50.揺らぐ絶対防域――カレンが抱いた迷いと決意
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見逃さないようにブクマだけでもしてもらえたら!
作者は(。≖‿≖ฺ)ニタァってしてます。
嬉しいからね。仕方ないね。
・前回のあらすじ
ヘルメス、バイク筆記試験合格の帰り道で赤髪少女カレンを発見。
寝不足で爆睡する彼女をおんぶしていたら、謎のローブ集団が襲来。
しかし体術で瞬殺し、彼女を家まで無事送り届ける。
夜驚症持ちというカレンと連絡先を交換し、さて次は実技試験――と思った矢先、すでにトラブルの匂いがプンプンする展開に!
連載形式で更新していく予定ですので、ぜひ最後までお付き合いください。
カレンは深呼吸をしてから、屋敷の門をくぐった。
玄関へ続く石畳からは結界魔術の気配が揺らぎなく漂っている。
普段ならそれだけで心が落ち着くはずなのに、今日はどうにも胸がざわついていた。
何かを仕掛けられたのだろうか。それとも――もうすでに“されて”しまったのかもしれない。
そう思いながら、カレンは静かに屋内へ足を踏み入れる。
石造りの廊下を進むと、窓から差し込むオレンジ色の光がかすかな塵を浮かび上がらせていた。
リビングに入ると、セシリアの姿がソファにあった。
ラフな私服に伊達眼鏡という装いで、いつもより可憐な雰囲気を帯びている。
「ただいま戻りました、セシリア様」
カレンは眠気を堪えながら敬意を込めて声をかけた。
セシリアは読んでいた小説をそっと閉じ、柔らかな笑みを返してくる。
「おかえりなさい、カレン。今日は少し遅かったのですね?」
問いかけに、カレンは答えを絞り出すようにしながら軽く頭を下げた。
「ええ、DMVでバイクの筆記試験を受けまして……帰り道に少し妙な連中に絡まれました」
そこまで言いかけて、カレンは言葉を飲み込む。
ヘルメスのことを今すぐ打ち明ける気にはなれなかった。
彼は教団が危険視する「死神」と呼ばれる存在――セシリアにとっては母の仇とされる相手でもある。
そんな男に助けられ、背負われて運ばれたなど、とても素直に話せる状況ではない。
「絡まれた、というと怪我はないのですか? あなたの結界であればそう簡単には破られないと思いますけれど」
セシリアが少し心配そうに問いかける。カレンは曖昧に首を振りながら答えた。
「怪我はありません。屋外でうっかり寝落ちしてしまって……不注意だったと思います」
セシリアは小さく息をついて伊達眼鏡をテーブルに外し、申し訳なさそうなカレンを見やりながら、ごく薄い苦笑を浮かべる。
「あなたらしいですね。無事なら何よりですし、“ディフェンシス・ドミニア”であれば普通の相手に破られることはまずないでしょう。むやみに無茶はしないように」
その言葉がカレンの胸に突き刺さる。
自身の張った結界はそう簡単には破られないはずだ。
それにもかかわらず、ヘルメスの“ゼロカオス”によってあっさりと剥がされてしまった。
しかも彼はカレンが魔術師だとわかっていたはずなのに、危害を加えるどころか背負って助けさえしたのだ。
(いったい何を考えているの……?)
セシリアはなおも柔和な調子で、バイクの免許取得について尋ねる。
カレンは簡単に日程の話をするが、さほど長いやり取りをする気にもなれず、すぐに自室へと戻ることにした。
カレンが廊下を進むと、自分が施した結界の波動がしっかり残っているのを感じる。
本来なら心強いはずなのに、“ゼロカオス”に剥がされた記憶がよみがえるたび、胸のあたりが落ち着かなくなる。
「……あんなにあっさりと結界を剥がされるなんて、噂通りだとわかっていたけど、実際に体験すると本当にすごい。でも私が魔術師だとわかっていて……どうして何もしないの?」
カレンは枕を抱えるようにしてつぶやく。
抑えきれない眠気が幾度も襲うが、銀白の髪をした剣士の姿は頭から離れなかった。
もし彼が教団の言うとおり“死神”という最凶の敵なら、あの場で命を奪われる可能性はいくらでもあったはずだ。
「次に会うときに確かめる。セシリア様や教団の命令では彼は“排除すべき相手”なのかもしれない。けど、あの人が本当に悪人なのか……自分で見極めたい」
ベッドに沈んでいく意識の中で、カレンの胸には矛盾した思いだけが重くのしかかる。
セシリアの母を奪った“仇”として認識しなければならないはずなのに、背負われたあの瞬間の優しさが強烈に焼きついていた。
(“死神”とは聞いていたけど、あんな優しさを見せるなんて……いったいどんなつもりなの?)
瞼が重くなるにつれ、思考の糸はほどけていく。
それでも、胸の奥にくすぶる疑問とざわめきだけは消えてくれそうにない。
カレンはかすかに息をつき、“次こそははっきりさせなければ”と心に決めながら、深い眠りへと落ちていった。
最後まで読んでいただき、本当にありがとねぇ!
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