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255  作者: Nora_
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04

「田上さんには私の秘密を教えてあげよう、それはねー」


 廊下でまったりしていたら急に始まった。

 まあ、まだ出会ったばかりだからそんなに大事な情報は吐かれないだろうから安心して待っていることができる。


「実は表の顔と裏の顔があるんだよ」

「大体みんなそんな感じだよね」

「ううん、私の場合は激しいんだよ」


 だからその場合でも誰かに見られているわけでもなければ気にする必要はない。


「だって私は裏でねー田上さんのことを書き連ねまくっているんだよ」

「そうなの?」

「うん、夢花といられているときと先輩とだけいられているときでは全く違うからね」


 先輩が微妙そうな顔をすることが多いのも私のそういうところからきているとしたらもっと大人にならなければならない。

 学生の内はいいけど社会人になってからそのままではトラブルに繋がるから練習台……になってもらうしかなさそうだ。


「でもね、田上さんはまだマシなんだよ、やばいのは先輩なの」

「私がどうしたの?」

「わっ、笑顔なのに目が笑ってない!」

「ふふ、楠さんは面白いことを言うのね。ただ、少し気になるから二人きりで話し合いをしましょう?」


 こういうのもお友達らしいやり取りだと思うから止めることはしないでおいた。

 あとこの前決めたことはちゃんと守っていて先輩に来てもらう前提ではないから勘違いしないでもらいたい。


「あわわ……」

「楠さんが変なことになっていますけどなにをしたんですか?」

「さっきも言ったように話し合いをしただけね。それより今日は田上さんに頼みたいことがあったの――喜多さんに関することではないから」

「慌てて言うと怪しく見えるだけですからやめた方がいいですよ」


 私にできることならする、できないことならできないと言う。

 無理なことなのに圧に負けて受け入れるなんてしてはならない、何故ならどちらのためにもならないからだ。


「こ、こほん、田上さんには絵のモデルになってほしいのよ」

「嘉数先輩が描くんですか?」

「ええ、そうでもなければ私は頼まないわよ」


 変なポーズを取ったりすることにならなければいいですよと答えておいた。

 放課後の空き教室とかでもいいのに何故か先輩のお部屋でやることになってしまったけど。


「そこに座って――うん、それでいいから」

「分かりました」


 ベテランというわけではないみたいで描くことに集中しているから会話はなかった。

 気まずくはないけど楽しい時間でもない、色々なところに意識をやることもできないから結構窮屈だったりもする。

 でも、受け入れたのは自分だから文句も言わずに待っていると「できたわ」と先輩がやっと喋ってくれた。


「見せてください――これ本当に私ですか……?」

「ええ、そのままの田上さんよ」

「目に問題があるのかもしれませんね、病院にいくことをお勧めします」


 単純に上手すぎるのもあったけど鏡に映った何故かよく見えてしまう自分よりも美化されていて分かりやすく失礼な反応になってしまった。

 が、今回は怒ったような顔になることもなくこちらの頭を撫でてから「自分に自信が持てないのね」と笑みを浮かべて言ってきたという……。


「実は授業中もこっそり田上さんや喜多さんのことを描いたりしているの、それで脱線しすぎて板書が間に合わなくなりそうなときも多くてね」

「板書をちゃんとしてください」

「ふふ、もっともね」


 冗談だとしても楠さんは書いていて、先輩は描いているなんてね。


「割とすぐ近くにお婆ちゃんが住んでいるけど似顔絵を描いてあげると喜んでくれるのよ?」

「それはそうでしょうね」

「だから田上さんにもしてあげれば喜んでもらえると思ったのよ、そうしたら何故か病院に行くことをお勧めされてしまったけれど」


 そうは言われても受け入れられないときもあるということだ。

 それにもし試されていたとしたらあそこで乗っかっていた場合、私は物凄く恥ずかしい人間ということになってしまう。


「普通に描いてくれればそれでよかったんですよ」

「私が見た通りの田上さんが描けたつもりだけれど」


 駄目か、このまま続けたところで延々平行線になるだけだ。

 中々あることではないから今更だけどお礼を言っておいた。


「今度許可を貰えたら喜多さんや楠さんのことも描いてみたいわね」

「悪用するわけでもありませんから大丈夫ですよ」

「もちろん、そのときはあなたにもいてもうわ」

「え、はい、それは構いませんよ」


 とはいえ、じっと見られたくはないだろうから本でも借りて読書でもしておけばいいだろう。

 その後はみんなでまたなにかを食べに行ってもいいし、作って食べてもいいと思う。

 毎回毎回なにか食べて終わりだと寂しいからまたどこかにお出かけできたらもっといいかな。


「またお出かけしましょうね」

「ええ」


 それまでにもっと楠さんと自然といられるように頑張らないといけない。

 先輩のところにだけではなくあの子のところにも積極的に行こうと決めた。




「え、なんでびしょびしょ……」

「なんかさ、こうして傘もささずに他の子の家に行ったらそれっぽい雰囲気が出るかなって」


 しかもこんな夜にやることではない。


「やめて……夢花ちゃんに風邪を引いてほしくないよ」

「うんまあ、楽しくはなかったからシャワーでも浴びさせてもらおうかな」


 廊下が濡れても拭けばいいだけだからすぐに連れて行って入ってもらうことにした。

 彼女がシャワーを浴びている間はせっせと廊下を拭いてなかったことにしてしまう。


「ふぅ、さっぱりした、ありがとね」

「うん」

「で、最近は特に連絡もきていなかったわけだけど、先輩達とはどうなの?」

「自分から行くようになって一緒にいられる時間は増えたよ、ただどちらかと言えばやっぱり嘉数先輩の方が一緒にいやすいかな。楠さんは常に誰かしらといて申し訳ない気持ちになってくるからね」


 上階に行ってもすぐには近づかずに確かめるだけ確かめるなんてことをしてみたものの、先輩が特定の誰かと常に盛り上がっているなんてことはなかった。

 かといって楠さんとかといられなければ一人の私とは違う、よくではなくても話しかけられては柔らかく対応をして相手の人も楽しそうだったから同レベルではないけど。


「ほーん、やっぱり陽キャラなんだね、私も流石にあの子には負けてしまいそうだなー」

「どうせ夢花ちゃんだってクラスメイトや違うクラスの子達と仲良くしているでしょ?」

「まあね、だけど麻結がいてくれたなあって考えるときは多いよ」

「私ならいつでも相手をさせてもらうよ」

「嘘つき、さっきも言ったけどろくに連絡もしてきてくれないじゃん」


 あれ、思った以上に真剣な顔だ。

 どう答えたものかと悩んでいると「一日一回は最低でもやり取りがしたいんだけど」と答えを教えてくれたから分かったと返しておく。

 中学生のときだってなかったけどいまだから寂しく感じてしまっているだけなのだろうか。


「あと楠に取られるのだけはごめんだからね、麻結は先輩と仲良くしておけばいいんだよ」

「そっか」

「うん、まあ仲良くするなとは言わないけどね、何様って感じだし」


 その点に関しては心配する必要もない、私の中でもまず先輩と仲良くなるのが第一の目標だからだ。

 第二の目標は露骨に差を作らないこと、第三の目標は分かりやすく表情なんかに出して迷惑をかけないこと、露骨に差を作らないということだけはいまでもできているけど表情云々は……という感じ。


「男の子とはどうなの?」

「それこそ楠達と同じように連絡先を交換してから安定してやり取りをするようになった感じかな」

「おお、夏頃には彼氏さんができた夢花ちゃんが見られるかもしれないんだね?」

「私からすれば夏頃には彼女ができた麻結が見られるかもしれないから楽しみだけどね」


 うーん、それはどうだろうか……。


「今日はあっちで寝ない?」

「下? それでもいいよ」


 そういえばナオはと探してみたら丁度寝ようとしたところにいてくれて彼女が抱きしめていた。


「もーナオは可愛すぎーナオが人間になれたらよかったのに、そうしたら間違いなく狙っていたところだよ?」

「にゃ~」

「はは、なにも分かっていないだろうけどそういうところが可愛いの!」


 結論、ナオは可愛いというやつだ。

 会話よりもここでしかできないことに集中してしまったから私は寝転んで天井を見ておくことしかできなかった。

 元々夜更かしなんかはできない理由もあるから仕方がないけど彼女もやってくれたと思う。

 案の定、解散のときには彼女だけがスッキリしたような顔をしていて対する私の方はもやもやとしていた。

 一緒の空間にいるのにまともに話せずに終わるのはこれで何回目だろうか……。


「納得がいかない……」


 もちろん、ナオよりも魅力的だなんて自惚れているわけではない。

 でも、いきなりやって来たうえにそのお友達は放っておいてペットとばかり盛り上がろうとするのは駄目だろう。

 だからお弁当を作ってからは速攻で家をあとにして学校で暴れていると「おお、珍しい田上さんが見られたよ」とどうやら楠さんに見られてしまったみたいだった。


「なにかあったのならお姉さんが聞いてあげよう、言ってみると楽になれるよ?」

「夢花ちゃんがいきなり来たうえにナオとばっかり盛り上がっていたから暴れていただけかな」

「なるほどなるほど、確かに相手をしてもらえなかったら寂しいよね。よし、そんなきみには飴をあげよう。はい」

「ありがとう」


 確かに飴の味はとても優しい感じで落ち着くことができた。

 既にお友達と盛り上がっているから近づいたりはしないものの、楽しそうな彼女に向かって内でありがとうと再度言っておいた。

 こうなれば後は普通に授業を受けて帰るだけなので失敗しようがないのは大きかった。

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