55.赤髪シスター、緊急の呼び出し――試験場からの疾走
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見逃さないようにブクマだけでもしてもらえたら!
作者は(。≖‿≖ฺ)ニタァってしてます。
嬉しいからね。仕方ないね。
・前回のあらすじ
ヘルメス、ついにバイク実技をクリアしてガッツポーズ!
しかし余裕の走りを見せたカレンが、試験後にまさかの行方不明。
眠そうな顔のくせに成績バッチリ、なのに消えるなんて――何かヤバい予感がする!?
連載形式で更新していく予定ですので、ぜひ最後までお付き合いください。
試験コースを出るや否や、彼女は淡々とヘルメットを外してスタッフへ書類を渡した。
スラロームや急制動、Uターン――どれも想定どおりにこなせたようで、わずかな達成感が胸に宿っている。
(バイク、意外と簡単だったな…眠くても集中すれば何とかなるんだ)
そう心の中でつぶやきつつ、彼女は細めた目で周囲を見回した。
ヘルメスが次の番で試験を受けるらしく、ちょうど「ヘルメスさん、準備お願いします」という試験官の声が聞こえてくる。
ヘルメスが深呼吸をしてバイクにまたがる姿を見つめながら、彼女は内心で「がんばれ」と合図を送る。
そのとき、ポケットに入れていた教団連絡用の小型端末が振動を始めた。
(こんなタイミングで……嫌な予感しかしない)
彼女はやむを得ず腕時計型端末を確認し、耳にインカムを装着すると、できるだけ人目につかない位置へ身をずらして声を落とす。
「……はい」
端末越しに聞こえたのはセシリアの声だった。
どこか焦った様子で、いつもの落ち着きが感じられない。
「セシリアです。少し厄介なことになりました。襲撃です」
「襲撃……私のときみたいな?」
声を低く抑えて問い返すと、かつて昼間から妙な集団に狙われた記憶がよみがえってきて胸がざわつく。
「えぇ、おそらく……。ミルナとアーレが、同時に襲われています」
ミルナとアーレ――いずれもセシリアに仕え始めたばかりの新人だ。
二人とも休暇を楽しみにしていて、今日は高級百貨店へ買い物に行くはずだった。
「こんな昼間に……。一般人も巻き込まれてるんじゃないでしょうか」
「そうですね……。私も屋敷まわりの連中を片付けたらすぐ向かいます。二人を助けていただけますか?」
セシリアの声から緊張感が端末越しにもにじみ、彼女はすぐに承諾の言葉を口にする。
「わかりました。……セシリア様も、お気をつけて」
そう言って通話を切ったあと、周囲を見やった。
ヘルメスは試験コースのスタート地点でエンジンをかけるところらしく、こちらに気づく様子はない。
少しだけ彼のほうを気にかけたが、今は緊急事態だ。
「……悪いね、ヘルメス。今回は先に行くよ」
小さくそうつぶやき、彼女は試験会場の人混みを避けながらこっそり外へ抜け出した。
2日目の試験中にこんな事態になるとは想像していなかったが、ミルナたちを放っておくわけにもいかない。
バイク試験の結果など構っている場合ではなく、彼女は足早に駐車場を目指す。
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街頭の大型スクリーンには、百貨店で起きている事件の中継が映し出されていた。
白昼から大勢の人が人質に取られるなど、尋常ではない状況だ。
「……現地の警察は外周を完全に封鎖した模様ですが、人質の安否は依然不明とのことです。犯行グループの動機や狙いは不明で、一部では計画的テロの可能性も指摘されています。周辺住民の方々は、くれぐれも近づかないように……」
震える声のニュースキャスターと、それを見つめる人々から漂う重苦しい空気が、その非常事態を示していた。
ガラス張りの入り口はシャッターで閉ざされ、中へも外へも通れない。こんなやり方を白昼堂々やるとは、正気とは思えない。
「……なんてひどい連中。一般人を巻き込むなんて……」
彼女は小さく呟いたが、ここで立ち止まってはいられない。
セシリアからの連絡もあるし、急いでミルナたちを助けに行かなくては。
しかし、この“派手なテロ”がどうにも引っかかる。
教団が絡んでいる可能性もあるし、最悪な予感しかない。
ビル外周はすでに封鎖され、警備の厳しさは増している。
正面から行けば特殊部隊や警官に止められるのは目に見えている。
ならば裏手から回り込むしかない。
「……仕方ないか。面倒だけどやるしかない」
人通りの少ない側面通路を進むと、フェンスやバリケードがむき出しのままの場所に出た。ここなら人目を避けられそうだ。
本当なら、こんな燃費の悪い術は使いたくなかった。だが、今は姿を隠して移動しなければならない状況だ。彼女は眠気も吹き飛ぶほど注意を研ぎ澄まし、意を決して呪文を唱える。
「……もう、しょうがないか。『闇に紛れて影を落とし、沈黙に揺り籠を。漆黒の帳よ、我を覆え──影の隔絶』」
短めの詠唱にしても、これ以上は削れない。
完全に唱え終えると、彼女の身体がじわりと霞んで周囲の空気に溶けていく感覚があった。
(……ふう、維持だけでも魔力をだいぶ持ってかれそう……)
隠形とはいえ完全な透明化ではないので、やはり慎重に動かなくてはならない。
思いきって“飛ぶ”ほうが早いかもしれないが、ビルの高さも考えると護衛の気配なども気になるところ。彼女は自分を鼓舞しながら顔を上げた。
(大丈夫、大丈夫……悪夢よりはマシだって)
視線を上に移すと、中層階あたりのガラス張りの窓が見えた。
あそこから入れば正面封鎖は避けられるはず。
問題はどうやって到達するか。
結界魔術の応用で空中に“足場”を作り、段差のようにして上階へ進むしかない。
姿を隠しながらだと魔力の消耗が激しく、体力も削られるが、もはや仕方なかった。
「……ま、文句言ってもしょうがないし、行くか」
一段ずつ見えない階段を作りながら、ビル壁面を昇っていく。
不審な光景だろうが、少なくとも姿が消えている分、目撃の可能性は下がる。
バランスを取りつつ上がっていくと、ほどなくガラス張りの大きな窓が目の前に現れた。
外から人影は見えないようだ。
「切り取るしかないか。ガラスごめん…ちょっと穴開けさせてもらうよ」
彼女の結界は“通すものと通さないものを指定できる”特性がある。
つまりガラスを“拒絶”して切断することが可能だ。
意識を集中し、隠形を維持したままガラスの円形部分を音もなく切り離し、内側へゆっくり倒し込む。
警報もなく、人影もない。どうやら倉庫か会議室か何からしい。
(よし……成功。さっさと侵入しよう……)
彼女は窓枠をまたぎ、ビルの内部に身を滑り込ませた。
百貨店の備品が積まれたスペースなのか、人気はまったく感じられない。
姿隠しが解ける前に目標へ向かわなくては。あまり長居はできない。
(こんな大規模テロが起きてるんだから、警官も特殊部隊も下の階に集中してるはず。はぁ……やりづらいけど仕方ない)
思わずため息混じりのぼやきが漏れる。
大勢が人質になった可能性もあるし、犯行グループの真の狙いはわからない。
無関係な市民を巻き込むその手口に、怒りがこみ上げる。
「……あの時みたいな惨劇は、二度と見たくないんだけどな」
亡者の街での悪夢が頭をかすめ、一瞬胸が苦しくなるが、弱音を吐いている暇はない。
彼女は眠気を振り払うように顔を上げ、意を決すると小さく呟いた。
「はぁ……面倒でも、やるしかないでしょ。セシリア様に報告して、もし裏で教団が絡んでるんなら止めないと。……よし、行こ」
全身の倦怠感と魔力消費に耐えつつ、フロアの奥へ足を進める。どんな危険があろうとも、やるべきことがある以上は倒れるわけにはいかない――そう心を奮い立たせながら。
最後まで読んでいただき、本当にありがとねぇ!
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