3.墜ちた剣士と銀の射手――廃塔で交わる刹那の盟約
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見逃さないようにブクマだけでもしてもらえたら!
作者は(。≖‿≖ฺ)ニタァってしてます。
嬉しいからね。仕方ないね。
・前回のあらすじ
突如見知らぬ夜空の下に投げ出され、未知の街へ降り立った“剣士”は、落下の衝撃を剣で耐えながら謎の建物へ侵入する。
そこで出会ったのは、後退を装いつつも冷静に状況を見極める銀髪の女性と、銃を構えた複数の男たち。
さらに奥には、生贄にされかけた女が儀式台に囚われていた。
男たちに囲まれ絶体絶命と思いきや、銀髪の女性が合図を送り、剣士と同時に反撃を開始する。
果たして二人は生贄を救い出せるのか――。
連載形式で更新していく予定ですので、ぜひ最後までお付き合いください。
まず先陣を切ったのは、彼女のほうだった。
合図となる指が“1”を折りきると同時に、まるで尻餅をつくように身を沈める。
そして、そのまま前転しながら、床に転がっていた筒状の遠距離武器を拾い上げる。
次の瞬間、敵対する男たちが慌てて同じ型の武器をこちらへ向けるが、間に合わない。
彼女は前転の勢いを利用して起き上がり、金属光を帯びた道具を精密に構えた。
(ただの素人じゃない――見事な身のこなしだ)
視界の端で、彼女の指が小さく震えた。
次の瞬間、男たちの足元や腕に赤い飛沫が上がる。
撃ち抜かれたらしく、悲鳴が響き渡った。
急所こそ外しているようだが、十分なダメージを与えているらしい。
悶絶する彼らを横目に、まだ動ける男たちが彼女へ狙いを定めようとする――そこへ俺の出番が来る。
(あの筒状の武器……今銀髪の女が撃った飛翔弾と同じなら、十分斬るに足る速度だ)
いかに飛翔弾の威力が高くとも、“死神”と呼ばれた俺の剣技ならば斬り払うか避けるかは造作もない。
とはいえ、むやみに殺すのは好まない。
彼女も“制圧”を狙っている様子だし、こちらも可能な限り命は奪いたくない。
男たちが撃ち放つ弾丸の軌道は、集中すれば容易く見切れる。
腰を落とし、剣を逆手に持ち替えて構えた。
飛んでくる金属弾を横一閃で叩き落とすと、鋼がぶつかる嫌な響きが耳を刺すが、足は止めない。
一歩、二歩、三歩――一気に敵陣へ踏み込む。
焦った一人が乱射するが、狙いが定まらず、ほとんどが虚空へ散っていった。
何か甲高い声で恐れを叫んでいるようだが、正確な意味は分からない。
構わず、手前の男の膝下を斬りつける。
鋭い刃が血の弧を描き、男は膝から崩れ落ちた。
必要以上にとどめを刺すつもりはない。
もう一人が振り返りながら武器を引こうとするのが見えたので、剣の腹で腕ごと打ち落として遠距離武器を弾き飛ばす。
視線が合った相手の瞳には、濃密な恐怖が揺れていた。
慣れた兵士でも、これほど素早い接近戦には対応しきれないだろう。
同時に、銀髪の女は別の男の脚を撃ち抜き、握っていた武器を落とさせている。
どの男も命までは奪われていないようで、床に転がりながら呻き声を上げる。
彼女の落ち着いた射撃技術には驚くほかない。
(……いい腕をしているな)
そう思った刹那、彼女は部屋の奥へ走り出した。
先ほど見かけた“生贄”らしき女性を救うつもりか。
背後から狙う動きを見せた男は、俺が足を払い斬って行動不能にする。
武器を捨ててへたり込む者も多く、追撃の必要はなさそうだ。
「……っ!」
何か悲痛な声を上げながら男たちは後退し、部屋の隅へうずくまっていく。
銀髪の女は拘束具を外しながら、怯える女性を支えるように抱き寄せている。
何か優しい声をかけているらしいが、俺には分からない。ただ、その安堵感はひしひしと伝わってくる。
全体を見回すと、まだ筒状の武器を握りしめて震えている男が一人いた。
俺が一歩前へ出た途端、彼は引き金を引こうとする。
しかし――
銀髪の女が鋭い警告弾を撃ち込み、男の足元を派手に削った。
男は慌てて武器を投げ、地面へ崩れ落ちてしまう。
これで教団の連中は全員が戦闘不能というわけだ。
銀髪の女は“生贄”だった女を抱え、安全な場所まで移動させる。
つい先ほどまで冷徹な射撃を見せていたとは思えないほど、穏やかな表情で何事か話しかけている。
言葉は依然として分からないが、その優しげな仕草に救われる思いがした。
俺は剣についた血を軽く払ってから、逆手持ちを解いて通常の握りに戻す。
数名の男が床で呻いているが、致命傷を負った者はなさそうだ。
(悪くない連携だったな……)
そう思いつつ顔を上げると、銀髪の女と視線が合う。
彼女は助け出した女を座らせ、それから俺に向かって微笑みを浮かべた。
もしかすると「ありがとう」と言いたいのかもしれない。
俺は無言で“礼はいらない”と視線だけ返す。
周囲を警戒しながら、ひと息つこうとした――そんなとき、不意に脳裏をかすめた言葉があった。
「……Al’Zaraf……?」
思わず口にしてしまった自分に驚く。
目の前の彼女が魔王に似ているわけでもないのに、なぜか亡き魔王の名が脳裏をよぎったのだ。
自分でも理由は分からない。
だが、銀髪の女はその呟きを聞きとがめたらしく、ハッとした表情でこちらを振り返る。
問いただす間もなく、外から大勢の足音が迫ってきた。
壁が震えるほどの数――先ほどの教団員とは別の勢力か。
(ちっ……新手か?)
反射的に剣を握り直し、周囲を見渡す。
床には教団員たちがうずくまったままで動きはなく、となると、これはまったく別の連中だろう。
案の定、入り口から制服らしき服装を揃えた者たちが一斉になだれ込むと、統率の取れた動きでこちらを取り囲んだ。
さっきの男たちとは雰囲気が違うが、味方という保証はない。
本能に従い、俺は銀髪の女と“生贄”だった女性を庇うように前へ躍り出る。
すると制服姿の指揮官らしき男が、またしても筒状の武器をこちらへ向けて何か怒鳴った。
言葉は分からないが、抑えきれない緊張感がひしひしと伝わってくる。
銀髪の女が止めようと近づいてきたのを、俺は思わず片手で制する。
どこの連中か知れぬ以上、下手な動きは危険だ。
だが、彼女は“大丈夫”とでも言うように目で合図し、指揮官へ何か言い合いを続ける。
周囲の隊員たちは相変わらずこちらへ武器を向けているが、やがて指揮官と彼女の声がいくらか落ち着いた調子へ移ったのがうかがえた。
すると、彼女は振り返り、両手を広げてから床を指す――「武器を捨てろ」という意味だろう。
(……この場は、彼女を信用するしかないか)
ここで拒めば、さらなる戦闘が起きるかもしれない。
先ほどのやり取りから察するに、銀髪の女は俺を守ろうとしている。
その気持ちを汲まねばならない。
わずかな逡巡の後、俺はゆっくりと剣を下げ、柄を離した。
ザクッ……
石床をわずかに穿つ音とともに、双剣が突き立つ形で落ちる。
剣士としては死に等しい行為だが、背に腹は代えられない。
視界の端で、銀髪の女が小さくうなずいた様子が見えた。
(さて、こいつらはどう出る……?)
身構えたい衝動を飲み込み、俺は拳を軽く握ったまま相手の出方を窺う。
緊迫感がなおも室内を包み込む中、事態は新たな局面へ移ろうとしていた。
最後まで読んでいただき、本当にありがとねぇ!
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マジです。