一息つく
無事にオルトスも中に入り、軽く自己紹介をする。
幸いなことにアンナ嬢もオルトスに怖がることはなく、それを見て母であるメリッサ殿も安心してくれたようだ。
やはり、エルとの触れ合いが大きかったのかもしれん。
……皆、元気でやっていると良いが。
「ふっ、既に懐かしんでしまう」
「ウォン?(主人?)」
「いや、なに……子供の扱いに慣れたようじゃな」
「ウォン(泊めてくれるしお安い御用なのだ)」
ふと見れば、オルトスの上にアンナがしがみついていた。
それはエルですらやったことはないが、オルトスは大人しくしている。
どうやら、かなり活発な女の子のようじゃ。
「確かに宿の中にまで入れてくれるのは初めてじゃな」
「ねえねえ! お兄さんはオルトス君と話せるの!?」
「ああ、そうじゃよ。此奴とは契約を結んでいるからのう」
「凄い! わたしも、それが出来たら冒険者になれるかな!?」
「冒険者になりたいのかのう?」
「うん! アリアさんみたいにカッコいい女性になりたい!」
ふと横を見ると、アリア殿が嬉しいような困ったような表情を浮かべた。
そんな中、ため息をつきながらメリッサ殿がお茶を運んできてくれる。
ひとまず礼を言い、まずはお茶を飲むことに。
「ふぅ……美味い。素人じゃが、お茶の入れ方一つでも違いがある。ようやく、人心地ついたわい」
「ふふ、ありがとうございます。今までは何をしていらしたのですか?」
「そうじゃな、簡潔に説明するかのう」
魔王討伐の旅に同行していたこと、魔王退治が終わった後は冒険者になったこと。
その後は街や村々を移動しつつ、時には野宿などをしながら旅をしていたこと。
最後に北の大地で育ったので、世間知らずということを……これ、一番大事。
「た、大変だったわね……それじゃ、私達がそれなりに平和に暮らせたのもシグルドさんのおかげでもあるわ」
「改めて聞くと凄いです……のうのうと暮らしてきた自分が恥ずかしくなる」
「大したことではない、儂は儂にできることをやったまで。それぞれに役割があり、そこに上下などないと思うわい」
戦場でも補給部隊、医療部隊、雑務処理部隊、戦闘部隊など様々だった。
確かに戦闘部隊などは命がけだったが、それも他の部隊がいなければ成り立たない。
儂ばかりが目立つが、皆が勇者であり英雄だ。
「……そういうものですか」
「少なくとも、儂はそう思う。何故なら、儂にはこんな美味しいお茶は入れられないからのう」
「はっ……確かに仰る通りです」
「ふふ、褒めてくれて嬉しいわ」
すると、アンナ嬢が儂の服を掴む。
「ねえねえ! それよりも冒険譚とか聞きたい!」
「むっ、それは私も気になります」
「ほほっ、そうかそうか。では、妖魔達に囲まれた話でもしようかのう」
「それでしたら、私はその間にお食事の準備をしますね」
「おおっ、有り難い」
そうして、儂はせがまれるままに昔話を始める。
そして気づく……死んでいった者達は蘇ることはない。
ただ、こうして若者に話をすることで、彼らの生きた証を残せるのはないかと。
……また一つ、旅の目的ができたわい。




