5.銀白髪の剣士――そして名探偵の選択
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見逃さないようにブクマだけでもしてもらえたら!
作者は(。≖‿≖ฺ)ニタァってしてます。
嬉しいからね。仕方ないね。
・前回のあらすじ
ビルの上から剣士が「どーん!」と降ってきたと思ったら、なんと銃弾をペチペチ弾いてしまう化け物じみた男だった。
警察は大混乱で即お縄かと思いきや、そこに現れたのは天才探偵ルナ・フォスター。
彼女は一瞬で刑事グラントを言いくるめ、ささっと剣士を“保護”してしまう。
さらに「連続失踪事件を解決するから、剣士は私に任せて!」と大胆提案で警察を納得させたものだから、みんなポカーン。
結局、グラントは「いつもこうだ…」と愚痴をこぼしつつ観念するしかなく、ルナは謎の剣士を連れ去っていった。
さて、このちょっとズレたコンビが一体どんな事件を巻き起こすのか――「楽しみだわ」と笑うルナに、グラントのため息がビルの谷間にこだまするのであった。
「修繕費はきっちり払ってもらうぞ」
警察署のカウンターで、グラント・ウォーカーがそう告げる。
彼の視線は探偵のルナ・フォスターに向けられていた。
何しろ“空から落ちてきた剣士”を保護したのだから、その代償を支払わないわけにはいかない。
ビル外壁など、あれこれ壊れた損害が2万8千ドルを超えると聞くだけで、ルナの頭は痛くなる。
もちろん、彼女はただの探偵でしかない。
これほどの大金をそう簡単に工面できるわけもなかった。
だが、相手は警察。
泣き言を言っても容赦してはくれないと分かっている。
仕方なくルナはカードをカウンターへ叩きつけた。
「……一括で」
思わず顔が引きつりそうになるが、ここで弱音を吐くわけにはいかない。
グラントはルナの表情をじっと見据え、「自業自得だろ」と言わんばかりの空気を漂わせるが、何とか無言でやり過ごしてくれている。
立ち会っている会計係が領収書を発行するあいだ、ルナはそっと視線を横へ向けた。
そこにはヘルメス・アークハイドが立っている。
彼は警察署内を物珍しげに見回していたが、警官たちと無用な衝突を起こすつもりはなさそうだ。
言葉が通じないにもかかわらず、ルナが話をまとめたことで“拘束はされない”状況になったことはしっかり理解しているようだ。
今の彼には、ルナを信じるほか道がないのかもしれない。
「俺としては、お前が妙なヤツを拾ってくるのはいつものことだが……今回のは“空から落ちてきた剣士”だぞ? いくらなんでも肩入れしすぎだろ」
書類にサインを済ませながら、グラントが呆れ顔でルナに言う。
たしかに、彼女は異常な事件や人物を引き込むことが珍しくない。
今回ばかりは、その中でも破格の存在に違いない。
ルナは車のキーを握りしめながら、隣で待つヘルメスを見上げて軽く微笑む。
「さあね。……なんでかしらね?」
曖昧に答える彼女に、グラントはますます眉間のシワを深くする。
「……お前がそんな曖昧な返しをする時は、たいてい裏がある」
彼が吐き捨てるように言うと、ルナは肩をすくめた。
裏があるというより、探偵としての勘が騒いでいるだけなのだが、それをグラントに正直に話す気はない。
「あなたも知ってるでしょ? 祖父が扱ってた謎の案件は警察にも山積み。だから慣れてるのよ。“ありえない”が起こっても不思議じゃない世界だって」
祖父――アルバート・フォスターの追いかけていた怪事件の数々。
そのフォローをずっとしてきたのがルナとグラントだ。
彼は苦い顔をしながら、思い出したくないと言わんばかりに視線をそらす。
「まあ、あんたのじいさんには散々無茶苦茶な案件を持ち込まれたからな。警察は未解決ファイルだらけだ」
グラントが呆れたように漏らすと、ルナはどこか楽しげに笑みを浮かべる。
未知の現象や謎に飛び込むのは、彼女にとって血が湧き立つような感覚があるのだ。
「だからいいのよ。私は何でも首を突っ込む。あなたたち警察と一緒」
「俺たちは仕事でやってるんだ」
「私も仕事よ。……じゃ、帰るわね~」
そう言って、ルナはヘルメスの腕を軽く引き、駐車場へ向かう。
警察署を出るまでは何が起こるかわからないし、面倒ごとを長引かせるのは得策ではない。
愛車の助手席にヘルメスを座らせる。
慣れない様子に戸惑い気味な彼だが、言葉は通じなくともルナが進めるままに従っている。
まるで初対面の友人を観光案内するかのような自然な手つきで、ルナは彼を車内へ誘導する。
警察署の出入り口からグラントが心配そうに見ているが、ルナは気に留めていない。
「大丈夫か……?」
グラントが遠巻きに声をかけると、ルナはエンジンをかける前に振り返ってにこりと笑う。
「私を信じなさい」
「そっちが信じられねえよ」
苦々しい言葉を投げられても、彼女は意に介さない。
“空から落ちてきた剣士”が何者なのか、自分の手で確かめたいという思いがルナを突き動かしているのだ。
「……やれやれ」
グラントのぼやきが微かに聞こえたが、ルナは車を発進させる。
ミラー越しにグラントの姿が小さくなり、署をあとにしたところで彼女はそっと息をついた。
(連続失踪事件については、私がどうにかする。この男が鍵になるかもしれないしね)
そう心の中で決め込みつつ、彼女は運転席のミラーをチラリと見やる。
そこには物珍しそうに車内を見回すヘルメスの姿。
白銀の髪が微かに揺れ、彼の横顔は一見“普通”にも見えなくはない。
(でも、実際はビルから落ちても無傷、銃弾を剣で弾く……“人”……と言えるのかしら?)
そんな疑問が頭をよぎったとき、ふと彼の髪の奥に“黒い突起”が見えた。
まさかと思い、ルナは車を一旦止め、助手席に身を乗り出す。
「……角、なのね」
髪をかき上げれば、そこには小さな角。
ドキリと心臓が跳ね、彼女の手は震えそうになる。
ヘルメスはそれを見られたくなかったのか、わずかに身を強張らせて視線をそらした。
(アストレリア……それにアルザラフ。祖父の研究ノートにあった“異世界”の記述が現実になるなんて)
連続失踪や不可解な事件、すべてが繋がっているのかもしれない――ルナはそう確信しかける。
探偵として目の前の謎を追わずにはいられない。
「大丈夫、落ち着いて。ここは私の車。誰も攻撃なんてしない」
もちろん彼には通じないが、声と表情だけでも安心感を与えたい。
ヘルメスは警戒を解けない様子だったが、一瞬だけ息を吐くと、角を隠すように髪を下ろした。
再びエンジンをかけ、ルナは車を夜の街へと走らせる。
普通の捜査では到底歯が立たない事件も、彼となら踏み込める可能性がある――祖父のノートが示唆した“ありえない世界”を、今こそ解き明かすチャンスだ。
(謎が深いほど、探偵冥利に尽きるわ)
アクセルを踏み、銀髪の“剣士”を乗せて暗いビル街を抜けていく。
どんな事件が待ち構えていようとも、ルナは後悔するつもりなどない。
未知の領域へ踏み込むことこそ、彼女が探偵として歩む道だと思っているからだ。
最後まで読んでいただき、本当にありがとねぇ!
評価やブックマーク、レビューを頂くたびに、作者は嬉しさの余りロックダンスしてます。
マジです。
追記:ルナがカード叩きつけるこの回人気で笑ってしまう。