41.異世界人――DMVへ行く準備をする
毎週【月曜日・金曜日】06:17に更新!
見逃さないようにブクマだけでもしてもらえたら!
作者は(。≖‿≖ฺ)ニタァってしてます。
嬉しいからね。仕方ないね。
・前回のあらすじ
ヘルメス、まさかの免許取得宣言!?
ルナが入院中の今こそと意気込むも、異世界の死神剣士がハンドル握るとかもう想像がカオスすぎ! ここんなバタバタの最中、車デビューなんてうまくいくのか?
笑いと戸惑いが渦巻く探偵事務所の夜は、なんだかすでにクライマックスの予感…?
連載形式で更新していく予定ですので、ぜひ最後までお付き合いください。
「よーし、ちょっと待ってね!」
そう言うや否や、ヴィクターは持ってきた酒とおつまみをテーブルに置くと、愛用のノートパソコンを素早く開いた。
パチパチと高速でキーを叩き、画面をスクロールさせる。
「ほら! DMV(免許センター)の公式サイト! ちゃんと調べてあげるから!」
俺は腕を組み、画面を覗き込む。
「ヘルメスが免許を取るには、まず筆記試験に合格して、そのあと実技試験を受ける必要があるよ!」
「ふむ……まずは筆記試験か」
「そう! DMVに行って申請すると、その場で試験を受けられるんだ。州によって違うけど、たいてい30~50問の選択問題が出題されるよ。『制限速度』『信号のルール』『駐車』『優先道路』『危険回避』とかがメインで、合格ラインは80%くらいかな」
ヴィクターが画面をスクロールしながら説明してくれる。
「簡単そうだな」
「まぁ、普通に勉強すればそんなに難しくはないよ。試験は英語だけど、スペイン語や他の言語でも受けられる州もあるし、コンピューターで受けるからそこは安心かな」
「なるほどな。コンピューターの使い方もある程度は覚えている。大丈夫だ」
「ヘルメスならカンで正解しそうだけどね」
ヴィクターが冗談めかして笑うが、実際に問題をいくつか試してみたら「どの選択肢も間違いではないが最も適切なのはどれか?」というようなものが多く、適当にやっても結構当たりそうだ。
「で、筆記試験に合格すると、その場で仮免許(Learner’s Permit)が発行されるんだ。ただし、これがややこしくてね……」
「ふむ?」
「仮免許の間は、監督者(正式な免許保持者)が助手席にいないと運転できないんだ」
「つまり、お前が同乗すればいいんだな?」
「まぁ、僕かルナか……いや、ルナは乗らないだろうな」
「嫌がりそうだな……」
すでに俺の頭の中には、「監督者」役をどうするかという思考が巡り始めていた。
「で、一定期間が過ぎたら、実技試験(Road Test)を受けることができる。試験官が助手席に座って、駐車、右折・左折、信号、速度調整、縦列駐車とかをチェックするんだ」
俺は頷きながら問題集をめくる。
「……あ、そうだ! 飲酒運転はダメだよ、ヘルメス!」
「わかってるさ」
俺は軽く頷いた。
「この世界では何よりもルールを守ることが大切だからな」
「まぁ、それよりせっかくだし、飲むか」
「賛成!」
酒を注ぎながら、ヴィクターのテンションが爆上がりする。
グラスを手に取るなり、俺を見つめて期待に満ちた瞳を向けてきた。
「ねぇ、ヘルメス、異世界の話聞かせてよ! どんな世界なの!? 剣と魔法の国!? えっ、ドラゴンとかもいるの?」
すっかり興味津々といった様子で目を輝かせている。
普段は落ち着いた研究者らしい雰囲気なのに、こういうときは子供みたいだな。
「……」
俺はグラスを傾け、苦笑する。
確かに異世界の話をするのも悪くはないが、せっかくならもっと驚かせてやるのも悪くない。
俺はゆっくりと立ち上がり、ヴィクターの目の前で髪の毛をかき上げた。
「……それより見せたいものがある」
そう言って、角を出す。
一瞬の沈黙――。
「角だ!!」
ヴィクターの顔が、一瞬で少年のように輝く。
目をまん丸くし、指を差しながら全力でテンションを爆発させた。
「角だぁぁぁぁぁ!!?? すごい!! 触っていい!? っていうかこれ本物!? ど、どうなってんの!?」
もう、完全に理性が吹き飛んだかのような大興奮。
さっきまでDMVや免許の手続きを得意げに説明していた“研究者モード”はどこへやら、今やすっかり「未知との遭遇を果たした科学者」の顔だ。
「おい、落ち着け」
「いや無理無理無理!! こんなの見せられて冷静でいられるわけないでしょ!? 異世界の剣士が車の免許を取るどころか角まで生やしてたなんて!!!」
「……まあ、珍しいものではあるかもな」
「珍しいどころじゃないよ!! すごいよ!! やばいよ!! これって触ったらどうなるの!? 痛いの!? それとも感覚ないの!? もしかして切れる!? いやまさか伸び縮みする!?」
ヴィクターが完全に暴走モードに入る。
まるで長年追い求めた未知の研究対象を目の当たりにしたかのように目を輝かせながら、バタバタと手を振っている。
俺はそんな彼をじっと見下ろしながら酒を一口飲む。
「……まあ、好きにしろ」
「マジで!?」
ヴィクターが両手をわくわくさせながら角へと手を伸ばしてくる――。
……そこからが長かった。
触らせたのが運の尽きだったのか、ヴィクターは完全に研究者モードに突入し、あれこれと角を弄り回す羽目になった。
「おお、思ったより硬い! いや、でも根元はちょっと弾力がある? なんだこれ、すごいな! もしかしてカルシウムの塊? それともファンタジーだし魔力で形成されてる?」
「……飲むなら静かに飲め」
「いやいや、こんな凄いもの目の前にして落ち着いてられるかっての! これ、戦う時に何か効果があるの? もしかして魔法が増幅される? え、ちょっと待って、もしかして生やしたり引っ込めたりできる!?」
「本来はそういうものだが、俺にとってはそんな都合のいいものじゃない」
「そっかー! でもすごいなあ。これはすごいなあ……! ルナはこれを初めて見た時どんな反応したの?」
「……鼻血を出して気絶した」
さらっとそう答えると、ヴィクターの手が一瞬止まり、ぽかんと口を開ける。
「えっ、マジで?」
「いや、冗談だ」
「くそぉ! マジかと思った!」
ヴィクターが本気で信じそうな顔をしたので、さすがに訂正しておいた。
「くそぉ……でも本当にびっくりしたんだろうなぁ……いや、でも鼻血はないか。うん……いや、でもルナならあり得るか……?」
ヴィクターが悩み始めたが、放っておくことにした。
その後も、角の硬度や感触、感覚があるのかどうかなど、さんざん調べ回され、ようやく満足したらしい。
そして、ようやく酒に戻る。
「いやぁ、異世界の剣士が車の免許取るだけでも面白いのに、角まであるとはなぁ……これはもう、ヘルメスの人生、エンタメすぎるよね」
「そんなに珍しいか?」
「珍しいどころか唯一無二だよ! こんな生きた研究材料が目の前にあるんだから、正直一晩中でも質問攻めにしたいくらいだよ」
「……おい、まさかまだ続くのか?」
「そりゃもちろん! だって異世界の話、全然聞いてないもん! これから酒も入るんだし、酔った勢いでバンバン聞くよ!」
そう言うや否や、ヴィクターは勢いよく酒を注ぎ、俺のグラスにも注いできた。
もはや聞く気満々だった。
仕方ない――今夜は長くなりそうだ。
最後まで読んでいただき、本当にありがとねぇ!
評価やブックマーク、レビューをよろしくお願いします!!
やる気、出るんでね!