからといって、弾を入れ替える手間がなくなるわけではない。新式、つまりレーザー銃タイプは電気を大量に使うので、バッテリーの入れ替えが必要なのだ。バッテリー一つで二十四発打てるので、旧式とあまり差はない。
加重弾というのは、旧式の場合は当たると重くなる物体の入っている弾、新式の場合は電流を自動設定してある特殊なツボに流し込むことで相手を動けなくすることらしい。その効力も、旧式と新式で大差がないように設定してある。
桜田兄妹とシュネルとゲナウが三メートルほど離れた線にそれぞれ並んだ時、どこからか放送がかかった。
「では、これから加重弾を使った演習を始めます。先に相手の二人を戦闘不能にした方が勝ちです。ルールは特にありません」
そこで放送はとまり、数秒の間をおいてからカウントダウンが流れた。
「スリー、ツー、ワン、始め!!」
始めの合図とともに、ステージにいた四人がそれぞれの後方へとジャンプする。丁度、四人が四隅に別れていた。
そのまま薫は廃墟ビルに隠れながら登り、翔は障害物の陰に隠れる。シュネルとゲナウも、それぞれ隠れながら移動をしていた。
先に砲弾をしたのはーーーシュネルだった。赤いレーザーの色が見えたかと思うと、それが翔の隠れている植木へとまっすぐに飛ぶ。
当たるか、と誰しもが思ったときに、翔が上に跳んだ。だいたい二メートルぐらいはある。
さすがと星也たちは思ったが、その考えは甘かった。
なにも障害物のない、身動きのできない空中に飛び出た翔は絶好の的。二カ所から一気に連射される。
絶対によけられない。誰もがそう思ったが、違った。
翔が空に跳んだ時に砲弾したのは、二人だけではなかったのだ。上から、旧式の加重弾で四隅を撃たれたと思われるシーツが降ってきて、それがほかの弾が当たる前に翔に多い被さり、加重された翔が下に落ちる。
いや、よく見れば横に跳んでいた。シーツにはロープがくくりつけられていて、翔がシーツにつかまった途端にロープが角度を変え、加重されたおかげで加速した振り子となりそのまま廃墟ビルのほうへと行った。
そのスピードが速すぎて、自動コントロールシステムが追いつけなかったのか、二カ所からの砲弾はない。
代わりに、廃墟ビルから砲弾があった。レーザーと弾丸の攻撃が交互にされる。薫だ。
レーザーはシュネルのほうに、弾丸はゲナウの方へと向かう。二人とも翔に弾をあてようと集中していたので、そのことに気がつかなかった。
ぎりぎりのところでシュネルは横に、ゲナウは後ろに跳ぶ。ゲナウはそれでよけることができた。
だが、シュネルは違った。薫が、相手がよけることを予測していたので、横にも連射していたのだ。
「くっ……」
小さなうめき声とともに、シュネルが足をおさえながら後ろに跳ぶ。加重弾の威力は相当のものらしい。シュネルの動きが鈍くなった。
ゲナウが、弾丸のとんできた方へとむかって銃を撃つ。自動コントロールシステムがついているので、自分から見いえなくても当てることができるのだ。
薫がそれをよける。連続してゲナウとシュネルが撃とうとしたときに、別の方向からまた弾がとんできた。
翔だ。廃墟ビルに到着した翔はすぐに身を隠し、薫がいるのとは逆の一番下の階にきたのだ。
自動コントロールシステムがついているわけではないのに、翔の弾は正確にゲナウの腕へと当たった。ゲナウが銃をおとす。腕が持ち上げられないようだ。
銃を捨て、ゲナウは動く足をつかって素早く廃墟ビルへと近づいた。連射が難しくなったから、接近戦に持ち込むことにしたらしい。
シュネルがそれを補助するかのように、遠くから撃つ。
ゲナウが、廃墟ビルにいる翔のところについたかと思うと、ゲナウと翔の二人が外へと出てきた。
跳ぶ、走るを繰り返し、遠くからの砲弾、近くからの砲弾や蹴りをよけ続ける。
遠くからの砲弾は、シュネルの方がうまいようだった。薫の攻撃は鈍いのに対し、シュネルからの攻撃は素早く、ひとつだけ翔の右足首に当たる。
少しだけ、翔の動きが鈍くなった。足首に当たったせいで、右足をしっかりと地につけることができなくなったのだ。
ゲナウが小さく「よし」と言いながら、蹴りと砲弾を繰り返す。
そして、蹴りがわき腹に入ったときに、薫からの攻撃がなくなった。
もしかしたら弾丸がなくなったのかもと青くなった星也たちが、今まで集中していた中心のスクリーンから目をそらして、薫のいる廃墟ビルの最上階を映し出しているスクリーンを見る。
そこにはーーー薫はいなかった。ロープにつながれたレーザー銃が立っているだけで、薫の姿が全く見えない。
中心のスクリーンに目を戻す。シュネルとゲナウはほくそ笑んでいた。砲撃がやんだことにたいして星也たちと同じ考えを思い浮かべたのだろう。対する翔はポーカーフェイスでなにを考えているのかわからなかった。
そして、その顔に笑顔が浮かんだときに、シュネルが何か訴えるかのようにゲナウの名を叫んだ。
驚いてゲナウが振り向く。その顔の横を、銀色に鈍く光るものが通るのを星也たちは見た。
ゲナウが振り返るとーーーそこには自分の銃二つと、さらにもう一つ、ゲナウが先ほど捨てた銃をもつ翔がいた。
口元にはにっこりとした笑みを浮かべながら、銃を構えて撃つ。一つを空中に放ち片手で装弾をし片手で撃つと言う作業を、まるでバツ字にお手玉をするかのように繰り返す。そのスピードが速くて、まるで両手でもって撃っているかのように見える。
シュネルからの応弾はない。薫がロープを引っ張って最上階に置いていた銃をとり、シュネルと接近戦を開始したからだ。
シュネルは動きづらい足を頑張って動かし、戦った。だがやはり一度も撃たれていない薫に勝てるはずがなく、五秒もしない撃ちに戦闘不能になった。
薫が、ゲナウと戦っている翔のところに応戦しようとしたときには、ゲナウはもう両足が動かなくなっていた。
薫がもう大丈夫だろうと足を止めたときに、翔がゲナウの残った最後の腕に砲弾をする。
銃が手から放れ、地面を虚しい音をたてながら転がっていった。
「勝者、翔、薫ペア」
その音が止まったときに、どこからか放送が流れた。
戦闘時間は、一分ほどしかかからなかった。