51.「剣の腕だけじゃ、この世界は救えないわ」——病室で交わす相棒の誓い
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見逃さないようにブクマだけでもしてもらえたら!
作者は(。≖‿≖ฺ)ニタァってしてます。
嬉しいからね。仕方ないね。
・前回のあらすじ
カレンは教団が“死神”と恐れるヘルメスと遭遇し、自慢の防御結界をあっさり無効化されてしまう。
なのに彼は命を奪うどころかお姫様抱っこ(実際はおんぶ)で助けてくれたから、頭の中は大混乱。
本当に教団の仇なのか?
大切な恩人セシリアの仇討ちという大役もあるのに、どうにも割り切れない。
結局、あれこれモヤモヤしたまま自宅に戻ると、カレンは枕を抱えて悩みに悶絶。
次に彼と会うときは――敵なのか、それとも別の何か?
揺れる心が眠気も吹き飛ばすほどにざわつき始める。
連載形式で更新していく予定ですので、ぜひ最後までお付き合いください。
病室の空気はやや肌寒く、わずかに漂う消毒液の匂いが眠気を誘っていた。
入院中だというのに、ルナはメモ帳とにらめっこを続けている。
退院後にすぐ動けるよう、今のうちに頭を整理しておかなければと思っていたからだ。
彼女は小声でつぶやきながら矢印を増やし、さらに考察をメモへ書き足していく。
アストラル・イニシエイトの目的が「転移実験」なら、祖父の研究ノートやカルロスの行方が何らかの形でそこに繋がっているはず。だが、結論にはまだ遠い。
そんな集中状態に入っていたからこそ、不意に視界の端で白っぽい影が動いたとき、ルナは思わずペンを取り落としてしまった。
「わっ……!」
驚きに変な声を上げた彼女の目の前で、誰かが手を振っている。
銀白の髪が揺れ、端正な面立ちをもつ男――ヘルメスがそこに立っていた。
「ひゃっ……ヘルメスっ!? な、なに勝手に入ってきてるのよ! びっくりするじゃない!」
自分の声が裏返ってしまったのがわかり、ルナは少し恥ずかしそうに視線を逸らす。
ヘルメスは呆れたように肩をすくめ、ベッドのそばにある椅子を引いて腰掛けた。
「勝手って……ノックしたけど、全然反応しなかっただろ。ルナが集中してるのは分かってたがな」
「そ、そう。ごめん、考えごとしてて気づかなかった……」
落ちかけていたペンとメモ帳を拾い上げると、シーツにインクが付いているのを見つけてげんなりする。
そんなルナに、ヘルメスは軽く声をかけた。
「熱心だな。ヴィクターの研究所の件か?」
「うん。教団と祖父の研究、それからカルロスさんがどうして攫われたのか――退院したらすぐ行動するためにまとめておきたくて」
ルナがメモ帳をめくりながら説明すると、ヘルメスはやや身を乗り出し、その書き込みを覗き込む。
そこには“アストラル・イニシエイト”や“転移実験”、“魔王と祖父”といった単語が矢印だらけで並んでいた。
「なるほど。だいぶ深掘りしてるようだな」
「そうしないと、またこの前みたいに毒で倒れちゃいかねないもの。あれは本当に悔しかった……」
ルナは鼻を鳴らすように息をつき、メモ帳を枕元へとそっと置いた。
先日の失態を思い出すと、未だに苛立ちを覚える。
そんな彼女を見て、ヘルメスはわずかに表情を険しくする。
「俺も色々調べてはいるが、まだ手がかりが足りない。結局、アルバート・フォスター――お前の祖父が何を目的に研究していたのかが鍵だろう」
「そう。祖父と魔王アル=ザラフの関係が、転移実験の根幹にあると思う。あの研究所でも“魔界の法則”って言葉が出てきてたし……」
二人でしばし黙り込んだあと、ルナは意を決したように切り出した。
「ねえ、ヘルメス。お願いがあるんだけど」
「なんだ?」
彼女の青い瞳がまっすぐヘルメスをとらえる。
ルナは変に遠慮するより正直に伝えたほうがいいと思っているようだった。
「私に、アストレリアのことや魔術のこと……全部教えてほしいの。ゼロカオスとかギフトって呼ばれる力も含めて、できる限り」
一瞬、ヘルメスの瞳が大きく見開かれた。
「全部……? どうしてだ?」
「前回の事件、あなたがいなかったら私は本当に危なかった。あのままじゃ探偵として何もできない。だからもし次に魔術や異能を相手にするなら、仕組みが分かっていないと戦えないでしょ? 私も探偵、――そして“相棒”として役に立ちたいのよ」
言葉に熱がこもってしまい、ルナは少し息を詰まらせる。
ヘルメスは考え込んだ末、軽く笑った。
「相棒、ね。……分かった。全部となると大変だが、退院するまでには整理しておく」
それだけでルナの胸はじんわりと熱くなる。
彼女は照れを隠すようにわざと咳払いした。
「ありがとう。でも一度じゃ覚えきれないんでしょう? それでも私、覚悟してるから」
「分かった。とはいえ退院前に無茶はするなよ」
「ええ。分かってる。“また倒れられたら困る”と思ってるでしょ?」
「正直、そうだな。また毒にでもやられたら面倒だし」
ヘルメスがやや堅い調子で釘を刺すと、ルナは吹き出しそうになる。
「ふふっ……なんだかんだ言って、あなたって面倒見いいのよ。自覚はないみたいだけど」
「そうか? そうか…...」
「それに……剣の腕だけじゃ、この世界は救えないわ。だから、私はもっと知りたい。……退院したら、ちゃんと時間を取ってくれるんでしょう?」
自分で言いながら、その言葉の重みにルナは小さく呼吸を整える。
ヘルメスもまた、わずかに表情を引き締めた。
「……ああ。剣だけでどうにもならないことは、俺だって嫌というほど知ってる。退院したらまとめて教えてやる。頭をフル回転させる覚悟がいるぞ」
「もちろん。私を甘く見ないで。今度は絶対に事件を解決するんだから。あなたやヴィクター、グラントとも協力してね」
自然と笑みがこぼれ、ヘルメスの頬も少し緩む。
「了解だ。期待してる。ただし退院までは大人しくしてろよ。いきなり無茶されても困る」
「分かってるってば。動きたい気持ちはあるけど、同じ轍を踏みたくないからね」
そう言い合うと、ルナは再びメモ帳を手に取る。
次回、ヘルメスがアストレリアや魔術について語ってくれるとき、しっかり記録できるように準備しておかねばと思う。
その胸には期待に似た高揚感がある。
祖父の謎、ヴィクターの研究、アストラル・イニシエイトの野望……どれも一筋縄ではいかないだろう。
しかし、剣士と探偵のコンビなら必ず突破口を開けると信じた。
「よし、退院したらすぐ二人で事件を解決しましょう。頑張るわよ」
彼女の言葉に、ヘルメスは静かに頷いてみせる。
「楽しみにしてる。……でも、本当に無理はするなよ」
互いに笑みを浮かべながら、ルナは改めてペンを走らせる。
大きな力が動き始めている気配を感じても、不安はない。
なにしろ、自分に“何でも教えてくれる”剣士がそばにいてくれるのだから――そう信じられるだけで、彼女の思考は一層冴えわたっていくのだった。
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