人助け
……ん? 何じゃ?
何やら顔がベタベタするのう。
「ウォン!(主人!)」
「……何じゃ、オルトスか」
どうやら、かなり深く眠ってしまったらしい。
それを見たオルトスが、儂の顔を舐め回していた。
「ウォン!(平気なのだ!?)」
「何の話じゃ?」
「ウォーン……(主人、泣いてるのだ……)」
ふと目に触れると、確かに濡れていた。
やれやれ、あんな夢を見たからか。
そうか、漠然と世界を旅して美味い物を食いたいと思ったのは……ロイス様との約束だったのだ。
魔王との戦いで忘れていたが、今になって思い出すとは……ロイス様が自分の分もしてこいと言っているように思える。
「心配かけた。少し、昔の夢を見てな……さて、顔でも洗ってくるとしよう」
「ウォン(ならいいのだ)」
下手に聞かないオルトスの気遣いを感じつつ、儂は川の水で顔を洗う。
そしてスッキリした頭で、今一度思い直す。
「ふむ……それに引っ張れるつもりはないが、ロイス様との約束を果たすか」
約束に縛られることを、彼の方は望まない。
これはあくまでも、儂がしたいことじゃな。
それにしても、あの時のロイス様との会話……儂がユーリスに言ったことと同じではないか。
本心から、儂はユーリスを息子のように思っている。
「あの時のロイス様も、このような心持ちであったのか……そうだと良いが」
「ウォン!(主人!)」
儂が考えにふけっていると、オルトスが近づいてきた。
「おっと、すまん。また考え込んでしまうところじゃったか」
「ウォン!(それはいいのだ! それより、何か叫び声が聞こえたのだ!)」
「なに? ……穏やかではないのう。わかった、その場所に案内せい」
「ウォン!(こっちなのだ!)」
儂は顔を拭き、ささっと片付けをしてオルトスの後を追う。
そして森の中を走ること数分、ようやく儂にも声が聞こえてきた。
「ギャキャ!」
「ギギー!」
「こ、来ないでぇぇ!」
「あ、あっち行け!」
この声は妖魔であるゴブリン、それに子供らしき声が二人分。
ならば、助けないという選択はない。
「オルトスよ!」
「ウォン!(承知!)」
詳しく言わずとも、オルトスが速度を上げる。
儂がその後を追い、森を抜けると……広い場所に出る。
そこには二人の子供の前に立ち、ゴブリンから守っているオルトスがいた。
ただ、肝心の子供達はというと……。
「うわぁーん! もうだめぇぇぇ! 狼まで来たよー!」
「な、泣くなよ!」
まあ、こうなるのは仕方あるまい。
そして当のオルトスが儂に気づき、情けない視線を向けてくる。
「ククーン……(主人……)」
「ええい、情けない顔をするな。とりあえず、儂がすぐに片付けるから待っとれ」
悪いが抱き合って震えている子供達にはそのままでいてもらう。
儂は剣を構え、ゴブリン二匹と対峙する。
「ギャギー!」
「キギー!」
「相変わらず醜悪な姿よな」
人に似た体躯を持ち、緑色の皮膚に落ち窪んだ目の醜い顔。
やせ細っていて、大きさは百五十センチ程度しかない。
手にはボロい剣を持ち、ほぼ裸の状態。
こやつが、妖魔の中で最下級であるゴブリンじゃ。
「さあ、さっさとかかってくるがよい」
「キギー!」
「ギャギャ!」
儂の声が通じたわけではないが、二匹が同時にかかってくる。
しかしその攻撃は遅く、目を閉じても食らうことはないじゃろう。
「ふんっ!」
「ギャ!?」
前に出て、相手が攻撃する前に上段斬りにて仕留める。
「ギキャー!」
「遅いわ」
もう一匹が剣を振り下ろすが、儂の逆袈裟斬りの方が早い。
剣ごと身体を斬り裂き、声を上げる間も無くゴブリンが絶命する。
「ふぅ、感覚が違いすぎて戸惑うわい」
「ウォン!(動きが軽かったのだ!)」
オルトスの言う通りじゃった。
あまりに身体が軽すぎて、自分の感覚が追いつかない。
やはり、若さというのは凄いのじゃな。
ただ、これは慣らしていかないとまずい。
とりあえず後回しにして、儂は二人の子供に近づく。
「お主達、子供だけか? 親はどうしたんじゃ?」
「な、何やってるんだよ!」
「お、お兄さん! まだ狼がいるよ!」
「おっと、これはすまんかった。此奴は儂の相棒で、オルトスという。人を襲うことはないから安心するといい」
「ウォン!(そうなのだ!)」
オルトスが儂の前で伏せをして、従う様子を見せる。
すると、子供達から僅かに不安の表情が抜けた。
「ほ、ほんとだ」
「か、噛んだりしない?」
「ああ、無闇に噛んだりはしない。ほれ、少し触ってみるといい。オルトス、良いな?」
「ウォン(好きにするのだ)」
オルトスがゆっくり二人に近づくと、二人が恐る恐る毛に触れる。
「うわぁ……すげー! ふわふわだ!」
「お兄ちゃん! こいうのはもふもふっていうんだよ!」
「「もふもふ!!」」
二人は先ほどの警戒心は何処へやら、嬉しそうにオルトスにまとわりつく。
オルトスは少し渋い顔をしたが、今のところ我慢している。
なので、助け舟を出すことにした。
「これこれ、そんなに乱暴に触られては誰だって嫌じゃろうに」
「ウォン(主人ぃぃ……)」
「ご、ごめん!」
「ごめんなさい!」
ようやく、二人がオルトスから離れる。
当のオルトスは、助かったという情けない顔をしてきた。
……少し面白いと思ったことは黙っておこう。




