44.仮免許は通過点!――鉄の馬に焦がれる剣士の免許二刀流?
見逃さないようにブクマだけでもしてもらえたら!
作者は(。≖‿≖ฺ)ニタァってしてます。
嬉しいからね。仕方ないね。
・前回のあらすじ
ヘルメス、アメリカの運転免許を取りに、二日酔いのヴィクターを巻き込んで DMV の門をくぐる。
伝説の異世界剣士が視力検査を一瞬でクリアしたり、住民票代わりの謎書類を提出したりと、そもそもコレ大丈夫? と不安満載。
それでも「最近バトルが少ないから、せめて仮免試験は完璧に攻略してみせる!」と気合十分。
ルナが退院する頃には車をブン回す 剣士姿が拝めるかも。
こうして静かに盛り上がる筆記試験バトルの幕が、いよいよ上がるのだった。
連載形式で更新していく予定ですので、ぜひ最後までお付き合いください。
「K-24番の方、こちらのブースへどうぞ」
待合スペースに響くアナウンスを合図に、俺はブースの並ぶエリアへ足を進める。
二日酔いでダウン寸前のヴィクターは待合スペースで休んでいて、「終わったら呼んで」と言い残したまま、ぐったり椅子に沈みこんでいた。
ブースといっても仕切りのあるパソコン席がずらりと並んだだけで、周囲に何人かが座ってモニターを見つめている。
DMVの職員が「こちらの端末を使って筆記試験を受けてくださいね。制限時間は30分、途中で回答を修正できます。合格ラインは80%前後になります」と説明しつつ、椅子を指し示す。
「わかりました。……あとはここで全問正解すればいいわけだな」
「ええ、落ち着いて回答してくださいね。終わったら自動で結果が出ますので」
職員はそっけない事務口調で告げると、そのまま離れていった。
改めてモニターを覗き込むと、英語で「START」と大きく表示されている。
昨晩の問題集と同じような画面だが、本番というだけあって多少緊張感がある。
「……さて、どんな出題が待っている?」
心の中で息を整え、「START」をクリック。
途端に最初の問題が表示された。
――スクールゾーンの制限速度は何マイルか?
4つほどの選択肢があり、15mph、20mph、25mph、30mph……など書いてある。
(……これは昨晩も見た。確かスクールゾーンなら速度は20マイルが基本だとヴィクターが言っていたはず)
思い出しながら選択肢をクリック。次は道路標識の形状問題や、雨の日の安全距離など、想定どおりの内容が続く。
読み進めるほどに「こんなに単純でいいのか?」と思う問題もあれば、意外に細かい数字を問われるものもあって油断ならない。
(でも、昨夜の問題集でほぼ網羅した。剣技の理論に比べれば、これはいくらでも暗記できる……)
問題を次々回答していくうちに、しばらくすると“最後の設問”と表示される。
全問答え終わると、「試験を終了しますか?」という画面が出現。
心の中でひと呼吸置き、マウスをクリック。
「……これで終わりか?」
ディスプレイに“大きな合格マーク”の画面が表示され、“PASS”という文字が映し出される。
即座にホッと胸をなでおろす――この世界の技術は、結果が一瞬でわかるのがありがたい。
「へえ、あっさり合格か」
思わず口に出してしまうが、周囲の受験者は誰も興味を示さずに淡々と自分の試験を進めている。
隣のブースの中年男性は微妙に苦戦しているらしく、首をかしげながら画面を凝視していた。
そんな温度差を感じつつ、俺は退出ボタンを押して席を立つ。
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すぐ近くのカウンターへ行くと、先ほどの職員がモニターを確認し、合格点を視認して頷く。
「合格ですね。では一旦お名前とIDを確認して……はい、これで筆記試験はパスです。おめでとうございます」
そう言って彼女が差し出したのは、やはり味気ない事務的な笑顔だった。
俺は控えめに会釈すると、次のステップの説明をされる。
「こちらが仮免許(Learner’s Permit)になります。写真付きの正式カードは後日郵送される場合もありますが、州によっては当日発行する場合もあるので……今回は紙媒体の仮免許と、後日写真撮影です。仮免許期間中は必ず免許保持者の同乗が必要ですので、お気をつけください」
厚めの用紙を手渡され、俺はまじまじと眺めた。
ルナが準備してくれた身分証とも違う、まるで“通行証”のような外観をしている。
「これが……免許?」
「いえ、厳密にはまだ仮免許ですね。実技試験に合格したら、正式な運転免許証が発行されます。ご存じかもしれませんが、州によっては数週間の仮免許保持が必要なんですよ」
「そうか。つまり、俺はまだ一人で運転できないということか」
「そういうことになります」
職員は事務的な口調を崩さず、スタンプを押して書類をまとめ、椅子の向こうにいた別の受験者を呼び込んだ。
俺は紙の仮免許を手にして、待合スペースへ戻る。
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筆記試験を終えて、用紙と仮免許を手に戻ると、ヴィクターは椅子に沈み込んでいた。
肩を軽く叩くと、彼ははっと目を覚まし、目をしぱしぱさせながら顔を上げる。
「……おぉ、ヘルメス。結果は?」
「フフン、見ろ。これが仮免許というやつか?」
そう言いながら、俺は受け取ったばかりの紙を広げてみせる。控えめに言っても思った以上に簡単だったので、少し誇らしい気分だ。
「おお、すごいじゃないか。あれだけの試験をあっさりパスしてくるなんて、さすが異世界最強の……って、もう驚きが追いつかないよ」
ヴィクターはやや眠そうな目で、しかし嬉しそうに笑う。
二日酔いで頭が痛むはずなのに、俺が合格したのがよほど嬉しいのか、安堵のため息をついている。
「ハハ、俺にかかればこんなもの朝飯前だ。視力検査で職員を驚かせたしな」
「だよね……あの人、ほんと目を丸くしてた。遠視スキルでもあるのかと思われたかも」
「……ま、剣士には必要な能力だ。さて、これで俺は“仮免許保持者”だ。早速練習を始めて、実技試験を受けるのだろう?」
「うん。仮免許の間は僕か、ルナが復帰したら彼女か、いずれにしても免許保持者が助手席に乗らないとダメだからね。焦らず練習しよう」
ヴィクターが鼻をすすりながら助言する。
俺は鼻を鳴らしつつ、仮免許を丁寧に折り畳み、胸ポケットにしまい込んだ。
「ところで、俺は車だけじゃなくてバイクの免許も取りたい」
「……ん? バイク?」
唐突な発言に、ヴィクターが困惑気味に首をかしげる。
「そうだ。お前が言ってただろう。車の免許とは別に、バイク免許が必要だと。それにも挑戦したい」
「え、まぁ……確かにバイクは"Motorcycle Endorsement"っていって、また別の試験になるよ。このDMVでは車と同じく筆記と実技があって、MSFコースとか……って、どうしてまたバイク?」
ヴィクターが目をしぱしぱさせながら尋ねると、俺は少し得意げに胸を張る。
「鉄の馬、みたいでかっこいいだろ。騎馬のように跨がって走っていた姿を街で見かけたが、あれはまるで自由に駆ける馬と同じ。魂が躍るというか、魅力を感じる」
「鉄の馬……まぁ、君にとってはそう見えるのか。車とは違って風を浴びながら走るのもいいけど、バイクはリスクも高いし、保険とかも大変だよ」
「大丈夫だ。危険を避けては剣士とは言えん。まずは車の実技に合格したら、すぐにバイク免許も目指すつもりだ」
「はぁ……とりあえず仮免許で車の練習に集中して、それからにしようよ。焦りすぎると事故るよ、本当に」
ヴィクターがやれやれという表情で頭を振るが、その顔には苦笑まじりの優しさがにじむ。
ルナがいたら「免許を2つも取るなんて」と呆れそうだが、今は彼女が不在だからこそできる新しい挑戦でもある。
「よし、じゃあ改めて仮免許合格おめでとう。少なくとも車の練習は僕が付き合うからさ。ああ、頭痛いけど……早く帰ろうか。研究所にも業者が来るし」
「そうか。なら俺が代わりに運転を……って、仮免許じゃまだ一人で運転できないんだな。仕方ない」
「うん、そこは守ってよ。……それ以前に、君まだ車のハンドル握ったことほとんどないでしょ」
そんなやりとりをしながら、俺とヴィクターはDMVの敷地を後にした。
二日酔いの相棒、そして異世界剣士の俺――この凸凹コンビが今後どうやって実技試験を乗り越えていくか。
さらにその先には、ヘルメス憧れの「鉄の馬」免許への道が待ち受けている。
ちょっとした胸の高鳴りを感じつつ、俺は陽が差す駐車場を踏みしめ、次なる戦いへ向かう意気込みを内に燃やした。
最後まで読んでいただき、本当にありがとねぇ!
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