31.駆けつける死神――迫る魔毒と救命の刻
毎週【月曜日・水曜日・金曜日】07:10に更新!
見逃さないようにブクマだけでもしてもらえたら!
作者は(。≖‿≖ฺ)ニタァってしてます。
嬉しいからね。仕方ないね。
・前回のあらすじ
ヴィクターは魔法由来のヤバい毒に冒されたルナを必死で救護中。
科学の最先端研究施設だったはずが、今や崩壊寸前の廃墟状態。
外ではヘルメスが激突真っ最中でドッタンバッタン大騒ぎなのに、研究者のヴィクターは「医療マニュアル」に頼るしかないという超アナログ展開!
刻々と増える毒痣に、汗だくで点滴&冷却処置するが、果たして魔法毒に科学が通じるのか…!?
「ヘルメスさん、早く戻ってきて!」と心の中で叫びつつ、ヴィクターは意識朦朧のルナを必死に看病。
緊張感MAX、命のタイムリミットが迫るこの場面、はたして奇跡の解毒はあるのか?
運命の歯車はまだ止まらない!
連載形式で更新していく予定ですので、ぜひ最後までお付き合いください。
点滴の滴る音が耳に届いたのは、廃墟と化した研究所の奥深くを進んだときだった。
崩れ落ちかけの壁や床を抜けて、煙が漂う通路を進むうち、赤い非常灯の明滅が血のように壁を染めているのが見えた。
空気には焦げくさい臭いが混じっていて、どこかで爆発が起きた痕跡を感じる。
そこに、見慣れた二人の姿があった。
ヴィクターがルナを抱くようにして座り込み、彼女に点滴を施しているようだ。
彼自身も顔をしかめていて、頭を強く打ったのだろうか。
苦しそうに息をついているのがわかる。
しかし、まずはルナの無事が最優先だった。
彼女の顔は青白く、首筋にうっすらと赤黒い痣のようなものが見える。
吸い込まれるように歩み寄り、ひざまずいて彼女の状態を確認する。
「ヘルメスさん!」
ヴィクターがこちらに気づき、手を振って呼びかけてきた。
あたりを素早く確認するが、敵の気配は――今のところ感じられない。
先ほどの戦いで何とか撃退したが、油断はできない。
それでも急いでルナの様子を見ようと、彼女の首筋にそっと手を近づけた。
「ヴィクター……ルナの具合は?」
「毒を負わされてるみたいだ。首筋の傷から熱が上がって……点滴で延命してるけど、いつどうなるか分からない。戦ってた敵は……?」
「ひとまず撃退した。まだ残党がいるかもしれないが、今はこっちが優先だ」
そう言うと、ルナの首筋に触れ、俺自身の力で魔法毒の痕跡を探る。
不幸中の幸いか、体内への侵食は致命的な段階には至っていないらしい。
ゼロカオスの力は“魔法”を無効化する。
毒が魔術由来ならば、それを打ち消すことができるかもしれない。
ゆっくりと念を込めるようにして、ルナの首筋にこびりついた赤黒い痣を探り、そっとかき消していく。
表面上の色が薄れ、彼女の呼吸もわずかに落ち着きを取り戻すのが分かった。
「……よかった……間に合ったみたいだね…...」
ヴィクターが安堵の吐息を漏らすが、俺の表情はまだ険しいままだ。
魔法毒の“効果”そのものは消せても、身体に負ったダメージまで完全には治癒できない。
ルナの顔色は依然として良くないし、医療のケアが必要だ。
「だが危険は去ってない。俺の力で魔法毒は消せても、身体への負荷は残る。早く病院に運んだほうがいい。救急が来るまで、なんとか気を保たせるんだ」
「わかった。僕が救急の手配をする!」
ヴィクターがそう言って端末を握りしめ、廊下の奥へ走り出す。
破損したコンクリートの壁には亀裂が走っていて、これ以上崩れなければいいが……。
俺はルナの肩をそっと支え、彼女の様子を見守る。
呼吸は浅いが、先ほどよりは落ち着いている。
煙と排気ガスのようなにおいが混じった空気が、まだ熱を帯びている。
サイレンの音が遠くから微かに聞こえてくるが、この深い区画まで来るには相当時間がかかるはずだ。
それまで俺がルナを守り抜かないといけない。
ふと、遠くでかすかな衝撃音が再び響く。
敵が完全に撤退していない可能性も否定できない。
(……まだ安心はできないな)
先ほどのセシリアとの戦闘の影響で、わずかな疲労が身体の動きを鈍らせている。
それでもルナを置いては動けない。
万が一敵が襲ってきたとき、ルナを守るのは俺の役目だ。
「ルナ……もう少し耐えてくれ。救急車が来るまで……」
俺はかすかに動くルナの指先を見つめながら、低く声をかける。
かつて“死神”と呼ばれた身ではあるが、目の前の仲間を救えないのなら何の意味もない。
ルナが苦しげにかすれた息を吐き、その合間にかすかな声が漏れた――何と言ったかは聞き取れなかったが、“ありがとう”の響きに近いものを感じた。
(大丈夫だ。ヴィクターも居る。絶対に助かる)
瓦礫の散らばる床にべったりと座り込み、ルナの体を優しく支えながら、いつ襲ってくるか分からない残党の気配に神経を研ぎ澄ます。
点滴の滴る音が、静かな通路にリズムを刻んでいた。
赤い非常灯がいまだ混沌とした空間を染めるなか、俺はルナの命を繋ぎとめるために、ただひたすら待ち続ける。
最後まで読んでいただき、本当にありがとねぇ!
評価やブックマーク、レビューを頂くたびに、作者は嬉しさの余り郡上おどりしてます。
そろそろハーグレイブ研究所編も終わりを迎えますね……




