53.眠り姫とバイク講習――二人の免許取得大作戦
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見逃さないようにブクマだけでもしてもらえたら!
作者は(。≖‿≖ฺ)ニタァってしてます。
嬉しいからね。仕方ないね。
・前回のあらすじ
ルナの病室にやってきたヘルメスは、いつものロングコートを脱いで黒いジャケット&ニット帽のストリートスタイル。
思わず「似合ってる!」と絶賛してしまうルナだが、さらに猫のぬいぐるみ“マオ”を披露されて大興奮。
しかもヘルメスの下手くそな裏声まで飛び出して、笑いが止まらない。
「二日に一回は来てね!」とわがままを言うルナだが、彼もまんざらじゃない様子。
マオちゃんをぎゅっと抱きしめるルナは、退院後の大冒険を想像してワクワクが止まらない。
どうやらこの相棒コンビ、次の事件も一緒にクスッと乗り越えてくれそうだ。
連載形式で更新していく予定ですので、ぜひ最後までお付き合いください。
DMVの玄関を出た瞬間、頬を刺すような冷たい空気が迎えてきた。
免許証や書類を手に、俺は待っているヴィクターのもとへ歩み寄る。
彼は車のボンネットに寄りかかり、俺に気づくと安心したように笑顔を浮かべた。
「さすがだねぇ、ヘルメス。もう車の運転は完璧じゃないか」
俺は手にしたばかりの免許証をちらりと見せながら、鼻で笑うように答える。
「だろ? 練習を頑張った甲斐があった。これでルナへの退院サプライズにも弾みがつくってわけだ」
ヴィクターが「やれやれ、張り切ってるな」と笑いつつ助手席に乗り込むのを見届け、俺も運転席にまわってドアを閉める。
エンジンをかけ、軽くハンドルを回して出発の準備を整えると、ヴィクターがこちらを見て感心した声を出した。
「ルナの退院まであと五日か……。僕も退院祝いに作りたいものがあって、最近いろいろ材料を仕入れてるんだ。いやあ、渡すのが楽しみだよ」
ルナが退院する日の笑顔を思い浮かべると、自然と胸が軽くなる。
「お前が作るものなら、きっとすごいんだろうな。俺も楽しみにしてる。――ああ、そうだ。最近仲良くなった奴に教えてもらったんだが、MSFの週末集中講習に参加できることになったんだよ」
MSF――Motorcycle Safety Foundationはライダー向けの安全講習を行う組織で、実技試験を免除してくれるプログラムもあるらしい。
「おお、バイクか。ルナが退院するまでに間に合いそう?」
ヴィクターがシートベルトを締めながら、興味津々の表情でこっちを見る。
俺はゆっくりアクセルを踏み込みながら、道路へ車を滑り込ませつつうなずいた。
「持つべきものは友だな。実技に持ち込めるバイクがなかったから助かる」
「ふふっ、いいじゃないか。免許取得の話も聞かせてもらうとするよ。ヘルメスがバイクに乗ってるところ、まだ想像できないなあ」
「ま、楽しみにしててくれ。いい酒をたっぷり用意してくれりゃ、いくらでも話すさ」
俺が笑うと、ヴィクターも「ははっ」と嬉しそうに声を上げる。
車内は一瞬しんと静まるが、すぐまた二人の笑いで和やかになる。
窓の外に広がる朝の空気はまだ淡い色合いだが、どこか胸が弾んだ。
(まさか、こんなふうにルナの退院に合わせてサプライズを計画しているなんて、少し前じゃ考えられなかった。だけど今は、何だって成し遂げられる気がする)
ヴィクターも似た心境なのか、楽しそうに肩を揺らして言う。
「じゃあ、しっかり運転頼むよ、探偵の助手さん?」
「言われなくても。お前こそシートベルトはちゃんと締めてろよ。俺は今や正式な免許持ちなんだぞ?」
冗談まじりで返すと、ヴィクターがうなずき、また二人で笑い合う。
エンジンの唸りが心地よいリズムを刻み、俺たちは朝の街へ向かって走り出した。
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翌朝。
薄曇りの空の下、俺はMSFの講習会場へやって来た。
きっかけは昨晩の電話――俺がバイク免許を取りたいと話したところ、カレンが「週末の集中講習があるよ」と教えてくれたのだ。
「一緒に受講してみる?」と彼女から言われ、即答した結果、こうして二人そろって参加することになった。
会場の受付には、すでにカレンの姿がある。
いつも通り眠たげな雰囲気をまとい、資料を小脇に抱えて立っているが、よく見るときっちり受付を済ませているらしく、やるべきことはしっかり終えているようだ。
「お、早いな。ちゃんと来られたんだな、カレン」
声をかけると、カレンは糸目がちなまなざしをこちらに向け、ぼそりと応じる。
「……おはよ、ヘルメス。うん、まあね……ちょっと眠いけど。先に登録しといたから、あなたも済ませてきて」
相変わらず眠そうな調子だが、時間通りに来ていて受付まで終わらせているのだから大したものだ。
俺は苦笑しながら、自分の受付を済ませるためスタッフへ向かった。
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講習はまず座学から始まる。
MSF――Motorcycle Safety Foundationの基本コースは、バイク初心者でも理解しやすいようになっており、男女混在で受講する。
ヘルメットの装着方法、プロテクターの重要性、基本的な安全運転の理論を学んでいく。
カレンはぼんやりとした糸目を維持しながら、時々小さなあくびを殺しつつ最低限のメモを取っている。
スタッフに「大丈夫ですか?」と声をかけられるたびに「うん、平気…」と淡々と応じるのがなんとも微笑ましいやら不思議やら。
その後、外の実技エリアへ移り、トレーニング用バイクを押して取り回したり、エンジンをかけたりといった初歩を学ぶ。
俺は馬と車の経験から「すぐ慣れるだろう」と思っていたが、バイク特有の身体バランスとクラッチ操作が予想以上に難しく、ちょっと苦戦気味だ。
(馬よりも、車よりも、感覚がダイレクトすぎる…)
一方のカレンは、いつも通り眠そうな顔ながら妙に安定して発進や低速バランスをこなしている。
「……思ったより扱いやすい……馬のほうが怖いよ……」なんてぼそっと言うが、その言葉どおりブレが少ないから侮れない。
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午前の講習が終わり、一同は昼休みに入る。
男女入り混じった受講生たちは皆、そこそこ疲れた表情ながら充実感を口にしている。
俺とカレンは敷地の片隅で一息つくことにした。
「いやあ、まさかバイクがここまで難しいとは…馬とか車とはまるで勝手が違うな」
俺が嘆くと、カレンは眠そうに小首をかしげて答える。
「……そう? わたしは思ったよりいけるよ。ヘルメスが苦戦するの、ちょっと意外……」
彼女の飄々とした毒舌に苦笑いしつつ、俺はポケットからミネラルウォーターのボトルを取り出して手渡す。
「ほら、水分補給しとけ。眠いならなおさらだろ。」
「……うん、ありがとう……」
カレンは小さく頭を下げ、水を一口含む。
俺は弁当箱を広げ、茹で鶏・ブロッコリー・玄米を詰めた筋肉飯をさっそく頬張る。
「……それ、誰かに作ってもらったの?」
ぼんやりした糸目で弁当を見ているカレンの言葉に、俺は苦笑してかぶりを振る。
「いや、俺が自分で作った。お小遣い制だからな。バイクと車の免許に金が飛びそうだし、食費ぐらい節約しないと。」
「ふうん…意外。男がちゃんと料理するの、いいと思う……ふぁ…眠い……」
あくびを噛み殺すカレンだが、その視線は弁当に釘付けだ。
俺が「そんなに食いたいのか?」と尋ねると、カレンは小さくうなずき「…うん、ちょっとだけ欲しい…」と言う。
仕方なく、おかずの半分を分けてやると、淡々とした顔のまま咀嚼を始める。
「ところで、なんでバイクなんだ? 単なる移動手段にしては、やたらと気合い入ってそうに見えるけど」
改めて問うと、カレンは視線を落とし、ぼそぼそと語り始める。
「…移動手段にもなるけど……わたし、自由に走りたいんだよね。風を浴びると、眠気が冷める気がして…。それに…小さい頃からずっと“やらなきゃいけないこと”ばかりで、自分のやりたいことなんて考えたことなかった。初めて“これ欲しいかも”って思えたのが、バイクだった……」
淡々と話す彼女の瞳には、微かな決意が見える。
俺は頷きながら、笑みを浮かべる。
「いいじゃないか。俺も漠然と“乗れたら便利かも”くらいの気持ちだけどな。……じゃあ免許取れたら、一緒にツーリング行こうぜ。俺もこの世界、まだ知らないとこだらけだし、仲間がいるほうが面白いだろ?」
カレンはわずかに目を開いて「…仲間、ね…」と反芻する。
「うん……まあ、いいかも。……ただ、ちゃんと落ちないようにしてよね」
そう言うわりには、少し嬉しそうな顔をして見える。
「任せろ。午後の講習も頑張ろうぜ。慣れが必要だが、この筋肉飯で体力はバッチリだ」
「……本当にストイック。ヘルメスは元気だね」
カレンはわずかに笑みを浮かべ、パンを小さくかじり始める。
俺はそんな彼女が何気なく弁当のおかずを見ているのに気づき、苦笑いしながら「もう少し食うか?」と尋ねる。
「うん、食べる」と即答する彼女と、二人で昼食をシェアしながら午後の実技講習に思いを巡らせるのだった。
最後まで読んでいただき、本当にありがとねぇ!
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