30.廃墟と化した研究所──“魔法毒”に挑む科学の一手
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見逃さないようにブクマだけでもしてもらえたら!
作者は(。≖‿≖ฺ)ニタァってしてます。
嬉しいからね。仕方ないね。
・前回のあらすじ
ヘルメス、もうちょいでセシリアを捕まえられそうだったのに、最後は「毒入ってますよ?」の脅迫に屈して大ピンチ。
あの娘は母の復讐とか言いつつさっさと撤収して闇へ逃亡!
一方、ルナはヤバい毒で倒れてるかも…?
導師って誰よ!? セシリアは本当に母の仇を討ちたいだけなのか!?
色々謎を引きずったまま、誰が救急処置するか大騒動が待ち受けるかも?
大混乱フルスロットルな展開、まだまだ続く!
連載形式で更新していく予定ですので、ぜひ最後までお付き合いください。
鋭い頭痛がこめかみを突き刺した。
ヴィクター・ハーグレイブは思わず額を押さえ、うなだれていた顔をゆっくりと上げる。
すると、床には粉塵や割れた試験管が散乱しており、赤い警報ランプの明滅が視界を痛いほど刺激していた。
ここはヴィクターの研究所——理論物理や量子力学の最先端を行くはずの場所。
ところが今や外からの襲撃を受けて廃墟同然になり、壁には大きな亀裂が走り、天井からは細かな破片が降ってきている。
(いったい、どうしてこんなことに……ヘルメスさんは外で戦っているんだろうか? ルナは——)
頭を振って意識をはっきりさせようとしたとき、ごく近くで倒れ込んでいる銀髪の女性が視界に映った。
ルナ・フォスター。
かすかにうめき声を上げる彼女の首筋には、赤黒い変色を伴う切り傷があり、そこが熱を帯びている。
どう見ても普通の切り傷ではなく、見慣れない毒のような痣が広がっているのが一目でわかる。
「ルナ、聞こえる? 俺だ……ヴィクターだよ!」
ヴィクターは彼女の肩を支えて声をかけるが、ルナは苦しげに息を荒らすばかりで返事もままならない。
その頬には火照りがあり、意識も朦朧としているようだ。
毒に侵されている可能性が高い。
しかも、それがただの化学毒ではない予感をヴィクターは感じ取っていた。
(あれだけ非常識な力を振るう相手とヘルメスさんが戦ってるんだ。魔術由来の毒だってありえる……)
舌打ちを噛み殺したヴィクターは、ぐちゃぐちゃに崩れた棚のあたりを必死に見回す。
非常事態に備えて救急セットは常備していたはずだ。
ほどなく見つけた医療ボックスを手繰り寄せ、中にある点滴セットや消毒液を確認する。
解毒剤などはないが、何もしないよりはずっとマシだろう。
「くそ……大丈夫、ルナ。なんとかする。今は時間を稼ぐしかない!」
胸の奥で心臓が騒ぐように脈打つのを感じながら、ヴィクターは彼女の腕に注射針を刺し、血行をコントロールするための点滴を準備する。
研究者とはいえ最低限の救急手技は心得ており、彼女の首筋を消毒し、冷却用のタオルを当ててやる。
ルナの呼吸は浅く、唇がわずかに震えていた。
(魔法由来の毒なら、科学的手法が効くかはわからない。でも、やるしかないんだ!)
自分に言い聞かせるように奮い立たせ、まるで歯車が噛み合わないような焦燥を振り払うかのように手を動かす。
点滴を安定させ、流量を微調整しながら、ルナの状態を注視する。
彼女は痛みに耐えながらも意識を失いかけているようで、胸が締めつけられる思いがする。
「大丈夫、必ず助けるから……! ヘルメスさんが戻るまで、僕が守る」
そう告げた矢先、遠くで床を揺るがすような衝撃音が鳴り響いた。
試験管の破片がからん……と音を立てて転がり、警報ランプの赤い光がさざ波のように室内を染める。
外ではヘルメスさんが敵と激突しているのだろう。
コンクリートを砕くほどの振動が足元に伝わってくる。
どちらにせよヘルメスの戦闘で出来る事はヴィクターにはない。
ならば、ルナの命を最優先に考えねばならない。
「……っ、ルナ、頑張って。息を合わせて、深呼吸……そう、少しでも意識を保って」
ルナの手を握りしめながら、点滴パックをしきりに確認する。
毒の回りを抑えるため、血流をコントロールして彼女の体温を下げすぎないよう気を配る。
だが、その首筋には赤黒い毒痣がじわじわと広がり、彼女のうわごとのような声が周囲にこだまする。
(ヘルメスさん、早く……! だけど、僕だってやれるだけやらないと)
激しい頭痛をこらえながら、ヴィクターは再度ルナの首元を確認した。
悪化の速度は速そうだが、まだ血圧は致命的に下がってはいない。
するとまた大きな衝撃が遠くで起こり、壁の亀裂が嫌な音を立てる。
いつ崩落してもおかしくない状態だが、点滴を外して移動すればルナの危険が増すだけだ。
(絶対に死なせるわけにはいかない!)
そう心に誓い、ヴィクターは彼女に話しかけ続ける。
ほんの少しでもここに意識を繋ぎ止め、眠りに落ちるのを防ぎたい。
彼女が意識を失えば、毒に蝕まれるスピードが増すかもしれないからだ。
その間にも点滴からの液がじわじわと血管へ注がれ、体温を下げすぎないよう微調整が続く。
「もし毒が魔法的なものだとしても、血液中に溶け込んだ成分なら科学的アプローチで緩和できる……はず」
自らを鼓舞するようにつぶやき、決して諦めまいとする科学者としての責務を思い出す。
「少しでも意識を保って……ルナ、無理しないで、でも諦めないで。必ず助かる」
彼女の額から汗を拭い、もう一度首筋の具合を確かめる。
痛々しい傷口からは血がにじんでいるが、どうにか悪化のスピードが少しだけ落ち着いているようにも見える。
床を震わせる衝撃はやまず、遠くで金属が砕ける音が轟く。
けれど、ヴィクターの役目はここを踏ん張ることだ。
ヘルメスが勝利して戻るまで、ルナを生かしておかねばならない。
(絶対に間に合う。間に合わせる……!)
大きく深呼吸し、自分の鼓動を落ち着かせる。
たとえ未知の魔法毒でも、やるだけのことはやらなくては。後悔だけはしたくない。
そう強く決意し、ヴィクターは再びルナの手をぎゅっと握り締める。
震える彼女の身体から、少しでも熱が引いてくれるようにと、祈るような気持ちで——。
最後まで読んでいただき、本当にありがとねぇ!
評価やブックマーク、レビューを頂くたびに、作者は嬉しさの余りYOSAKOIソーラン節してます。
ヴィクター君は有能なんだよ!




