47.奇妙な導き――赤髪の眠り姫
毎週【月曜日・水曜日・金曜日】06:17に更新!
見逃さないようにブクマだけでもしてもらえたら!
作者は(。≖‿≖ฺ)ニタァってしてます。
嬉しいからね。仕方ないね。
・前回のあらすじ
ヘルメスはバイク筆記試験に挑むため、ヴィクターと急ぎでスポーツ用品店へ。
ロングコートを脱ぎ、新調した黒い運動服とインナーキャップに胸を躍らせる。
DMVの待合室では居眠り中の赤髪女性を起こしたら“ナンパ”呼ばわりされるハプニングも。
さて、鉄の馬への道は順調に開けるのか――。
連載形式で更新していく予定ですので、ぜひ最後までお付き合いください。
筆記試験を終えた俺は、合格の文字を確認して少し肩の力が抜けた。
「ふむ……こんなものか」
係員から事務的な説明を受ける。
待合スペースに戻ってみると、さっき見かけた赤髪の女の子が同じ椅子でうとうとしていた。
(試験、もう終わってるはずだよな……まだ居眠りしてるのか?)
見かねて声をかけるが反応はない。
仕方なく近寄って軽く肩を叩いた。
「おい、筆記終わったんだろ? ここで寝たら風邪ひくぞ」
すると彼女はゆるくまぶたを開き、か細い声で言葉をこぼす。
「……セクハラ……?」
「……ただでさえ社会的弱者だってのにおじさんを虐めないでくれ。ほら、立てるか? もう帰っていいはずだが」
苦笑いしながら見下ろすと、彼女はようやく意識を取り戻したようだ。
背筋を伸ばして小さく伸びをし、ゆっくり立ち上がる――が、今にも倒れそうなほどふらついている。
「……ああ、ありがとう。ごめん……眠くて……」
「見りゃ分かる。大丈夫か? 一応、筆記は合格したっぽいけど」
「ん……たぶん。通った……し」
声は淡々としていて、本当に眠りながら喋っているようにも見える。
そのまま書類を抱えたままDMV(免許センター)を出たが、外の風に当たっても彼女の眠気はまるで晴れないらしく、すぐに足元がよろけた。
「おい、平気か?」
「……ごめん、ちょっと……眠い……」
(こりゃ放っておけないな)
そう思い、鞄や紙袋を引き受けて彼女を支える。
なんとか建物の外には出たが、半分閉じかけた彼女の瞳を見て、周囲の目は少々気になるものの放っておくわけにはいかない。
「どこ行く? 送ってくよ」
「……ウィロー・クレス通り……三丁目……歩いて三十分くらい」
その言葉に、俺は思わず頭を抱える。
今にも寝落ちしそうな彼女が三十分も歩くのは無理がある。
ここで放置するのもさすがに気が咎めた。
「三十分って……厳しいだろ。しゃーない、背負うぞ。カバン貸せ」
「ん……悪い。ありがとう……」
申し訳なさそうに何度かまばたきをしながら、彼女がゆっくりと俺の体に寄りかかってきた。
その瞬間、ごく微かな魔力の残り香らしきものが鼻をかすめる。
だが《ゼロカオス》が自然にかき消したのか、次の瞬間には何も感じ取れなくなっていた。
(まずい…まさかこの子魔術師か? それかこの子を守るために誰かがかけていた術式か?)
しかも今のは何かの防護術だった可能性がある。
もし大切な目的で張られていたなら、俺が無自覚に台無しにしてしまったわけで、いささか気まずいが……もうどうしようもない。
(もし何かあったら、俺が守ればいい。それだけのことだ)
そう覚悟を決め、彼女を背負う。
赤髪が肩にかかり、ほんのりとした体温と重みがじんわりと背中にのしかかってきた。
「寝るなよ。落ちたら怪我するぞ」
「はぁい……」
彼女の力の抜けた返事に、思わず呆れ半分で苦笑が漏れる。
バイク免許をまだ完全に取り切っていないってのに、いきなりこんな世話を焼くとは思わなかった。
(仕方ない。まずは家まで届けるしかないか)
そう心の中でつぶやき、ウィロー・クレス通りへ向けて歩き始める。
昼の日差しがビルのガラスに反射してチカチカと眩しい。
背中では彼女が軽い寝息を立て始め、今にも夢の世界へ落ちそうなほど安らかな呼吸をしていた。
(いったい何でこんなに眠いんだ……。それより、俺が何か面倒なことに巻き込まれないといいんだが)
そんな疑問が頭の片隅をかすめるが、ここで放り出せるわけもない。
彼女の赤髪が肩口で揺れ、かすかな体温が伝わってくる。
少しずつ人通りの多い通りから外れると、周囲は次第に寂しくなっていった。
「あと三十分……結構遠いじゃねぇか。まぁ、やるしかないか」
やや自嘲気味につぶやき、一歩ずつ足を運ぶ。
筆記試験合格で少しは安堵できるかと思いきや、予想外の出来事が続いている。
こんな状態で本当にバイク免許を全部取りきれるのか――そう不安になるが、今は彼女を安全に送り届けるのが先決だ。
(バイク免許の道って、思ったより波乱含みだな。単に運が悪いだけか)
軽く苦笑しつつ、背中の寝息に気をつけながら歩を進める。
高いビルが並ぶ街並みはまぶしいほどに照りつけ、アスファルトの熱気が足元から立ち上ってきた。
しばらく経つと、背中の彼女が本格的に眠りに落ちたらしく、規則正しい寝息が耳に心地よい。
「……すぅ……すぅ……」
肩に垂れる赤髪と、温かな体温。
俺は苦笑交じりに、まだ遠いウィロー・クレス通りを目指して歩き続ける。
(おいおい、本気で寝ちまったな。まぁ、いいか……)
そう考えた瞬間、周囲の気配が急に薄れた。
ほんの少し前まで見えた人通りが一瞬で途絶え、車の音や足音すら遠のいていく。
(……なんだ、これ)
かすかな線香のような臭いに、わずかな魔力の痕跡を感じ取る。
人払いの暗示――一般人を遠ざける術式だろうと直感し、鼻で息を確認して確信する。
(結界じゃない。閉じ込めるんじゃなく、人を遠ざけてる感じか)
背中で彼女はぐっすり寝ている。
唇から落ちそうになった涎が首筋を伝うが、かまっていられない。
こんな状況で起こして騒ぎを大きくするより、俺が対処した方がいい。
(のんきに寝てるな……まあ、背負ってしまったんだから仕方ないか)
小さく息をついた矢先、視界の端に黒いローブがちらりと動く。
二、三人……いや、もう少し多いか。
人払いが効いた道に、ローブ姿がじわじわ集まってきた。
最初から妙な気配は感じていたが、騒ぐほどの脅威に思えず黙っていた。
しかし、今の様子を見る限り、連中は本気でこちらを狙っていそうだ。
「……お前、ビッグシスターの手下か?」
「は? なんの話だ」
男の短い問いかけに答えながら、背中の少女へ鋭い視線が向けられるのを感じる。
「その女を引き渡せ。……俺たちが回収する」
「できないと言ったら?」
ローブたちは懐から拷問器具のような得体の知れない道具を取り出し、包囲を狭めてくる。
だがその程度で後込みするわけにはいかない。
問題は、背負っている彼女が危険に巻き込まれないかということだ。
(まったく、こんな昼下がりに寝ている相手を攫う気か……)
先ほどから寝息が首元に伝わり、油断すると彼女を落としてしまいかねない。
戦うにしても、このままじゃ動きづらいが、仕方ない。
「おい、そういうときはもうちょい手段を選べよ。……でも待て、今起こすのはあんまりだろ?」
そう言いながら、俺は姿勢を低くし、彼女を慎重に下ろす。
身体がずれた瞬間、彼女は「ん……」と軽く鼻を鳴らしたが、すぐに息を吐いて再び深い眠りに落ちる。
カバンを枕代わりにし、壁際の安全そうな場所へ寝かせてから振り返った。
「お前……何を……?」
「この子寝不足みたいでな、せっかく爆睡出来てるんだ。こんなことで起こしたくはない」
そう言いつつ、俺は少女を壁際にかばうように立ち位置を取る。
相手がこちらを一斉攻撃してきても、少女にだけは手を出させまい。
(こいつら、どれほどの力なんだ? 俺が本気を出すまでもないとは思うが……油断はできないな)
ローブ連中の手には怪しげな道具。
いかにも乱暴なやり口を示す構えだ。
殺気がにじんでいるのは間違いない。
「……お前の頭ごとひっぺがしてやる」
「へぇ、怖いこと言うな」
俺は軽く肩を回して気配を探る。
昼の強い日差しがまぶしく、アスファルトの照り返しは容赦ないが、周囲の空気には逆に冷たいものが張りついている。
相手が呪術を使うのか、ただの威圧なのかは分からない。
(この子に怪我が及ぶのは勘弁だ。何とか早めにケリをつけるしかない)
わずかに足を動かし、相手の死角を作りながら彼女を背後へ隠す。
多勢に囲まれても、体勢を整えれば対処はできる。
短期決着で終わらせて、彼女をまた背負って出発しないといけない。
「……じゃあ、かかってこい」
かすかな笑みを浮かべつつ声を落とすと、ローブたちは一気に間合いを詰める。
恐怖を感じる暇もなく、俺の中で集中力が高まっていった。
背後には相変わらず安らかな寝息。
昼下がりの静寂は、人払いの術式によって完全に閉ざされ、誰もこの場を見てはいない。
言ってみれば最悪の条件だが、余計な目撃者を気にしなくて済むという点では悪くない。
(やれやれ、また面倒に巻き込まれたが……この程度なら何とかなる)
俺は太陽の下でローブの動きを見定め、微かに重心を落とす。
無理に時間をかけると彼女が危険にさらされるだけだ。
ここは一瞬の衝突で蹴散らすのがベストだろう。
(守ってやって、終わったらもう一度背負って帰るだけ――面倒だが、やるしかない)
そう胸中でつぶやくと、不思議と唇に笑みが浮かんだ。
振り返れば、昼寝中の赤髪少女が静かに息を吐いている。
俺は一度だけ目線をやり、静かに構えを取った。
最後まで読んでいただき、本当にありがとねぇ!
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