01
四月六日、私もとうとう高校生になろうとしていた。
とはいえ、大して緊張もしていない。
どうせこれまで通り授業を受けて帰るだけだし、部活に入らなければならないなんてルールもないから平和に終われることだろう。
中学生のときにできたお友達はみんな違う高校にいってしまったからいまの目標は卒業までに男の子でも女の子でもいいからどちらかのお友達を作るということだった。
「おはよう」
「おはようございます」
幸運なことにお家からそう離れていないところに私の高校はあった。
なるほど、校門から校舎までも距離はないから移動が楽そうだ。
確かめてみたらクラスは二組みたいだったから移動、の前にトイレを済ませておく。
田上麻結という名前だから窓際と廊下側は期待できないことが残念だったりもする。
それで後はそう中学時代とかと変わらない感じで終わった。
解散になった後は賑やかな教室を速攻であとにして家へ。
「ただいま」
高校進学に合わせて違うお家を契約してもらったとかでもないから慣れた土地と慣れたお家だ。
「にゃ~」
「あ、ナオただいま」
ナオは去年の夏に父がどこかから拾ってきた。
最初から大人しくて逆に心配になるぐらいだったけどいまは活発だし、なにより積極的に家族の近くにいてくれるから安心できる。
「よしよし」
拾ってきたときに小さかったから当然、一年も経過していない現在では全く変わっていない。
でも、病気とかでもないみたいだからこのままでも可愛いからおーけーと片付けている。
「ん? あ、夢花ちゃんからだ」
喜多夢花ちゃん、この子が中学生のときにできたお友達だ。
話しかけてきてくれた理由は私が転んで情けない顔をしていたからで、時間が経過してからそのときの不満をぶつけてみたけどはははと笑われて意味はなかったことを思い出す。
「やっほー友達とかできたー?」
「ううん、私は他の誰よりも早くあの高校から出てきたからね」
最初で最後の戦いだ、実は誰かには負けていたとしても悔しさは……ないかな。
「うわあ……」
「でも、今日頑張る必要はないと思っただけだから、別に拒絶しているわけではないからね」
「ま、そういうところは麻結らしいけどね。あ、特に予定がないなら私の家に来なよ、ケーキぐらいなら出すよ?」
「それならいかせてもらおう――」
「待った、そっちにはナオもいるからケーキを持ってそっちにいくよ」
まあ、そこは自由にしてくれればいい。
通話を終わらせてから約五分ぐらいが経過した頃に夢花ちゃんはやって来た。
「おーナオー」
「にゃ~」
なんだろうね、彼女が相手のときだと凄く嬉しそうな感じで複雑だったりもする。
ただ、やっぱり彼女がいないときも側にいてくれているからそこまで醜い状態にならなくて済んでいるところだった。
「可愛いなあもー麻結にもこういう人懐っこさがあったらよかったんだけど」
「夢花ちゃんにはごろごろ喉を鳴らしているでしょ?」
「いや、私に対してはノリが悪くていつも微妙そうな顔をしているよね」
結構後先考えずに行動をしてこちらを振り回してくるところも多い子だったから仕方がない部分もあるのだ。
どんな顔をしているのかはわからないものの、お友達が暴走しているのなら誰かが止めてあげなければならないのだ。
「麻結、私は今度こそ彼氏を作るからね」
「頑張って」
「うん。ということでケーキを食べて力を蓄えよう」
「あ、ジュースを出すよ」
彼女が好きなしゅわしゅわしたやつがあるからそれを出しておいた。
ケーキの方は普通のショートケーキで普通に美味しかった。
「さてと、もっといたいところだけど色々とやらないといけないことがあるからこれで帰るね」
「うん、ケーキありがとう」
「気にしなくていいよ、それじゃあね」
なんか中学生のときよりもより魅力的な顔になっていたなあ、と。
って、卒業してからまだ一ヵ月も経過していないのになにを言っているのかという話だけど。
早めに終わったのもあって自ら足の上にやって来たナオの顎を撫でつつまったりとしていると「一旦ただいま!」と母が帰ってきたみたいだった。
「入学式に行けなくてごめんねえ……」
「気にしなくていいよ、中学生のときも同じだったでしょ?」
「最低な母親だあ……」
「小学生のときには来てくれたんだから最低の母親ではないよ、お仕事で忙しいんだから仕方がないことなんだよ」
授業参観も同じような理由でほとんど来てくれてはいないけど格好いいところを見せられるわけでもなし、寧ろ来られると恥ずかしいから好都合だったりもする。
「結局、小学生のとき以外は行っていないんだから同じじゃない……?」
「それよりお昼ご飯がまだならなにか作ろうか?」
「ううん、それぐらいはやらせて!」
やりがたっているなら……いいか。
あのまま最低な母親だあ! とずっと言われている方が気になって駄目だったから。
「はいっ、麻結の大好きなオムライスだよ!」
「ありがとう。いただきます」
うん、美味しい。
単に出来立てで温かいだけだろと言われたらそれまでかもしれないけど母が作ってくれたご飯を食べられると胸の辺りがぽかぽかと温かくなるのだ。
「あっ、もうこんな時間か。ごめんっ、今度ちゃんとなにかお祝いをしようね!」
「はは、夜にはちゃんと帰ってくるでしょ?」
「でも、二十一時とかだからね、流石にそこから高校生の娘を連れ出すわけにもいかないからさ」
お祝いとかはいいから遅れないように戻ってほしいとぶつけたら物凄く悲しそうな顔をしながらも母はここから去った。
疲れ切った体と精神に対してナオは有効的だから頑張ってもらいたいところだった。
こんな感じか。
余った時間を使って校内探索をしていた。
大体、どこになにがあるかはわかったから授業とかで移動することになっても問題は起きないと思う。
「よし、帰ろ――」
来た道を引き返そうとしたときにそれは起きた、二人分は距離があっても急に人が見えれば誰だって固まる。
「ごめんなさい、驚かせるつもりはなかったの」
「ああいえ、ここは私の場所というわけではないですからね」
冷静なふりをしているだけで心臓の方はわかりやすく大暴れ状態だった。
別にこちらに用があったわけではないみたいだから挨拶をして別れる、本当にこれ以上は用もないから学校もあとにした。
途中、慣れ親しんだスーパーでしゅわしゅわを買って飲んでいると「そういうのが好きなのね」と急に横から話しかけられて今度こそ抑えられなかった。
「あら、こぼれてしまったわね、少しじっとしていてちょうだい」
それよりも普通に人なのにどうして足音が聞こえてこないのか、私は常に考え事をしながら歩いているわけでもないのに謎だ。
「それとこれは癖なの。少しやめてみるから歩いてみてちょうだい」
「わかりました」
あ、今度は聞こえてきた、それならそういう能力を有しているというだけのことか。
幽霊さんとかではなくてよかった、人によっては見えるかもしれないけど私には見えないままでいい。
「私は嘉数知加子よ、高校二年生。あなたは?」
「私は田上麻結と言います、一年生です」
「よろしくね」
私は先輩の独特な雰囲気にやられていた。
合わせているからだろうけど喋りやすいのもあれだった、このことは後で夢花ちゃんに言おうと思う。
「それ、美味しそうね」
「飲みますか? 気にならないならいいですよ」
「それならいただこうかしら」
先輩は少しだけ飲んでから「しゅわしゅわが強いわね」と笑っていた。
そう、これは中途半端では駄目なのだ、強すぎるぐらいが丁度いい。
複雑なときには本当に役に立ってくれる、とガチ勢とまではいかなくても夢花ちゃんと同様にこれが大好きな人間は一人で盛り上がっていた。
「もう特に予定はないのよね? それなら帰りましょう」
「はい」
これを上手く利用して先輩と仲良くなってみせる。
来週までには夢花ちゃんのところに連れていけるぐらいが理想だ。
「あの、お友達になってくれませんか?」
「いいわよ? ただし一つだけ条件があるわ。それはね、なんでもいいからその日にあったいいことを教えてほしいの」
「今日で言えば嘉数先輩が話しかけてきてくれたことですね」
「まだその判断は早いわよ、私が危ない人間だったらどうするの?」
そうしたら……特になにも言わずに距離を作るぐらいが私にできることではないだろうか。
「ふふ、困らせてしまったわね。本当にそれだけでいいの、あとは私の方から行くからあなたが動く必要はないわ」
「仲良くなれたら私の方からも行きたいです」
「仲良くなれたらね――あ、私はこっちだから、これからお互いに頑張りましょう?」
頷いて一人で歩き始めた。
元々つまらなく感じているタイプではないけど楽しめそうで一人テンションが上がっていたのだった。
「友達的存在ができたのはこの前連絡をしてくれたから分かっていたけどさ、それがこの人……ってこと?」
「うん、夢花ちゃんの話をしたら嘉数先輩が会いたいって言ってきてね。私も紹介したい気持ちがあったからそれに乗っかった形になるかな」
「せめて本人に言ってからにしてよ……心臓に悪いでしょうが」
「ははは、ごめんね」
とりあえずは二人に任せて私はナオを抱いておく。
男の子ですぐにお客さんに興味を持つ子だから大人しくいてくれないと思っていたのに彼はずっとここにいた。
奇麗系よりも可愛い系がいいのだろうか?
私がそうというわけではなくて今日は先輩と盛り上がっているから邪魔をしないようにここにいてくれているのかもしれない。
「麻結のことをお願いします」
「任せてちょうだい」
「よし、私は満足できたからナオは返してもらおうかな」
「はは、はい」
「もーいつも可愛いでちゅねー」
いまのところ一番のお気に入りはやっぱり彼女か。
でも、これから仲良くなってここによく来るようになれば先輩だって気に入られる可能性はある、いまだってじっと見ているぐらいだからね。
「え、あ、裏切り者ー」
「さ、触っても大丈夫かしら?」
「はい、攻撃をしたりは絶対にないので大丈夫ですよ」
ああ、こんなびくびくとした触り方は久しぶりに見た。
実はナオを取られて悲しそうな顔をしている彼女も最初はこんな感じだった、野生の猫なんて滅多にいないし、そもそもいたところで逃げられてしまっていたからどういう風に触ればいいのか不安だったみたいだ。
「凄く大人しくていい子ね」
「はい」
「ちぇ、ナオはすぐに人を気に入るんだから」
「はは、それは夢花ちゃんのときもそうだったでしょ?」
「待った、女の子ばかり気に入るのはどうかと思うよナオ」
女の子のお友達しか連れてきていないからそこはナオが悪いわけではないと思う。
かといって、私が男の子を連れて来られるかと言えばそうではないと答えるしかないのが現実だ。
だから彼女としてはずっともやもやすることになるのは確定してしまっていた。
「触らせてくれてありがとう、田上さんのところに戻って休んでちょうだい」
「な゛、言うことも聞くなんて……」
「やっぱりそこは田上さんが長く一緒に過ごしているからよ」
微妙そうな顔で彼女は黙るだけだった。
それでも悪い雰囲気になったりはしなかったから任せておけばよかった。
「麻結は取られてもいいけどナオだけは取られたくないんだよ」
これが先輩を送って帰ってきた瞬間に言われた言葉だ、一貫していて逆に気持ちがいい。
「それならもうナオとお付き合いをすればいいと思うよ、男の子と女の子ということで自然でしょ?」
「その場合麻結は?」
「私は男の子と仲良くできる気がしないから恋をする人達を応援する方に回るよ」
高校生活を特に問題もなく終えられればそれでいい。
なんとかして卒業のときまでは先輩と過ごしたいとは考えているけどそれぐらいだ。
恋人を作りたい! なんて願望を抱いているわけではないから許してもらいたい。
「なら女の子でいいじゃん」
「じゃあ私と夢花ちゃんとナオの三角関係だね」
「わ、私は駄目だよ。そこはほら、あの先輩とかでいいでしょ?」
「冗談で言っただけだけど露骨に嫌がられていまので拗ねた」
同性同士とかありえないなんて考えがあるわけではないものの、私のことをそういう風に見てくれる人物がいないからこの話を続けてもただ時間が経過するだけとなってしまう。
頑張ったところで拒絶されてしまったら問題もなく終えるということができなくなってしまうため、やっぱり見る側に回るだけだった。
「はは、嘘つき」
「夢花ちゃんもあんまり現実逃避をしないようにね、ナオならここに来れば会えるんだからまずは男の子に対して頑張らないと」
この点に関してはこちらの方が貫けているから偉そうに言うことができる。
彼女もそのままの状態で「実はもう気になっている男の子がいるんだよね」と返してきただけだった、ではない。
「え、影響を受けやすいところは変わらないね」
「私だからねー少し確認をしてみた結果、部活はやらないみたいだから放課後なんかにも過ごしやすそうでいいと思った」
「どこを気に入ったの?」
「顔かな」
格好いい男の子を好きになるのはまあ普通としてもそこばかりを見てしまうタイプでもあるから危険だった。
前までなら一緒の学校で気になったら一人で確かめに行くなんてこともできたけどいまは違う学校同士、こうして話してくれなければなにも知らない間に始まったり終わったりなんてことになるのだ。
「そんなに心配そうな顔をしなくても大丈夫だよ、私だってまだ全然分かっていない状態だから流石に動いたりはしないんだから」
「ちゃんと教えてね」
「麻結も守ってくれるなら教えるよ」
私は隠すことなんてなにもないからどんどん吐いていくだけだ。
彼女にとってしょうもない情報だったとしても約束を守ればちゃんと教えてくれるということなら続けるだけだった。




