45.運転の戦場は道路にあり!――一週間の学習と『鉄の馬』への布石
見逃さないようにブクマだけでもしてもらえたら!
作者は(。≖‿≖ฺ)ニタァってしてます。
嬉しいからね。仕方ないね。
・前回のあらすじ
二日酔いのヴィクターを尻目に、ヘルメスは筆記試験をあっさり突破。
仮免許を手にした途端、車だけでなくバイク免許も狙うと宣言する。
ルナは依然入院中だが、ヘルメスの新たな挑戦はまだ始まったばかり――。
連載形式で更新していく予定ですので、ぜひ最後までお付き合いください。
ヴィクターに付き合ってもらいながら、俺は車の運転に慣れるべく一週間、少しずつ練習を重ねた。
どうにか仕事の合間を縫って指導してくれる彼には感謝するしかないが、最初は本当に手間をかけてしまったと思う。
ヴィクターは助手席に座り、まだ少し二日酔いの名残を引きずりながらも、顔をこわばらせている。
「じゃあ、まずはエンジンをかけて……ブレーキ踏んで……そうそう!」
「ふむ。これがアクセルか。意外と踏みごたえが……」
ブォン!
急にエンジン音が唸った瞬間、車がガクンと前進し、ヴィクターが「うわあっ!」と叫ぶ。
「ストップストップ! あぶないってば!」
「すまん……馬の手綱を引く感覚とは違うな。もう少し加減を考えよう」
足の裏から伝わる振動、車全体が震える様子は、剣や馬では経験したことのない種類のパワーだ。
(これが現代の機械の力か……魔法なしで動くとは、大したものだ)
そんなことをぼんやり考えていると、ヴィクターが「顔が悠長すぎる!」と呆れたように苦笑する。
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日を追うごとに、ヴィクターは「夕方の通勤時間に行ってみよう」とか「夜の暗い道にも慣れた方がいい」など、場所や時間帯を変えてくる。
夜戦の経験がある俺にとって視界そのものは問題ないが、ヴィクターいわく問題はそこではないらしい。
「対向車からすると、こっちが眩しすぎたり、逆に見えにくかったりするんだよ。夜目が利いても相手には関係ないからね」
「なるほど……敵にこちらの位置を把握させねば、不意打ちされるのも同然か」
「だから戦いじゃなくて、ライトやウインカーで安全を示すの。頼むよ……」
夜目さえ利けば万事OKだと思っていたが、そうでもないらしい。
相手がどう見るかを考えるのもこの世界の運転ルールなのだと、改めて痛感した。
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ある日の昼下がり、大きめのスーパーの端で駐車練習を始める。
初めてのバック駐車に挑むが、ハンドルの切り方がわからず何度も白線をはみ出す。
「もっとゆっくり……ハンドルを左へ……違う、切りすぎ! 戻して!」
「くっ、こんなに細かい操作が必要とは。馬を横に並べるほうがよほど簡単だ」
ハンドルを回しながら、白線の向こうを覗くたびに身体をひねるのは想像以上に骨が折れる。
(しかし、これもまた騎乗術の延長……そう思えば少しやる気が湧くか?)
何度も挑戦を繰り返し、なんとか無理矢理バック駐車を終えると、ヴィクターは疲れきった顔で「うん……まだまだ練習しよう」と低く呟いた。
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別の日には、信号が密集する通りで停止や発進を繰り返す練習。
赤信号では絶対に突っ込まないという当たり前のルールを、見事に守り損ねそうになったこともある。
「あっ、黄……どうしよう? いや、行くか?」
「やめてえええっ! 赤になるって! 止まって、止まって!」
急ブレーキでようやく止めると、ヴィクターはシートベルトを握って安堵の息を吐く。
俺もさすがに心臓がバクバクする。
(馬の突進のように勢いで行くのはご法度か。現代社会の方が厳しいな……)
戦場でも一瞬のミスが命取りになるのは同じだが、現代の道路では“事故”という形で即座に結果が出るから、慣れていない分だけ余計に怖い。
改めて意識を引き締めた。
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そんな紆余曲折を経て、一週間ほどの練習をこなしたころには、アクセルやブレーキ、ウインカー、車線変更などがまずまず形になってきた。
もちろんまだ完璧ではないが、ヴィクターも「初日の急発進を思えば大進歩だよ」と満足そうだ。
探偵事務所に戻ると、ヴィクターがDMVのサイトを開いてスケジュールを確認している。
車の実技は混んでいて、予約がだいぶ先になるらしい。
俺は少し落胆したが、彼は何かを見つけて声を上げた。
「あ、バイクの筆記なら来週の水曜日が空いてるみたい。車の実技より先に取れそうだよ」
「本当か? じゃあ早速予約しよう。鉄の馬への道は遠からず……!」
ヴィクターは苦笑いしながら画面をクリックし、あっさり予約完了画面が表示される。
(この世界の技術は本当に早い……魔法も顔負けだな)
俺は、わずか数秒で処理が終わる様子を見て、改めて現代文明に感心した。
「でも、車とバイク、両方並行して大丈夫? 操作感も違うし、バイクは危険度高いよ」
「問題ない。車の練習でルールは一通り学んだし、俺の身体能力なら何とかなるはず……。もちろん慎重には動くがな」
ヴィクターは呆れつつも「事故らないでね」と念を押す。
その言葉に、俺は剣を握るときのような真剣な表情で「心得た」と答えた。
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ふと夕暮れの事務所の窓際で外を見やったとき、ルナの顔が脳裏に浮かぶ。
あいつがここにいたら、きっと「無茶しないでよね」と呆れながらも心配してくれるだろう。
(でも驚くだろうな。車を乗りこなし、バイクで風を切る俺を見たら、どんな顔をするんだろう)
胸の中に、ちょっとした高揚感が生まれる。
ルナの退院まではまだ時間があるが、戻ってきたときには「車の剣士だけじゃなく、鉄の馬も乗りこなす剣士」として迎えてやろう――そんな思いが強くなっていく。
こうして、一週間の車練習を乗り越え、次の目標として来週の水曜日に「バイク筆記試験」を受けることを決めた。
車の実技はまだ先の予約だが、今のうちにできる練習を積み、バイク用の教本も読むつもりだ。
現代社会のルールを守りながら、異世界剣士の勘を活かして技術を磨く――これはこれで十分な“戦場”だろう。
「じゃあ、明日も短時間だけ車で走ろうか。仮免許とはいえ、まだ安定しない部分もあるし」
「ああ、頼む。実技試験を余裕で通るためにも、そしてバイクへの道を切り拓くためにもな」
俺はそう大言壮語しながら、ヴィクターと笑い合う。
ルナ不在の間でも、日々少しずつ前に進んでいる実感があるのが何よりのモチベーションだ。
(――よし、次はバイク用の知識でも叩き込んでおくか)
そんなことを思いながら、今日の練習の疲れを心地よい成果として受け止める。
数日前まで、アクセルとブレーキの扱いすら怪しかった。
けれど今、馬を操るのとは違う新たな感覚――いわゆる「ドライブ」の妙味を、ほんの少しだけ掴みかけている。
そしていつか、鉄の馬にまたがり、自由に街を駆ける日も遠くはないだろう。
最後まで読んでいただき、本当にありがとねぇ!
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