46.新たな『戦闘服』と謎の赤髪――DMVで交差する物語
見逃さないようにブクマだけでもしてもらえたら!
作者は(。≖‿≖ฺ)ニタァってしてます。
嬉しいからね。仕方ないね。
・前回のあらすじ
ヘルメス、馬の手綱を握る感覚でアクセルを踏み込んでしまい、初日からヴィクターを絶叫させる大失態。
それでも一週間の練習で、異世界剣士ならではの集中力を発揮し始める。
「すまん、馬と違って難しいな」と言いつつ、着実にドライビングスキルを身につけていく様子は、どこか微笑ましい。
さて、ヘルメスは無事に実技試験を突破できるのか――。
ヴィクターが昼までなら時間があるというので、今日はバイクの筆記試験を受けるためにDMVまで送ってもらうことになった。
もっとも、彼が付き合えるのは行きだけで、帰りは自力という形だが、それでもありがたい。
「ところでヘルメス、今のロングコート……バイクに乗るときはちょっと不便だよね。 角のこともあるし、実技には動きやすい服がいいと思うよ」
ルナからもらった大切なコートを見下ろして考える。
たしかに風を受ける乗り物には長すぎるかもしれない。
服装なんて大した問題ではない気もするが、やはり現代社会のルールと安全を考えると侮れない。
「なるほど。 今日は筆記試験だけだが、いずれ実技試験を受けるし、先に適した服を用意しておくのも悪くないな」
「うん。 ちょっとしたインナーキャップとかも必要でしょ、角があるし。 よし、スポーツ用品店に寄ろう。 終わったらDMVへ直行するから」
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ヴィクターが車をモールの駐車場に停めると、俺は大事なコートを脱いで、わずかな未練を抱きつつ後部座席の袋に収める。
ふわりと揺れるコートを見て、ふとルナの顔が脳裏に浮かぶが、今はバイクのための準備が先だ。
「悪いな。このコートしばらく車の中に置かせてくれ。 無茶な扱いはしたくないし」
「わかった。 じゃあ代わりの服、さっそく買いに行こうか」
店内に入り、大きな「ATHLE ARMOR」というロゴが掲げられたコーナーへ向かう。
黒を基調にしたジャケットやパンツが目立ち、どれも厚手ながら柔軟性が高そうだ。
さらに、角を隠す用のインナーキャップや、普段使いのニット帽のようなものも取り扱っているらしい。
「おお……この黒い上下、フード付きでなかなか軽そうだな」
胸元に“ARMA FIT”という文字が大きく入ったジャケットとテーパード調パンツを手に取る。
試着してみると、伸縮性があって動きやすく、生地の裏側も滑らかだ。
鏡に映った姿は思った以上に締まって見え、心が躍る。
「これ、なかなか気に入った。 もう今からこれを着ていくか」
「いいじゃん。 コートは車の中に置いてきたし、せっかくだから実技どころか筆記試験にも新鮮な気分で臨めるでしょ」
さらに帽子のコーナーで、**普段使い用の通気性のいいニット帽**と、バイクヘルメット用のインナーキャップを見つける。
まず、ニット帽に近いビーニーを頭に被ってみると、角が完全に隠れるわけではないが、表面的にはあまり目立たなくなる。
「これなら街中を歩くときも、そこまで視線を集めずに済むか?」
「そうだね。 メッシュ部分があるから蒸れにくいし、角をゆるく覆えるから“あれ、何かある?”程度で済むんじゃない?」
インナーキャップはさらに薄手で、ヘルメットの下に付ける想定だ。
ヘルメットに角が引っかかるのを軽減し、髪をまとめる効果も期待できる。
「これは完璧だ。 実技試験の貸し出しヘルメットはフリーサイズだって言うし、これで十分対応できるだろう」
「うん。 ただ、いずれ自分専用のヘルメットを買うときは内側を改造してもらわないとね。 角に合わせてクッションの形状を調整する必要があるはず」
納得しつつ、俺は運動服をそのまま着用し、新たに買った帽子2種類を袋に入れてレジへ進む。
この黒いジャケットとパンツの着心地が快適すぎて、早速気に入ってしまった。
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店を出ると、すでに昼を少し回っている。
ヴィクターが「時間ないから車内で軽食を」と急かし、テイクアウトをかじりながらDMVを目指す。
結果、予約時間ギリギリに建物前へ到着。
「ごめん、午後から業者が来るから……」
「わかった。 あとは一人で受けるだけさ。 感謝する、ヴィクター」
荷物を抱えてDMVへ入ると、受付を済ませ、待合スペースで呼ばれるのを待つ。
黒の運動服を着ているおかげで、身軽かつ気分が妙に高揚している。
(ふふ、バイクの筆記試験とはいえ、こういう身なりだと少しモチベーションが上がるな。 いずれ実技試験を受ける時も、この装いで挑んで合格してやる)
ふと視線を移すと、二つ隣に座る赤い髪の若い女性が、肩までのウェーブを揺らしながらうとうとしている。
眠そうというレベルを超えており、今にも落ちそうな勢いだ。
案の定、アナウンスが「K-37番の方、カウンターへどうぞ」と何度も繰り返しているが、彼女はいっこうに反応しない。
見かねた俺は椅子を立ち、そっと声をかける。
「すまん。 今呼ばれているのって君の番号じゃないか? 何度も繰り返されているようだが……」
彼女は目を開けずに低い声で呟く。
「……おじさん……ナンパ?」
その言葉に、俺は思わず苦笑いをこぼしながら頭をかく。
たしかに見た目の年齢からすれば“おじさん”と呼ばれても不思議じゃない。
だが善意で話しかけただけで、ナンパ扱いされるのはどうにもピンとこない。
世知辛い世の中だな……。
「ナンパではないさ。 今、呼ばれている番号が君のじゃないかと思ってな。 試験受けないと困るだろう?」
彼女はようやくうっすら目を開け、周囲を見渡す。
朦朧としたまま立ち上がり、眠気が抜けきらない声で応じる。
「……ああ、ありがとう。 ふぁ……眠い……」
「そんなに眠いのか? 大丈夫か……? とにかく急げよ、試験が始まるぞ」
彼女は欠伸をしながらフラフラとカウンターの方へ向かっていく。
どうにもマイペースな娘だが、試験を受けられないのは困るだろうし、これで一安心か。
俺は苦笑いを続けながら、その背中を見送る。
(“おじさん”か……。 まぁ、実年齢は三百を超えているから今さら気にもしないが、ナンパ扱いはちょっと戸惑うな)
ともあれ、明らかに眠そうな彼女の姿が頭に残るが、俺も自分の試験に集中しなければ。
いつ呼ばれてもおかしくない番号だし、バイク筆記試験で落ちるわけにはいかない。
(鉄の馬への道……せっかく運動服も揃えたし、負けられないな)
そう心の中で呟きながら、俺は再度椅子へ戻る。
仮免許にも角にも備えて万全のはずだ。
さっきの赤髪の女性がどんな人物かはわからないが、いまは筆記試験に意識を戻そう。
合格が第一だ。
最後まで読んでいただき、本当にありがとねぇ!
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