36.揺れる夜――固めた覚悟
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見逃さないようにブクマだけでもしてもらえたら!
作者は(。≖‿≖ฺ)ニタァってしてます。
嬉しいからね。仕方ないね。
・前回のあらすじ
取調室で突如「俺は異世界から来た」とカミングアウトする剣士ヘルメス。
警察のグラント刑事も頭を抱えるしかない。
ところが意外にもヘルメスは超真面目で、「ルナと世界を守るため、謎のカルトと戦うんだ!」とヤル気満々。
「仕方ねぇ、付き合うか」と渋々呑み込むグラント刑事。
異世界剣士×現代刑事の凸凹タッグ、果たしてどうなる!?
取調室を出てしばらく、警察署の奥まった通路を進んでいくと、外の冷えた空気が少しずつ感じられるようになってきた。
夜明け前とはいえ、この世界の夜はまだ深く、廊下の窓から見える空は鈍い灰色のままだ。
俺の横を歩くグラントは、ポケットから携帯端末を取り出して何かを確認している。
恐らく病院側から新たな連絡でも入ったのだろう。
ルナのことが気になって仕方ないが、俺と同じかそれ以上に、彼も気がかりでいるように見えた。
けれど、捜査官らしい落ち着いた足取りは崩さない。
「悪いな、ヘルメス。長いこと拘束しちまったが……ルナの容体が気になってただろ?」
グラントが申し訳なさそうに切り出す。
とはいえ、取調の必要があったのは百も承知だ。
俺はかすかに首を横に振った。
「構わないさ。俺も話さなければならないことがあったし、あれは必要な事だっただろ? ただ……やはりルナのことが心配でな」
あの研究所での襲撃、そして魔力の毒に倒れたルナ。
何とか応急処置は施せたが、根本的な治療がいるのは言うまでもない。
搬送されてからしばらく経つが、いまどうしているだろうか。
夜通しの事情聴取を受けながらも、その疑問が胸の奥をずっとチクリと刺していた。
グラントは小さく笑みを零し、携帯端末を握ったまま軽く振ってみせる。
「心配いらんさ。俺の妹のアーディアが駆けつけてるからな。あいつは腕も立つ。なんだかんだ言って、ルナを『妹みたいに』可愛がってるんだよ。店のほうも放って飛び出してったらしいが、そんなこと気にしないくらいには、ルナを放っておけないってわけさ」
「妹さん、か……。血の繋がった家族がいるのはいいものだな」
俺がそう呟くと、グラントは「お前だって仲間がいるだろ」とばかりに片眉を上げる。
それはまるで、“お前にも家族のような存在が出来たんじゃないか”と暗に言われているようで、思わず言葉に詰まった。
もっとも、彼の“妹”というアーディアはルナを“妹みたいに”可愛がっているらしい。
詳しくは分からないが、ルナとは昔からの縁があるようだ。
仲間というより、まさに姉妹のような距離感なのだろう。
「それにしても、ルナをそんなふうに守ってくれる存在がいるなら、ひとまず安心だ。……いや、やっぱり安心しきれないな。病院でどうしているか分からないし、俺としては早く顔を見てやりたい」
自嘲気味にそう言うと、グラントは肩をすくめる。
「お前、いつの間にそこまで情が移ったんだ? まあ、あいつには不思議な魅力があるからな……俺もずいぶん苦労させられてるが、放っておけないってのも正直なところだ。気づけば周りが手を貸している――そんな女だ」
俺がこの世界へ来たばかりで、何もかも勝手が分からなかった頃、ルナは現代の生活をイチから教えてくれた。
金の使い方や大都会の歩き方――正直、お節介に思う瞬間もあったが、おかげで俺はどうにか生きていける基盤を得たんだ。
まだ短い付き合いだというのに、彼女のために動くのが“当然”に思えてしまうほど、俺は大きな恩を感じている。
あの研究所で倒れたルナを目にしたときの胸の痛みが、それをはっきり物語っていた。
「ま、俺としてはありがたいよ。お前がいてくれれば、ルナが少しは無茶を控えるかもしれないからな」
グラントがからかうように言う。
俺は苦笑しつつ、その奥にある信頼の色を感じ取った。
ルナを慕う存在がまた一人増えた――そんなふうに納得しているのだろうか。
「……それでも、あいつは勝手に動くさ。きっとまた危ない場所に飛び込んでいくだろうよ」
「だろうな。まあ、いい。とりあえず車を用意してあるから、病院まで送ってやる。夜が明ける前に着くだろうし、顔を見に行くくらい時間はある」
その言葉を聞いて、少しだけ心の重みが和らぐ気がした。
ルナが倒れてから、まともに経過を見られていないのが何より落ち着かなかったのだ。
「助かる…悪いな、グラント」
俺がそう応じると、グラントは無言でうなずいた。
廊下を抜けて警察署のロビーへ足を踏み出すと、深夜の冷え込んだ空気が肌を刺す。
人気のないフロアは照明も落とされ気味で、どこか薄暗さが際立っている。
その片隅に目をやると、ヴィクターがぽつりと腰を下ろしていた。
床に立てかけて支えているのは、俺の双剣を収めたアタッシュケース。
抱えるだけでも一苦労だったのだろう、彼の顔にはかなりの疲労がにじんでいる。
ヴィクターが俺を見つけて、はっとしたように微笑みを返す。
その姿に、何も言わずとも「お前もルナを心配してるのか」と胸に温かいものが満ちる。
事件が一区切りついたとは到底言えないが、ここにいる仲間たちとならきっとこの先の困難にも立ち向かえるはずだ――
俺はそう確信しながら、黙って彼のもとに歩を進めるのだった。
次回は月曜日!
最後まで読んでいただき、本当にありがとねぇ!
評価やブックマーク、レビューを頂くたびに、作者は嬉しさの余りステップしてます。
マジです。
まぁ、そんな評価もらったらずっと踊り続ける事になるな。




