28.世界を裂く終極の一刀──ラティーシャの娘と死神の激突
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見逃さないようにブクマだけでもしてもらえたら!
作者は(。≖‿≖ฺ)ニタァってしてます。
嬉しいからね。仕方ないね。
・前回のあらすじ
因縁まみれの死神剣士・ヘルメスと、母の仇を討たんとする魔眼使いセシリアのバトル、ますますヒートアップ!
崩れかけの研究所を舞台に、空間を歪める魔眼 vs ゼロカオスを纏った月影が火花を散らし、周囲はほぼ廃墟状態。
ラティーシャの面影に動揺してたヘルメスだけど、もう覚悟を決めて全力の一撃に挑む!
果たして、この歪んだ復讐劇はどう決着するのか?
絶対に誰も見殺しにしたくない死神が最後の踏み込みをかますところで、次回に続く!
連載形式で更新していく予定ですので、ぜひ最後までお付き合いください。
あれは、まだラティーシャが十五歳になったばかりの頃。
馬の蹄が草原を踏みしめるたび、柔らかな緑の香りと春のそよ風が頬を撫でていった。
俺の背には、あどけなさの残るラティーシャがしっかり掴まっている。
金色の淡い髪が、楽しげな笑い声と一緒に風の中ではね、耳をくすぐる。
「速いです……! でも全然怖くありません。先生と一緒だから、すごく安心で……」
弾んだ声に振り向きはしないが、「落ちるなよ」とだけ返すと後ろから「はいっ」と明るい声が返ってきた。
この馬はやや荒い性格だが、ラティーシャに怯む様子はない。
むしろ、草原を全力で駆ける高揚感が、彼女の瞳を一層輝かせているのが伝わってくる。
「ところで……先生って、すごく強いし “死神”っていう怖い異名があるじゃないですか?」
一瞬、胸の奥がざわつく。
だが彼女の声音は畏怖というより好奇心と、少しのからかいを含んでいるようだ。
「そう呼ばれているのは知ってるが、何が言いたいんだ?」
馬の速度をやや落として問い返すと、ラティーシャがくすりと可愛らしい笑いを漏らした。
「先生は優しいですから。戦うときは恐ろしいほど強いけど、本当は迷いやためらいがあるでしょう? だから‘死神’なんて似合わないです。むしろ‘甘々’ですよね?」
「……甘々、か」
自分で言うのもなんだが、戦場では迷いなく斬り捨ててきたつもりだ。
それでも刃先が敵を断つ直前にかすかな躊躇があるのなら “甘い”と呼ばれても仕方ないのかもしれない。
「でも、その“甘さ”があるから、先生はいろんな人を救えたんです。だから皆が先生を‘英雄’って言うんですよ。もっと胸を張っていいんです」
「まったく……口ばっかり達者になったな、ラティーシャ」
遠くに見える地平線を見つめながら、俺は思わず苦笑する。
血と汗にまみれて歩んできた人生の中で、こうして馬を走らせ笑い合える時間がどれほど貴重か痛感する。
「もし私が‘化け物’になっちゃったら……先生はちゃんと斬れますか?」
「余計なこと考えるな。縁起でもない」
彼女が微かに含み笑う気配がして、春の風がふたりの周囲を軽やかにすり抜けていく。
胸の奥がほんのり温かくなるのを感じた。
「先生の‘甘い’ところ、私は好きです。だからこそ先生を信じられるし、先生のやってきたことは もっと報われるべきだと思います」
「……そうだといいんだがな」
小さく息を吐くと、まるで世界全体が優しく微笑んでくれたように思えた。
「私が将来、普通の幸せを手に入れて……子どもができたら 先生が守ってあげてくださいね?」
「夫に守らせろ。できないような男なら認めんぞ。……まあ、そのときは考えてやる。しっかりつかまれ、加速する」
そう言って馬に拍車を入れると、ラティーシャの笑い声が春風に溶けていった。
その声は小鳥のさえずりのように軽やかで、聞いているだけで心がほどけるようだ。
背から伝わる彼女の体温を感じながら どうかこの平穏が続きますようにと願い、さらに手綱を握りしめる。
馬は速度を上げ、草原を風のように駆け抜けていった。
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草原の記憶が遠ざかり、意識は凍てつく廃墟の研究所へと引き戻される。
瓦礫や折れた鉄骨が無数に散らばる中、赤い警告ランプだけが断続的に瞬いていた。
俺は左肩の痛みをこらえつつ、《月影》を握り直す。
先ほどの交戦で、互いの手の内はある程度見えてきた。
セシリアは魔眼を使って空間を歪め、暗殺術のような俊敏な動きで翻弄するタイプだ。
だが今の俺には、彼女が歪みを発動する直前に視線や重心を微妙に変える様子がわかる。
そこを突けば、先ほどほど苦しまずに対処できるはずだ。
「やはり、ただの‘剣士’じゃありませんね。 でも……母を殺した恨み、ここで清算させてもらいます」
紫と金が入り混じるオッドアイを妖しく光らせたセシリアは、殺意を帯びた声を静かに響かせる。
俺は床に広がる微かな歪みに合わせ、月影を横に薙いで牽制する。
金属が軋む振動が足元に伝わり、一瞬だけ空間のゆがみが解ける。
「なるほど。先ほどより手際が上がりましたね。 でも、それだけじゃ私に届きませんよ?」
彼女が妖精のような軽いステップで後方に下がると、右手のナイフを素早く振り下ろす。
黒い残光が視界を裂くように迫ってくるが、今の俺ならゼロカオスをまとった月影で正確に受け流せる。
跳ね飛んだ衝撃が床を粉砕し、粉塵が舞う。
続く連撃も同様にさばき、足元を惑わす歪みにも踏み込み角度を変えて対処する。
(最初は手を焼いたが、魔眼の仕組みさえわかれば対策はできる。‘見えた範囲’を曲げる前に、ゼロカオスで干渉を封じてしまえば……)
「くっ……こんなに私の魔眼を抑え込むとは。侮れませんね」
舌打ち交じりに息を整えるセシリアへ、俺はあくまで冷静な視線を送り返す。
彼女の魔力がまた高まってきたのがわかる。
「あなた、本気で私を斬る気なら、さっきの一太刀で十分やれたでしょう? けど狙いを外してる……甘いですね?」
その言葉に、一瞬だけ胸が引き絞られる。
確かに殺す気で挑むなら一瞬でも容赦などいらない。
だが、ラティーシャの面影を感じる相手を、本当にこの手で斬ることなど――。
「……ラティーシャの娘を俺が斬れるわけがない。 守るためにしか剣を振らないって、あいつと誓ったんだ。俺の‘甘さ’を一番よく知ってたのも、お前の母さんなんだよ」
(もう二度とあの地獄を繰り返したくない。ラティーシャとの約束を守るため、セシリアを“殺さずに止める”――矛盾しているかもしれないが、俺はそう選んだ)
胸に渦巻く思いを押し殺し、再び月影を構え直す。
追いつめても殺さない――そんな難題を俺は選んだ。
「母の話をしないでっ……! あなたなんかに何がわかるんです!」
激しい憎悪を伴って、セシリアのオッドアイがさらに妖しくきらめく。
足元を支える空間が震え、まるで空気が凝縮されるような圧迫感に視界の端がじわりと白と黒に染まり始める。
「ならば見せてあげます。第二段階――開眼 偽界折衷!」
背筋を這うような不穏な気配とともに、周囲の景観がドロリと溶け崩れはじめる。
月影にゼロカオスをまとわせても、空間そのものがねじ曲がっていくため思うように切り込めない。
「ちっ……!」
上下左右の概念さえ揺らぐ。
濃淡が混じった景色がぐにゃりと歪み、身体ごと異なる次元へ引きずり込まれるような衝撃に足がすくむ。
先ほどの束縛など可愛く思えるほどの重圧だ。
(俺が、こんなに身動きとれなくなるとは……しかし後退するわけにもいかない)
脳裏に蘇るのは、あの草原でのラティーシャの笑顔。
あの安らぎを守れなかった後悔。
再び繰り返すわけにはいかない。
「……仕方ねえな。もう一歩、踏み込むしかない……!」
今にも呑みこまれそうな歪みに抗うように、俺は月影の握りを改める。
振り払えず、退くこともできない状況なら、ここで切り札を解放するしかない。
耳を打つような轟音と赤い警報ランプの閃光が、廃墟の通路を不気味に反響させている。
「――斬る。たとえそれが“世界”そのものでも」
ゼロカオスを最大限まで高め、封じていた終極の剣技に向けて力を集束する。
月影の刃先に淡い燐光が宿り、周囲の空気を断ち切るような鋭い気配を漂わせた。
一方のセシリアも、深い闇と光を交錯させた“偽界”をさらに拡張し、魔眼を妖しく輝かせようとしている。
やがて視界が一気に歪み、白黒の光が入り乱れて世界の境界を切り崩すような感覚が襲う。
廃墟を照らす警告ランプが赤いフラッシュを脈打つたびに、空間を掻き乱す重低音が辺りに轟き渡った。
(いける。この一刀で打ち破る。ラティーシャ、お前との誓いを無駄にはしない)
ひときわ強い閃光が走った瞬間、俺はまばゆい残像を引くように月影を振り上げる。
深い闇がさらに押し寄せる中で、“結末”へ繋がるはずの一撃が切り結ぼうとしていた。
赤黒い稲光めいた煌めきが視界を塗り替え、静寂に沈んだ廃墟の空間へ、白い閃光が焼き付くように広がる。
しかし、まだ何も確定してはいない。
激突がまさに始まろうというこの瞬間――物語は、さらに深い混沌へ飲み込まれていくのだった。
最後まで読んでいただき、本当にありがとねぇ!
評価やブックマーク、レビューを頂くたびに、作者は嬉しさの余り阿波踊りしてます。
ラティーシャさん可愛いですよね。いつかスピンオフ書きたい。




