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43.異世界の剣士、DMVへ降り立つ――仮免取得への小さな戦場

毎週【月曜日・金曜日】に更新!

見逃さないようにブクマだけでもしてもらえたら!

作者は(。≖‿≖ฺ)ニタァってしてます。

嬉しいからね。仕方ないね。



・前回のあらすじ


ヘルメスは探偵事務所で運転免許の筆記試験に向け猛勉強中。

ルナは毒の影響でまだ入院中だが命に別状はなく、ヴィクターは二日酔いに苦しみながらもヘルメスを車でDMVへと向かう。

剣士だった彼がアメリカの免許取得を目指す、不思議で新鮮な挑戦がいよいよ始まる。

果たして結果はどうなるのか――。


連載形式で更新していく予定ですので、ぜひ最後までお付き合いください。

 DMVの建物は、噂どおり無機質で大味なコンクリート構造物だった。


 フロアに入ると、白い蛍光灯の下に受付カウンターが幾つも並び、壁際にはプラスチック製の椅子がずらりと並べられている。


 張り詰めた空気というより、イライラとした人々のため息がところどころで聞こえるような、独特の雰囲気だ。


「予約ありの列は……こっちかな。すぐ呼ばれるといいけど」


 ヴィクターがスマホを片手に案内板を見やる。

 二日酔いのせいで動きがぎこちない。


 しばし並んだあと、俺たちは受付カウンターへ呼ばれる。


「ようこそDMVへ。今日は予約ありですか?」


 受付カウンターに座る女性職員は事務的な口調で俺たちを見やる。


「はい、今日は筆記試験の予約が入ってます。名前は――ヘルメス・アークハイド(Hermes Archeid)で」


 ヴィクターが端末の画面を見せながら答えると、職員は素早くPCに打ち込み始めた。


「確認できました。では書類と身分証をお願いします」


 俺はルナが用意してくれた偽造身分証と必要書類を手渡す。

 偽物とはいえ、見た目は本物そのもの。


 ここで怪しまれたらどうしよう、という小さな不安を抱えつつ、俺は平静を装う。


(……大丈夫だ。ヴィクターが言うには完璧な書類らしい。焦るな)


 職員は無表情のまま書類をチェックすると、端末に向き直り、数秒の沈黙。


 ヴィクターが横でさりげなく「ちょっと緊張してて……」とフォローしてくれる。


「ああ、問題ありません。ではこちらにサインをお願いします」


 ホッと内心で息をつきながら、指定された場所にサインを書く。

 ルナとの練習で覚えた英字の筆記体は、剣を握るより繊細に手首を使う必要があって面倒だ。


「次に、視力検査を行います。あちらの機器を覗いてください」


 職員に促され、小さな視力検査の装置へ向かう。

 覗きこむとアルファベットのような文字がいくつも並び、小さく滲んで見える。


 とはいえ、俺の目はアストレリアで夜戦も闇討ちも当たり前にこなしてきた。

 一瞬で焦点を合わせ、すぐさま文字を認識する。


「……C、D、E、F、H、そして末尾は……K、L、Oですか」


 全部言い終わるか終わらないかのうちに、職員が驚いたように目を見開く。


「え、もう全部読めたんですか? そこはけっこう難しい行なんですが……」


「そうか? これでもわりと大きな文字だと思うが」


 俺が当然のように答えると、職員は少し首をひねりながら端末に合格を入力し、「合格です」と淡々と言い、スタンプを押した。


 そのまま「次は手数料を払ってください」と進めるが、明らかに少し戸惑っている様子が伝わってくる。


「す、すごいね……」


 後ろで見守っていたヴィクターが小声で吹き出す。


「これぐらい朝飯前だ。……昔、夜間の哨戒任務が日常だったからな」


 俺がさらっと答えると、職員が「えっ? 夜間…?」と何か聞き返しそうに、少し顔を上げる。

 それでも彼女は仕事柄か深く突っ込むことなく、「はい、合格ですね」と苦笑気味に返事をくれた。

 すると、横にいたヴィクターがすかさず乗り出すようにフォローを入れる。


「そうなんですよ。彼、前にちょっと軍関係の仕事してて。暗いところで視力を使う場面が多かったんです」


「あ、なるほど……」


 職員は微妙に納得しかけた表情で端末に合格を入力し、スタンプを押す。

 危うく“異世界の戦場”云々という余計な話をする羽目にならず、済んだようだ。


「次は手数料の支払いになります。合計で35ドルですね。現金かカードをお持ちでしょうか?」


 職員が事務的な口調を取り戻したところで、ヴィクターが財布から現金を取り出す。


「彼はカードを持ってなくて……現金でも大丈夫ですよね?」


「ええ、もちろん。こちらへお願いします」


 少しだけ緊張していた俺も、無事に視力検査をクリアした安堵からか、ほんのり肩の力が抜ける。


 目の前でヴィクターが紙幣を職員に手渡し、彼女は手早くレシートのような紙を印刷して渡してくれた。


「はい、35ドルちょうどですね。受付は以上になりますので、番号札を持って待合スペースにお進みください」


 職員が微笑みというよりは事務的な笑顔で返し、スタンプを押した用紙一式をこちらに手渡す。

 ヴィクターがそれを受け取り、俺に視線を寄越す。


「やれやれ……書類や検査はスムーズだったけど、もう少ししたら筆記試験の順番だね」


「まずはここまで終わってよかった。あとは合格して、仮免許を手に入れるだけか」


 そう呟き、俺はレシートと書類一式を丁寧に確認する。異世界の硬貨とはまるで違うが、こうして支払いが円滑に進んだのもありがたい。

 残るは筆記試験——いよいよ現代アメリカの交通ルールを試される時だ。


  ---


 受付と視力検査を無事に済ませると、今度は待合スペースへ移動する。


 プラスチック製の椅子が規則正しく並び、上部の電光掲示板には「Now Serving: K-14」と表示されていた。

 アナウンスが英語で流れ、「K-15番の方、カウンターへどうぞ」とやや機械的な女性の声が響く。


「意外とスムーズだね。呼ばれるまで、ここで待てばいいんだよ」


 ヴィクターが疲れた様子で椅子に腰を下ろす。

 彼の言うとおり、番号は順調に進みそうな気配だ。

 実際、電光掲示板には次々と“K-16”、“K-17”……と表示が変わっている。


(このままだと、思ったほど時間がかからず終わりそうだな)


 そう考えながら周囲を見回すと、若者から年配の人までバラバラに座っており、中には居眠りしかけている者もいる。


 誰もが自分の番号が呼ばれるのをじっと待っているようだ。長い待ち時間への苛立ちが、ときおりため息という形で漏れ出している。


「昨晩あれほど呑んだのに付き合ってくれて助かった。大丈夫か?」


 俺はヴィクターの顔色を気にしながら問う。


「少しはマシになったけど、頭痛が……。まぁ、君の視力検査が一瞬で終わったの見て、逆に目が覚めたよ」


 そう言いながらヴィクターは苦笑を浮かべ、また大きくあくびをかみ殺した。


 周囲を見回すと、若者から年配の人までバラバラに座っていて、中には居眠りしかけている人もいる。


 誰もが自分の番号が呼ばれるのをじっと待っているようだ。

 長い待ち時間への苛立ちが、ときおりため息という形で漏れ出している。


「筆記試験の順番が来たら、あちらでコンピューターを使って回答するらしい。すぐに始められるのか? それとも、もう少し待たされるのか?」


「うーん、どうかな。あと10分か30分か、運次第だと思う」


 ヴィクターは掲示板に映し出される番号を眺め、再び欠伸を噛み殺す。


「もし呼ばれる前に飲み物とか欲しいなら、売店で買ってくるけど」


「いや、そろそろ呼ばれそうな気もする。アナウンスの番号が加速してるように見えるが……」


 その言葉どおり、電光掲示板の番号が順調に進んでいく。


 やがて――


「K-24番の方、カウンターへどうぞ――K-24番、カウンターへお願いします」


 静かな待合スペースにアナウンスが響く。掲示板を見やると、そこには“K-24”の文字。


「おお、早いな」


 俺は立ち上がりながら呟くと、ヴィクターに目を向ける。


「僕は大丈夫だから先に行ってきて。ああ……売店は後回しだね」


 ヴィクターの冗談めかした苦笑いを背中に受けながら、俺は筆記試験を受けるべく指定のカウンターへ足を進めた。


 待合スペースに残された様々な人々や、DMVの独特の空気感を一瞬だけ振り返り、また視線を前へ戻す。


(――よし。まずは筆記試験をパスして、仮免許を手に入れる。それから実技だな)


 そんな心の声を噛みしめながら、俺は“新しい戦場”へと向かう。

 異世界では見たことのない交通ルールの問題が、俺を待ち受けているはずだ。


 だが、剣士たる者、果敢に立ち向かわねば。


「さあ、来い。“DMVの筆記試験”――お前の難しさなど、俺が見定めてやる」


 そう軽く気合を入れつつ、意気込みだけは妙に高まっていた。

最後まで読んでいただき、本当にありがとねぇ!

評価やブックマーク、レビューをよろしくお願いしますぅ!!


やる気、出るんでね!



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