52.紫猫のぬいぐるみ――裏声大作戦
毎週【月曜日・水曜日・金曜日】06:17に更新!
見逃さないようにブクマだけでもしてもらえたら!
作者は(。≖‿≖ฺ)ニタァってしてます。
嬉しいからね。仕方ないね。
・前回のあらすじ
ルナは入院中なのに、祖父の研究や教団の陰謀をノートにびっしり書き込んで奮闘中。
そんな彼女の病室に現れたのは銀髪剣士・ヘルメス。
毒で倒れたリベンジを誓うルナは、「異世界の知識を全部教えて!」と詰め寄るが、ヘルメスは「いいけど退院までは無茶すんな」と苦笑い。
剣士×探偵のタッグは果たしてどこまで突き進むのか?
退院後の大逆襲に期待大。
連載形式で更新していく予定ですので、ぜひ最後までお付き合いください。
ルナがメモ帳を脇に置いて小さくため息をついた直後、ヘルメスがやたらと得意げに胸を張って言葉を放った。
「それはそうと……ルナ、何か気付かないか?」
実は、ヘルメスが病室に入ってきた瞬間から、いつもと違う服装だということにはルナもすぐ気づいていた。
だが、不意打ちすぎて適切な反応をする前に頭が真っ白になってしまっていたのだ。
改めて問いかけられたことで、彼女は少し間をおいてから視線をヘルメスに戻す。
「……何かって、ええと、その……。あ、そうそう! ヘルメス、今日は随分イメチェンしてるわね」
先ほどまで研究ノートの構想を考えていた思考は、突然の話題転換にやや混乱している。
ヘルメスの装いは黒いジャケットとパンツ、そしてニット帽まで被っていて、いつものロングコートとはまるで違う雰囲気だ。
「すごい似合ってる! いつものコートじゃないのね、ちょっとびっくりしたわ」
素直な感想を口にすると、ヘルメスは「だろ?」と口角を上げて笑う。
どうやら自分でも相当気に入っているようで、ジャケットの裾を軽く引っ張って見せている。
「コートはお前にもらった大事な仕事着だからな。普段着は別に必要だと思ってな。ヴィクターと一緒に買いに行ったんだ」
「へぇ、ヴィクターと……。でも、本当に似合ってるわよ。前にも言ったけど背が高いしスタイルいいから、何着てもそれなりに様になるのに、今度のは特にしっくりきてる」
ルナがそう言うと、ヘルメスは満足げにうなずく。
黒いジャケットとパンツが彼の体型をうまく引き立てていて、妙にかっこいいのが少し悔しいくらいだ。
「……それと、お前に土産がある」
そう言いながらヘルメスは、鞄から小さな袋を取り出した。
半透明のラッピングに可愛らしい柄が施されているのが見え、ルナはつい身を乗り出す。
「え、私に?」
少し警戒しつつも期待を込めて覗き込んでいると、ヘルメスが袋を開く。
そこから出てきたのは、紫色の毛並みをした猫のデフォルメ人形。
まん丸い瞳と短い手足がやけに可愛い。
「か、かわいい! …これ、私に本当にくれるの?」
「そりゃそうだ。まあ、お前の趣味に合いそうだと思ってな」
胸がきゅっと締めつけられるほど嬉しさでいっぱいになり、ルナの目はぱっと輝く。
だが、ヘルメスは「ちょっと待て、まだある」と言いながら、袋から人形を取り出して支度を整える。
「僕、マオだよ! 可愛いでしょ!」
裏声。しかも明らかに下手だ。
それでも人形の手足をぴょこぴょこと動かす様子が微笑ましく、ルナは笑いをこらえきれなくなりそうになる。
「うんうん、かわいいよ! マオちゃんはどこから来たの?」
そのまま人形遊びに乗るように尋ねると、ヘルメスがまた裏声を響かせた。
「砂漠の王国からきたんだ! 実は姫様なんだぜ~」
もともと低い声の彼が必死に高い声を出しているが、やはり微妙に下手。
それでも人形がちょこちょこ動くのが可愛らしすぎて、ルナはとうとう限界に達した。
思わずマオちゃんをひょいと取り上げて、ぎゅっと抱きしめる。
「なにこれ…すごく可愛い…! 本当に私にくれるなんて、嬉しすぎる!」
「そりゃよかった。そんなに喜ぶとは思わなかったが」
ヘルメスはケロリとした表情だが、その口元にはかすかな笑みが浮かんでいる。
ルナは人形を抱き込んだまま顔を上げた。
「私、人形好きなのよ。子供っぽいとか思わないでよね……」
「思わんさ。事務所の自室に人形がいっぱいあったろ? いや、掃除してたときに扉が開いてて、つい見ちゃっただけなんだが…すまないな」
「え、そ、そう…。ま、まあ見られちゃったものは仕方ないわよね」
本当は子供っぽいと思われないか内心ドキドキしていたが、ヘルメスは「気にするな」とあっさりと首を振る。
「ま、少しは寂しくなくなったか?」
「うん、すごく。思ってたよりずっと嬉しいかも」
少し照れながらそう答えると、ヘルメスは「なら何よりだ」と軽く頷いた。
「あ、そういえば……。ヘルメスが人形を“マオ”って呼んでたじゃない? その名前ってどこから来たの?」
「――ああ、そっか。お前には話してなかったか。実は俺の仲間に“マオ”って猫がいたんだよ。正確には人の姿にもなれる種族でな。昔はほとんど猫の姿で過ごしてて、夜なんか平気で俺の布団に潜り込んで寝てた。まあ色々あって俺が面倒みてたんだ。で、この人形を見たらそっくりで、つい買っちまった」
「へぇ……! やっぱりそういう種族もいるのね。なんだか可愛い…」
「素直で頑張り屋の可愛い奴さ。猫の姿で布団に丸くなって、朝起きると腕枕してたりな。思い出すと笑えるけど…そんなわけで、この人形を見たらつい“マオ”って呼んじまったんだ」
「いいなぁ。その話だけで癒されるわ。ますます大事にしなきゃ、マオちゃん」
ヘルメスは椅子を立ち上がりながら、やや名残惜しそうにするルナへ言葉を投げる。
「そろそろ俺は帰るけど。…退院まではあと少しかかるんだろ?」
「え、もう? まだ退院まで時間かかるのに! …二日に一回は来てよ? こっちは暇で死にそうなんだから」
「はいはい…二日に一回か。思ったより注文が多いな」
「いいの、私がそうしてほしいの! ね、頼むわよ?」
ルナが強い口調で念を押すと、ヘルメスは少し呆れた顔をしながらも「わかったよ」と返事をする。その素直さが、彼女には何とも嬉しい。
「服褒めてもらえたし、人形も喜んでもらえてよかった。じゃあ、また来る。……お大事にな」
「ありがとう。本当に似合ってるから、また見せてね」
そう言われると、ヘルメスは苦笑しながら病室のドアへと足を向ける。
「じゃ、相棒さん。ほどほどに無理せずにな」
「分かってるわよ。…あ、またマオちゃんの裏声やってよ?」
「…そのうち、な」
軽い冗談を交わして微笑み合い、ドアが閉まると病室に静寂が訪れた。
ルナはマオちゃんを抱きしめながら、自然と小さな笑みを浮かべる。
探偵事務所に戻る日が楽しみで仕方ない。
くだらない事件でも、大きな陰謀でも、“甘い剣士”となら必ず乗り越えられる――そう確信していた。
最後まで読んでいただき、本当にありがとねぇ!
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